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Page106-5

2021年11月29日 完成(1日以上遅刻)


 魔神に襲われている男を助ける為に飛び出す。

 そこに篠鶴機関からの『裁きの光』が振り落とされる……




【5月5日(火)・朝(10:32) 篠鶴地下遺跡群最深部・疑似水瀬海岸】




 天地を震わせる衝撃は明らかに二人の想定外である。

 八朝(やとも)は3秒も保てずに、隊長は照準をズラされる。


「ぐ……っ!」


 まだか、まだかと引き延ばされた1秒を浪費する。

 天頂星(メディウムコエリ)の光を損なうように障壁魔術の文様が蠢く。


 加速した思考の中でも死の恐怖に染まる速度は同じ。

 目を見開いているのはその余波で、お陰で更に余分な情報が入って来る。


 それは、『記憶遡行(ギフト)』を発動させたときのような頭痛で……


(くそ……あんなものが今更見えたところで……!)


 今の八朝(やとも)の視界は星光(メディウムコエリ)に焼かれて何も見えない。

 その純白を侵すように、始まりの幻視たる『大樹』が現れる。


 十の果実と、それを繋ぐ二十二の枝葉。

 それを以て『生命の樹(セフィロト)』と為し、『樹状呪詛(ギフト)』の根幹となる。


 無論、そんな記憶が介入できる『過去(よち)』なぞ無い。

 何故そんなものを見ることができたのか?


(……)


 迫りくる死から逃れようと思考を回して1.5秒目。

 障壁の現状と呼応するように大樹にも罅割れが起き始める。


 恐怖を齎す純白が罅割れから漏れて段々と満たしていく。

 それでも、大樹の影は残り続ける。


 大樹と上下逆の、真っ黒な三十二の忌まわしき秘跡(クリフォト)


(そういえば俺は……)


 八朝(やとも)が思い出したのはこの幻視の続き。

 障壁魔術を発動させ、『樹状呪詛(ギフト)』を発生させた『影握り』。


 これが正しいなら、最初から八朝(やとも)(クリフォト)を使っている。

 だが名前(パス)大樹(クリフォト)の方で、何故そんな顛倒が……


 ……否、名前(パス)すらも正規の名前を使っていない。

 ヘブライ文字ではなく、その祖たる原カナン文字を叫んでいる。


 確かめるようにもう一度影を、それを映す砂を握り込む。

 手の中にきらきらと細々とした星のような光が見えている。


(何が俺の力を変質させた?

 闇から光に、しかも祖の文字で成立するようにした犯人は……!?)


 まだまだ記憶は続く1.8秒目。


 ああ、忘れていた……障壁があってもダメージを耐えきる事は出来なかった。

 回復死(コマトス)に陥ったのか、指先一つすらも動かせずにいた地獄。


 その中で、化物(ナイト)の群れを見た気がする。


(双頭犬、巨虫、骨魚、羽虫霧、異形の集合蜘蛛、更に……)


 その後は最早現実に対応するものが無いカタチで言語にできない。

 段々とその証拠たる百鬼夜行が元の『霧』へと散じていく。


(クソッ……こんなところで……!)


 酷い頭痛と、既に肌が爛れ落ちる様な光が届く1.995秒。

 もう間に合わないと、霧を『霧』のままで呼び出そうとする。


 それが、彼に一つの軌跡を齎した。




 STR:1→0 MGI:1→0 DEX:3→4

 BRK:0→1 CON:0→1 LUK:0→4




■■(taw)!』


 無心で叫んだのは最も使い慣れた『霧』の真名。

 状態異常は持たず、逆に状態異常を受ける為の、正真正銘の『依代』。


 嘘偽りなく、アンドラスの毒を受けた男を殺そうとする『呪詛(もの)』を映し出す。


桃花曲脈(まがれ)対面起脈(かのめいうん)……)


 それは、龍脈を滞らせる氷の如きものに見える。

 洋を挟む思想になるが、毒とは気血を滞らせるものと相場が決まっている。


 ならば『永遠』から『基礎』の間を塞ぐ『顛倒(sad)』を押し流すには……!




内蓬潮散(しおつちのごとく)!)




 八朝(やとも)は砂の光を使って反閇(taw)をもう一段発動させる。

 そのまま男を侵す毒の中心である臍に一打を加える。


「がっ……!?」


 堪らずに男が苦しそうな声の末端で何かを吐き出す。

 漆黒の石が転がって以来、潮が引いたように体調が戻っていく。


 だが、そこで判断が遅れてしまったらしい。


「……光は!?」

「……間一髪で間に合ったわ」


 小銃を構えながら隊長がいつも通りに応える。

 こちらに来て、男の無事を確認すると八朝(やとも)の肩を叩く。


「やるじゃない」

「……相変わらず窮地に追い込まれないとだがな」

「それでも何も出来ない人よりかは遥かにマシよ」


 それが隊長の自嘲だと気付く事はできなかった。

 今の八朝(やとも)は、この男を救った『理不尽』で頭が一杯である。


(……結局俺は何も思い出せなかった

 思い出せないままに『(taw)』を発動できた)


 まるで猿の打つ文字が偶然『ヴェローナの二紳士』を真似たように

 八朝(やとも)の異能力の仕組みを再び元の霧中へと還していく。


 その後の顛末といえば、予想を超える多忙となった。

 何しろこの男を助ける為にヘッドハントするのは報告義務のある重要事項。


 終日まで隊長と共に報告書作成に頭を悩ませることになった。




◆◇◆◇◆◇




 ・『(taw)』のみ使用可能となった

 ・男の素性は後日、目を覚ましてからゆっくりと聞こうと思う




Interest RAT

  Chapter 16-e   蜘蛛糸 - Salvage Contract




END

これにてPage106、再起の道の回を終了いたします


意外にも早く異能力を取り戻せたみたいですね

仕組みは不明ですが、今度は無くさないように大切に


それにしても篠鶴機関には人の心が無いんですかね?

確かに魔神と犯罪者を一緒に消し去れれば効率的なのですが……


そしてこの回もプロット外の展開であります

本当なら『見殺し』となっていたこの男の素性や如何に(本当に分からない)


次回は『脱走』

それでは引き続きよろしくお願いいたします

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