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2021年11月23日 完成(1日以上遅刻)
戦況の膠着という最悪の状況に陥る。
そして『ミチザネ』も平常の視界に収まるようになり……
【5月3日(日)・夜(23:38) 北水瀬地区・水瀬海岸】
「……ッ!」
『ミチザネ』がもう見えてしまっている。
背後の街からは『眷属』による破壊音まで届いてくる。
なのに、目の前の相手を倒しきれない。
「もうすぐです
もうすぐ僕は『ミチザネの天象』を手に入れられるんです!」
ここにきて鹿室の攻撃が激しくなる。
一見すると吸収・補修する障壁魔術にとって有利な状況であるが現実は違う。
それは『余波』の存在である。
先程の魔神が塵旋風を粉塵爆発に変えた際に用いた火種は『魔術』。
即ち、鹿室の能力は防げてもそれによって荒れ狂う自然までは防げない。
(ダメージを喰らい過ぎている……!)
度重なる罰則によって頭の中にも霞が出始めている。
有利を取ったつもりが、その実は単なるジリ貧であったことに気付く。
これが異能力の『位階』による絶対的な力量差であった。
「何故貴方は抗うのです?
無実の罪で貴方をお尋ね者にした『篠鶴市民』のどこに守る理由があります?」
「……ッ!?」
「ほら、何度依代を壊されても貴方は立ち上がる!
その先に待っていたのは『本物を乗っ取った悪魔』という心無い一言!」
「もう楽になった方がいいのではないでしょうか?」
膝を付きそうなところを『灯杖』を呼びなおし
両手で支えてそれを防ごうとする八朝の涙ぐましい努力。
本当にその先には何も無い。
予想されるのは賞賛でも放置でもなく濡れ衣。
幾度となく彼等から味わった『搾取』に歯を食いしばる。
「……何も無くても、続けちゃ駄目なのか?」
「ああ、お得意の『仲間がいるから』でしたっけ?
それじゃあ、貴方に免じてちょっとぐらいは待ってあげましょうか」
本当に攻撃の手を止めてくれた鹿室。
その静寂の先に、先程と変わらぬ破壊音や怒号が遠雷のように微かに。
誰もここに興味を持っていない。
「全然誰も来ませんね、まあ当然と言いましょう」
「……」
「三刀坂さんは言うに及ばず
他の人だって、『ミチザネ』に恐れをなしてそれどころじゃない」
「これが現実なんですよ」
鹿室は未だに手を差し伸べてくる。
これが『説得』の為の戦いだと言わんばかりだが
ならば序盤の言い放った一言は一体どうなったのか。
「……だからお前の考えに乗れってか?
そうしたらお前は一体何をしてくれるんだ」
「そんなの言うまでもありませんよ」
「彼の『天象』で貴方諸共篠鶴市を地図上から消し去ります」
仕方ないですよねと言わんばかりの返しである。
余りにも普通のトーンが、逆にこの場では不気味さに彩を与える。
「あまり言いたく無いんですけど、恩知らずなんですよ彼等
どれだけ頑張って『使命』すら割いて助けても返してくる言葉は同じ」
「その病気治るといいな、ですって!」
それは数日前の自分と全く同じ論理。
だが出された答えは『無視』ではなく『排除』という取り返しの付かない物。
それは『無視』を貫いてきた鹿室、ひいては未来の八朝の末路。
再び彼による『本物の嵐』が再開される。
泣き叫ぶような天象を前にしても彼の声だけは明瞭に届く。
「こんなんだともう『使命』以外やる意味が無いですよ
寧ろ彼等が子を作って次世代も続くだなんて想像しただけで吐き気がします!」
「……」
「きっと最初は貴方だけだった
でももう『魔王』はこの町の人全員の心の中にあるんです」
「だから全員殺すってか、くだらない!」
そんな反論は次なる雷の一閃で黙らされる。
この戦いの中で鹿室が『ルーンの戒め』から解放されたのである。
「ぐあっ……!」
「強がらなくでも大丈夫です
貴方の恨みも僕が引き継ぎますのでご安心ください」
とうとう耐えきれず崩れ落ちる八朝に勝利宣言。
無防備に掲げる魔法剣のその先に、全てを飲み込む暗雲。
23時45分、『ミチザネ』着水
『Roonjmd!』
鹿室の思惑通り『雷雨』が石に封じられる。
余りにも強すぎて岩とも言うべき姿になっていくが拡大は止まらない。
「僕はこの試練を乗り越える! そして……!」
『天地辛金』
そんな彼の魔法剣が唐突に甲高い音を立てて真っ二つ。
普通なら『即席神託』がその予兆を掴んでいる筈が
八朝を倒すために『ルーン』を捨てたのがここに響いてくるとは思うまい。
鹿室では罰則を耐える事が出来ずに失神した。
「柚月!」
一人の青年の恐ろしい計画を止めた少女の元へ。
その原因となる後方からの夥しい雷の足音から守るために。
『Hpnaswbjt!』
続きます
(実は沓田を登場させようかと最後まで迷った)




