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Page106-2

2021年11月26日 完成(1日以上遅刻)


 社長に呼び出され、仕事内容を説明してもらう。

 細かい質問を無視され、更に配属先の同僚の紹介をされてしまう……




【5月4日(月)・朝(10:04) アイリス社基礎区画・ゲストルーム18】




「部長……なのか……?」


 目の前にいるのは今は無き篠鶴学園・第二異能部の部長。

 だが、部長がその呼びかけに反応することは無かった。


「ほう、知っておるのかい

 彼女がフラウン隊のリーダー、つまりお主の上司じゃ」

里塚真白(だとづかましろ)よ」


 握手を求められたので応じることにする。

 その眼からは敵意と不信感と何故か恐怖の色まで感じる。


 前二つは『墓標(メトセラ)との内通』に対するもので間違いないが

 少なくとも恐怖を覚える様な対象は存在しない筈。


(……寵愛に気を付けろ、か)


 紹介が滞りなく完了するのを見るや否や社長が退室する。

 暫くして足音が遠くなったところで部長が大きな溜息を吐く。


「どうしたんだ?」

「さっきの、割と危なかったわよ」

「……寵愛に気を付けろって事か?」


 無言で首肯する部長。

 詳しい事情は分からないが、その教訓を刻んでおく。


「……記憶があるんだな」

「ええ、勿論

 一度たりとも忘れたりはしないわ」


 そう言って部長が方位磁針の方の依代(アーム)を呼び出す。

 どうやら『巻き戻す前』から記憶を保持しているらしい。


「それと、今の私は隊長よ」

「ああ分かった、隊長」

「よろしい、では私たちの任務を説明するわ」


 そして隊長からフラウン隊の説明を受ける。


 重要事項に対する報告義務はあるものの

 狙う相手の特殊性からある程度本社と独立して動くことができる。


「特殊……?」

「ええ、それを説明する前に一ついいかしら」

「別に構わないが」




「貴方は周囲の大人を思い出せるかしら」




 非常に奇妙な事を聞いてきて思わず首を傾げる。

 そう言われて思い出すのはマスターやその周囲、鳴下家、そして篠鶴機関。


 ……特殊な権力にいる者しか、思い出せない?


「ある程度は思い出せるが

 それは単に学生という身分だからで片付かないか?」

「それじゃあ質問を変えましょう

 例えばレストランの客とか電車に乗ってる人とかは?」


「………………あれ?」


 何故か靄が掛かったように思い出せない。

 普通なら顔や言動が思い出せなくとも体格や服装は思い出せるのに。


「それが私たちの相手

 大人だけを消し去る異常個体、『手帳天狗』と称しているわ」

「天狗……?」

「……社長からの命名よ」


 渋々とそう言って件の手帳天狗の特徴となる物を取り出す。

 一冊の書籍であるが、特に何の変哲もない、強いて言えば文字の多い……


「……何も書かれていない?」

「そう、彼等はこの書籍を使って消し去る

 私は見た事ないけど、死んだ部下が現場を見たって」


 それから手帳天狗を説明するが、それよりも気になる事がある。

 彼女が『死んだ部下』と称したこの一言である。


 『社長の寵愛』を匂わせる言い方だが、その実全く別の死因。

 恐らくは『墓標(メトセラ)』による『モール落とし』によるものだろう。


 何しろこの『フラウン隊』は現在2人しか存在しないからだ。


 それに、この書籍は『メモ』と同じく『空白の書』である。

 つくづく弘治(こうじ)関連の置き土産が足を引っ張る。


「……以上が手帳天狗の概要よ

 まあ貴方の『目的』とも繋がる内容だから安心して頂戴」

「どういう事だ?」

「聞けば貴方は『端末』の方は知っているのに本体はそうでもない

 例外的なのだろうけど、彼女も手帳天狗の被害者かもしれないわ」


 確かにそう考えられなくも無いが苦い顔になる。

 説明できないのは覚える前に全てが終了してしまったからだ。


 だが、手掛かりには違いなかった。


「それは助かる

 俺も辻守(つじもり)比婆(ひば)鳴下(なりもと)の事も気に掛けよう」

「……みんな元気?」


 八朝(やとも)が静かに首肯する。

 ようやく部長、もとい隊長が微笑んだような気がした。


 特に比婆(ひば)は彼女の恋人にして、手帳天狗の標的たる成人。

 隊長にとっても気が気でない要素なのだろう。


「言い忘れてたが、今の俺は能力(ギフト)が無いぞ」

「ええ、それも承知してるわ

 余裕が出来れば回復訓練も付き合ってあげる」

「回復訓練……そんなのがあるのか?」

「あくまでそう言っているだけよ

 部員の異能力はすべて把握しているわ、それとここの設備を加えれば」


 隊長がやや得意げに回復訓練の話をする。

 どうやら万が一の保険があると分かった時点でこちらも表情が緩む。


「それじゃあ明日からよろしくね

 場所も端末(RAT)に送ったから、くれぐれも遅れないように」

「そりゃ仕事だしな、了解した」


 そして初回のミーティングが終了した。

 二つの『懸念事項』を残したままフラウン隊としての生活が始まった。


続きます

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