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Page106-3

2021年11月27日 完成(1日以上遅刻)


『篠鶴機関が新種の七つ目(エレクトラ)級を全て地下空間に封印したと……』

『現在も『機関派』と『鳴下派』の対立が続き、

 水瀬海岸祓魔壁(シェルター)における紛争は激化の一途を……』




【5月5日(火)・朝(8:30) アイリス社智慧区画・フラウン隊控室】




 テレビを消して、本日の最新情報を咀嚼する。

 たった二日なのに篠鶴市は戦争一歩手前の状況に陥っていた。


「おはよう、早かったわね」

気絶無効(レフト)が効いているからな」

「そう……」


 隊長は頷きながら『死のカウントダウン』が再開されたことを確信する。

 だが、八朝(やとも)がそれほど気にしている様子でもないので無視する。


「それで、早速『手帳天狗』を探しに行くのか?」

「……皆まで言わなくていいわよ、出来る筈が無いじゃない」


 隊長が憮然と席に着き、煎餅を齧ってそっぽを向く。


 今のフラウン隊は『状況』と『英雄』の2要素で篠鶴市での活動ができない。

 無理に活動すればアイリス社の『欺瞞』すら貫通して社に不利益を齎す。


 これは社長命令による謹慎なのであった。


「それでも諦める事はできない、そうだろう?」

「簡単に言ってくれるわね」

「そりゃそうだ、何しろ一つだけ方法があるからだ」

「へえ、聞かせてもらえるかしら」


 という事なので部長に辰之中の正体たる『祈りの間』の話をする。

 篠鶴市と全く同じ状況を再現し続ける、という調査にうってつけの大空洞。


 だが、場所が問題であった。


「それは非常に興味深い話ね

 七十一の魔神(エレクトラ級)を掻い潜れられればの話だけど」

「そう……だな……」


 一瞬魔神を倒した経験を口にしようとしたが苦い顔になる。

 あの時にあった『樹状呪詛(ギフト)』は無く、再現性に乏しい。


 これでは社長命令を背けるほどの説得力を得られない。


「せめて『銃弾』さえあればね……」


 部長が傍らの小銃を見つめる。

 それは篠鶴機関職員が使っている『死体漁り(コープスピッカー)』と瓜二つ。


 何故そんなものがという理由は一つ。

 この『死体漁り(コープスピッカー)』もアイリス社が作ったものだから。


 だが本体である『銃弾』がゼロであれば単なる置物に過ぎない。


「銃弾ならあるぞ」

「え?」

「ほら、これだけあればいいか?」


 八朝(やとも)が隠し持っていた銃弾をばらばらと広げる。

 隊長が幾度となく検分を施しても、それが本物であるとしか分からない。


 死体から取り出すという設計思想から、使用済みでも問題は無い。


「……何処でそれを?」

「篠鶴機関が戦っている場面から少々拝借させてもらった」

「随分と手癖が悪いわね」

「そうでもしなければ俺は何度も殺されていた」


 苦言を呈しながらも隊長は慣れた手つきで銃弾を込める。

 そんな手の動きを真似て八朝(やとも)も装填を完了させる。


 すると今度は隊長から見つめられる。


「……何かおかしいか?」

「いえ、特に何も

 貴方が修羅場を掻い潜った理由に気付いただけです」


 そして隊長が銃を構えて実際の運用を確認する。

 それが八朝(やとも)へのレクチャーだと気付けるのはそうそういない。


 小銃を置くと、今度は具体的なルートについて詰める。


 目的地は『水瀬海岸祓魔壁(シェルター)

 彼女曰く、『手帳天狗』が表立って動ける場所はここだけだという。


「『手帳天狗』達の目的は、大人の排除のみ

 そこには非能力者・異能力者の区別は無い、ここまでは分かる?」

「ああ、勿論

 それで鳴下派の、しかも目下で最も危険な拠点を選んだのは?」

「それは貴方の昨日の話を検討したから

 貴方が思い出せると言った人物達をもう一度言って御覧?」


 そう言ってマスター達や教職員・教官、そして鳴下家現当主と口にする。

 そこで、八朝(やとも)がこの集団の偏りを呆然と口にする。


「……『篠鶴機関』関係者ばかりだ」

「そう、彼等は『篠鶴機関』の人間を襲っていない

 襲えない方なら今すぐ出動できる理由になるでしょうけど……」




「……鳴下(なりもと)さんの『両親』の話も全然聞かなかったから」




 隊長の指摘に八朝(やとも)も納得する。

 彼すらも鳴下(なりもと)の『使用人』なら知っているが『両親』は話にも出ない。


 それが鳴下家特有の現象だと思っていたがどうも違う。

 あの本家の間取りの中に、彼女の両親が存在した痕跡が無いからだ。


 以上により、防護策の無い『鳴下側』に付くと考えた方が良いだろう。

 そして祓魔壁(シェルター)での混乱というのも彼等のプラス要素となる。


(……クソッ)


 八朝(やとも)が身近な被害者の話に内心焦り始める。

 マスター達が篠鶴機関側なら消される心配は無いが、それも状況次第。


 次の瞬間にはそういった期待が裏切られる。

 そんな瞬間を幾度となく見てしまったが故の険しい顔であった。


「準備は出来たかしら」

「ああ、勿論だ」


 そう言って八朝(やとも)が小銃を持とうとすると止められる。

 代わりに隊長が拳銃を取り出して弾を換装するよう言い渡す。


 考えてみれば近距離(クロスレンジ)主体の八朝(やとも)に小銃は邪魔である。


「それじゃあ、エスコートして頂戴」

「……そういう冗談は止めてもらえると助かる」


続きます

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