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2021年11月14日 完成(115分遅刻)&細部修正
『約束が違う』
『……はて、何のことやら』
『■■■■■には触らないって……!』
『……もういい
そっちがその気なら私だって!』
◆◆◆◆◆◆
(何が……起きたんだ……?)
気がつくと風景は鷹狗ヶ島のそれに変わっていた。
祭りの喧騒、もうすぐ花火が打ち上ろうとするのに自分は走っている。
「八朝君、どうしたんだい!?」
「字山、丁度良かった……■■は見かけたか?」
謎の少女の名前と共に鋭い頭痛が入る。
間違いなく『記憶遡行』に成功した筈なのに、違和感がそこかしこに。
例えば身体の操作権もその気になれば奪取できる。
その時点で今までの『記憶遡行』にも合致しない特徴である。
だがこの場面は自分が求めてやまない場面である。
(この後に字山が答えてくれる
取り敢えずその時が来るまでひたすら聞きに徹してみるか)
そう八朝がいつもの守りの体勢に入る。
だが、次の瞬間にその目論見が瓦解した。
「縺昴s縺ェ縺ョ蠢倥l縺ヲ闃ア轣ォ繧呈・ス縺励b縺?h」
何も解読できない。
確かに字山が喋った筈なのに、理解が何故かできない。
「あ……」
流れに任せて『ああ、そうしよう』だなんて一体どういう事だ?
見かけたかどうかの返答に対して全然かみ合わない。
(それにこの返答に流されたら駄目な気がする……)
微かに漂っている違和感が姿を現したかのようである。
ここで過去の自分を乗っ取るのは忍びないが、流される訳にはいかない。
だから必死になってあの時の場面を再現する。
「犬飼神社の方なんだな、助かった!」
「あ……ちょっと!」
字山の困惑を振り切って犬飼神社へと走る。
予想以上に多い人だかりが行く手を阻んでいく。
(これぐらい座山挨星歩の応用で……!)
的確に凶方に落ちた星を踏まずにステップを重ねる。
間一髪で人を避けるたびに今までの努力が無駄じゃなかった事を噛み締める。
そして最速で祭りの会場から抜け出すことに成功した。
(あとはここから走って数分
四宮の家の辻を反対方向に進めば……)
長く緩やかな登攀が体力を少しずつ削っていく。
それでも少しずつ、龍脈の観点から身体への浪費を抑えて走る。
あの時なら疲労困憊となっていた道のりを息一つ切らさずに登り切る。
「……ッ!」
だがそこには暖かな家などは無く。
上半身が『破壊の天使』にして下半身が『海の燕』の異名を持つ生物の合成。
六つ目の化物。
(何故ここにヤツが……ッ!)
この瞬間に、この鷹狗ヶ島が正規の『記憶遡行』でないことを確信する。
そして、それが■■のものと合致している事にも気づく。
(あの地下迷宮にいた『出来損ないの転生者達』
アイツらの合体も確かこの『七災』の黒霧と同じく共感を利用したものだ)
人間はその記憶の一欠片ぐらい他人とびっくりするぐらい似たものがある。
それは『相手の言葉を理解する機構』に引きずられた余波によるものでもある。
その極致に『神話原型論』と呼ばれるものが存在する。
要は信仰が『言葉』によって語られる限り『同根』の繋がりを強制される。
それを上手く使えば、他人との同一化も意のままとなる。
(……そうはいかない、俺には確かめるべき『真実』があるんだ!)
Ekaawhsの6つの赤い光がこちらを射貫く。
それが両者の戦いの火蓋を切って落とす。
『■■!』
八朝が口にしたのは固有名でも詠唱でもないもの。
だが、前日に試し続けた結果見出された『樹影魔術』との折り合い。
刺々しいそれを自らの身体に突き刺す。
「ぐぁ……ぁぁぁあああああ!!!」
激しい不快感が体中を掻きむしり始める。
それでもその流れに任せるように、新しく変わっていく自分に適応する。
『■■■■■!』
Ekaawhsから液化神経毒のレーザーを放たれる。
直撃は避けられず、それなのに八朝は何故か不規則な反閇を行い……
突如として繰り出した裏拳がレーザーを吹き飛ばす。
(……だが)
Ekaawhsはレーザーが効かないと分かるや否や細い触手を全て地面へ。
そして突き刺さった部分から地面がどんどんと変色していく。
即ち汚染による全方位攻撃で仕留めようとしたが
たった一発の龍震によって全てを吹き飛ばされてしまった。
(……これでは、勝てない)
どれだけ相手の攻撃を圧倒しようが、致命傷を与えられなければ意味は無い。
樹影魔術を扱えば、一切の希望を捨てなければならぬ。
それが、自らを『状態異常』と為す樹影魔術の真意なら。
『■■!』
それは非殺傷の『相殺』から致死性の『麻痺』への切り替え。
果てしなく重い身体の重圧
特に全身の血管から雷が迸るような不快感に呻き声を上げる。
(だがこれが……!)
それは偶然にも発見した『■■』との共通点。
元々は『毒』でしかない『■■』を身体強化へと変えるアイデア。
まさかそれがここまでハマるとは思うことは無く。
「あああああああッ!!!」
まるで砲弾のように大地を爆ぜて駆ける。
『麻痺』によって溜めた力を一瞬の内に全て爆発させる。
それでも手は未だに麻痺の影響を受け後ろに流されるように。
即ち、相手の懐でこの両手を炸裂させる為の前振り。
「喰らい……やがれ!!!」
両手を突き出すようにEkaawhsの身体を打ち据える。
インパクトが化物の身体に触れた途端、その組織を爆ぜ砕く。
Ekaawhsは状況も理解できずに一撃で粉砕されてしまった。
『……ッ! ■■!』
それはいつもなら霧となるべき状態異常。
これを打ち込むことで返し風を同じ舞台に立たせる。
「桃花曲脈 星辰起脈」
それは最早意味が無く、只の祈りのような詠唱。
だが、その気合い一つで襲い掛かる返し風を紙一重で躱す。
それを幾度も繰り返し、領域外へと逃げ切った。
その完璧な樹影魔術の制御の後
犬飼神社への石段が姿を現す。
(ああ行こう、全てを知るために……)
続きます




