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Page106-1:5月4日(月)・丁未日~

2021年11月25日 完成(1日以上遅刻)


 八朝(やとも)の危機を救ったのはアイリス社の代表その人であった。

 彼女の転移魔術によりアイリス社の宿舎に通され、一夜が明けた……




【5月4日(月)・朝(10:04) アイリス社不明区画・宿舎303号室】




 瞑想を終えると、視界が緩やかに現実へと戻る。。

 状態異常(ギフト)に見放され五里霧中だった背景が蛍光灯の閉鎖空間へ。


 別に狭くもない1LDKに一通りの生活道具が整然と配置されている。

 過ごしにくくは無いが、やはり慣れ親しんだ物がないのでは心許ない。


 だがそれ以上に問題なのは窓が無い事である。


(地下にある社屋だから致し方無いとしても、健やかには過ごしにくい)


 それまで当たり前にあった筈の朝の光が失われる。

 たったその程度の変化でこうも時間感覚を奪われるのは驚きである。


 そして入所前に渡された『業務用端末(B-RAT)』を確認する。

 今日の予定は11時にゲストルーム18で社長と対面、12時に配属。


(随分と余裕が無さそうだ)


 八朝(やとも)が遅めの朝支度を開始する。

 『施設内で迷子』というアクシデントを見据えてさっさと済ませる事にした。


 制服の指定は無いので学校のものを流用する。

 そして部屋から出ると予想通りの迷宮具合で頭を抱える。


(……確か社長室と同じ階層だからここから下に)


 下に行くためのエレベーターまでに何度角を曲がった事か。

 しかもエレベーターの先も特に変わり映えが無いというのが恐ろしい。


 端末とにらめっこしていると他の社員に声を掛けられる。


「君が八朝風太(やともふうた)君ね、案内するよ」

「……助かる」

「いいって事よ、僕も未だに迷うし」


 彼はどうやら八朝(やとも)と同事業部の他班であるらしい。

 なので兼ねての疑問であった仕事内容を聞くも曖昧にしか答えてくれない。


 更に、よく分からない言葉を残してくる。


「君に言える事は一つ、社長の寵愛には気を付ける事」

「……それは余分に仕事を回されるからって事か?」

「まあそのうちに意味が分かるよ

 あ、ここがゲストルーム18だ、それじゃあ僕はこれで」


 そして男は足早に仕事場へと戻っていく。

 ゲストルームで社長を待っている間に気になる事が2点。


(……やけに大人が多かったな)


 今まで篠鶴市で過ごしていて気になったのは大人の存在感。

 ここが企業という環境もあり、今までと比べて大人が多いように思える。


 それが単に『興味が無かっただけ』なら良いのだが……


(あとは、随分とフランクだったなさっきの人

 いや、この会社全体が何となく緩い空気のような……)


 案内してくれた男は言うまでもなく、他の人すら然程変わりない。

 背広を着ている人もいたが、どことなくファッションの趣すらあった。


 まるで篠鶴学園そのままのような……


「やけに早いではないか、感心感心」


 そこにアイリス社の社長がポテチ袋持参でやって来る。

 一般的な『面談』のイメージと大きくかけ離れたそれが始まる。


「随分と自由なんだな」

「裁量に任せている、でなければあの激務は熟せまい」

「と言うと、一体俺に何をやらせるつもりだ」

「実に簡単なことじゃ」




「お主には『異常個体』の監視を行ってもらう」




 曰く、これがアイリス社の存続理由なのだという。


 『建築狂(シムノン)』と『魔術狂(アルマン)』がこの町を作って以来

 互いの設計思想の『違い』からこうした『異常個体(エラー)』が生まれるという。


 例として霊長(メローペ)級や妖精(エルフ)、転生者などが挙げられた。


妖精(エルフ)……?」

「食いつくではないか、即ちそういう事である

 お主はここで全てを駆使しエリスとやらを探すがよい」


 不敵な笑みで八朝(やとも)に破格の条件を提示した。

 業務の範囲内で、と注釈されるも違和感が拭えるところはない。


「大変有り難いが、だからこそ説明不足だ」

「説明も何も、これが妾の社是であるぞ

 人心離れれば些事すら通らぬ、お主もそう思うだろう」


 全く答えにもなっていない事を口にする。

 それは『前の6月』の傍若無人振りと相反する側面であるからだ。


 だから、通じないことを承知で質問を投げる。


「同感だな、『七含人』を捨てた人間とは思えない言い方だが」

「ほう、まだ試すか

 ならば今まで会った社員の顔を思い出すがよい」


「妾が大切にするのは『人』だけじゃよ」


 要は社員以外を人間扱いしていないという意味である。

 草の根を担当する『営業』が存在しない以上、有り得た話である。


 ここを『学園』みたいだと評した感性は見事に否定された。


 その実、篠鶴機関と同じく『監獄実験』の獄吏側しかいないという歪さ。

 違いがあるとすれば、アイリス社の方が責任に乏しい所である。


「話は以上のようじゃな

 では後は若いのに任せる事にしよう」


 そう言って社長が社員番号で誰かを呼ぶ。

 1秒のタイムラグでゲストルームのドアが開かれる。


 そこには意外な人物がいた。


「部長……?」


続きます

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