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Page105-3

2021年11月21日 完成


 魔神・■■■の討伐に成功する。

 だがその一瞬の隙に鹿室(かむろ)が攻撃を仕掛けてきた……




【5月3日(日)・夜(23:15) 北水瀬地区・水瀬海岸】




「何のつもりだ、鹿室(かむろ)


 未だに魔法剣(アーム)の切先をこちらに向けてくる鹿室(かむろ)

 そんな彼の顔に張り付いていたのは諦めにも見える絶望的なもの。


「先程あんな質問をしておいてまだ訊くつもりなんですか?」

「ああ、だから確認の為にだ

 鹿室(かむろ)が転生者としての『使命』に吞まれていないかどうかの、だ」


「それなら改めて言うまでもないでしょう」


 鹿室(かむろ)は会話を打ち切りたいと言わんばかりの表情。

 何かあると思案するまでもなく、肝心の現象が起きていないことに気付く。


「……『篠鶴機関』召喚を止めているのもお前か?」

「御名答、今の『篠鶴機関』はこっちなんですよ」


 鹿室(かむろ)が懐から拳大の大きさの石を取り出す。

 『天象』のみを封じるだなんて嘘っぱちである……いやそうさせてしまった。


 表面に描かれた『秘匿(ペルス)』のルーン文字がくっきりと見える。


「……それを使えば目的達成だろ?」

「親友にそんな不義理なんて出来る筈が無いですよ

 僕は八朝(やとも)君に正しく勝って、その上で目的を果たすんです」


 そう言って鹿室(かむろ)が上空を見つめる。

 あの魔神もそうであったが、そんなにも『ミチザネ(アルキオネⅢ)』が気になるらしい。


 尤も、彼の場合は打倒ではなく『利用』にあるのだが。


「お前の能力(ギフト)なら『雷雨』も完封できるだろうが

 その間にどれほどの死者が出てくるか想像したことがあるか?」

「……その言葉、そっくりそのままお返ししますよ大量殺人鬼」


 ああ、と彼の言動に落胆と悲嘆が込み上げる。

 恐らく彼も何かしらのルートで八朝(やとも)の過去を知ってしまったらしい。


「ですが、僕はその点から八朝(やとも)君を詰りはしません」

「どういう事だ?」




「魔王は八朝(やとも)君だったのですから」




 余計に意味の分からない言いがかりを付けられる。

 反論しようにも次なる言葉が八朝(やとも)にそれを許しはしない。


「邪宗イザナミ教、その最後の宮司の名は『八朝(やとも)

 最初に会ったその時から僕は八朝(やとも)君を疑っていました」

「……」

「でも僕のイメージとは全然違いました

 どころかどれだけ傷つけられても貴方は篠鶴市の為に動き続けた」

「だったら……」


「それが元の世界への裏切り行為だと気付かないのですか?」


 八朝(やとも)はその返しを聞いて確信に至る。

 鹿室(かむろ)は最初から篠鶴市に対して何も思っていない。


 恐らくは彼が信じる『使命(オーダー)』の障害物という認識なのだろう。


「僕の世界はイザナミ教に全てを破壊された

 仮初の平等は放任主義でしかなく、荒廃と贅沢しか存在が許されない」


「僕はそんな大悪を切り裂いたのです

 そして世界は平穏に戻ったのです、なのに何故まだ存在しているのですか?」

「……そんな事を俺に言われても困る

 俺もイザナミ教の被害者の一人だ、何も知らない」

「貴方が鷹狗ヶ島出身の時点で被害者になる訳が有りません」


 どうやらこれ以上の問答は無用らしい。


 彼に勝つには『天象封石』という天候を操る能力(ギフト)に抗わねばならない。

 更に『即席神託(ルーンキャスト)』による魔術的回避も掻い潜る必要がある。


 おまけに制限時間はもう30分も残されていない。


「最後に一つ、俺を倒せば異能力が消え去ると?」

「ええ、そういう『使命(オーダー)』なのですから……」


 ここに短くも掛け替えのなかった友情がまた一つ消え去った。

 そして残ったのは『篠鶴市を守る暗愚』と『魔王を殺す道化師』の血染舞台。


 そこに両者の怨念(スペル)が響き渡る。


Roonjmd(ルーンジンド)!』

桃花曲脈(まがれ) 星辰起脈(わがめいうん)


 鹿室(かむろ)の一薙ぎから、きらりともしない雹の雨が襲い掛かる。

 相変わらず長ったらしい詠唱(スペル)のせいで相手に先行を許してしまう。


 だがそれも当たらなければ意味が無い。


瀉血玄黄(いぶきとなせ)!』


 八朝(やとも)の反閇が雹の雨の僅かな間隙をするすると導く。

 無傷のまま鹿室(かむろ)の懐に飛び込めたが、相手も一筋縄ではいかない。


 『森林火災』を纏った剣が真上から睨みつける。


Roonjmd(ルーンジンド)!』


 鹿室(かむろ)の顔には呆気なさに対する落胆が見て取れる。


 こんな簡単に決着するぐらいなら

 さっさと倒してしまえばどれほど苦しまずに済んだのか。


 だがそんな余裕は有り得ざる『反射』によって顔面蒼白の危機へと豹変する。


『……!? Roomj……』


 八朝(やとも)の『龍吼』が自然現象の筈の『天象封石』を押し流す。

 だが鹿室(かむろ)も豊富なステータスを利用した超反応で反射を回避しようとする。


 部分的な火傷を負い、その身代わりとなった魔法剣(アーム)に一筋の罅が入る。


「何が起きて……!?」


 だが一瞬で冷静さを取り戻した鹿室(かむろ)魔法剣(アーム)を突き出す。

 そこに先程と同じ暴風雨のストリームが出現し八朝(やとも)へと殺到する。


Hpnaswbjt(エプナスビュート)!』


 八朝(やとも)が詠唱を破棄して障壁を呼び出す。


 だがそれが本来の障壁魔術の使い方である。

 少ない力で起動し、相手の強大な魔術を使って補強し、優位を獲得する。


 故に、渾身の嵐が呆気なく障壁の前で蟠ってそのまま吸収される。


「やっぱり、僕の能力が『自然現象』じゃないのも……!」

「それは誤解だ、お前にルーンを教えたのはこんな事の為なんかじゃない」

「それでもこの結果が全てです!」


 そして『天象』と『障壁』による消耗戦となって戦いが再開されてしまった。


続きます

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