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Case 09-4

2020年7月16日 Case 09より分割完了

2020年1月26日 ノベルアップ+版と同期


 いきなり起き始めたフードの少女。

 甲高い声が閉鎖空間でもない辰之中を響き渡る。




【同時刻付近 篠鶴地区・辰之中】




「あんたは」

「……」


 フードの少女はバツの悪そうに顔を背ける。


「そうか」

「うそ本当にやめて!?

 私貴方みたいに生き返れないから!?」

「……」

「わかったよぅ もう……」


 観念はしてくれたが、待針(digg)を出したままにする。

 ただ、隣からの視線がやたら痛い。


 彼女の名前は柏海綾子(かしみあやこ)

 御伽(フォークロア)の通り名を持つ異能部の平部員らしい。


「異能部が、何の用だ? うちの部への妨害か?」

「違うわよ、あんたが卵を追ってるから……」

「卵?」

「あっ」


 また黙秘を開始する。

 埒が明かないのでここで脅しをかける。


「因みに俺、四つ(Ekaawhs)目級(Edrumn)にタゲられているから……」


 顔が真っ青になった柏海(かしみ)


 猛烈な勢いで解除した後、天ヶ井達も気にせず通路に引きずり込む。


「……もう(七不思議)は追わないで」

「どういう事だ?」

「それは……」


 やがて彼女は事情をぽつぽつと語り始める。


 彼女の家である『柏海家』に唯一残るルール。

 唯一の『呪い』である笑う卵(七不思議)を隠し通す事。


 それが出来ない場合、彼女は殺される。


「……そこまで恐ろしい物なのか?」

「当たり前でしょ!

 『魂』を混ぜて二人とも殺す七不思議だし!」


 流石にそれだけは知りようが無かった。

 三刀坂(みとさか)も口を押さえてしまっていた。


「これで分かったでしょ?

 私が異能部にいるのは『笑う卵(この噂)』の管理に都合がいいからなの!」


 三刀坂(みとさか)が納得してしまっているが、そういうわけにはいかない。


「……そうか、なら異能部ってのは嘘だな」

「!?」

「あそこは部長命令で俺との接触が禁止の筈だ」


 これはハッタリであった。

 事実は抗生(シナバー)のみ八朝(やとも)との接触が禁じられている。


 真っ青な顔している柏海(かしみ)の表情を見る限り、彼女が異能部でない事は明白である。


 それでも八朝(やとも)笑う卵(ヴィヒテル・ドライ)を追っている事を知っているとなると、答えは一つ。


「もしかして、車寺(くるまでら)の友人だったりするのか?」


 首肯する柏海(かしみ)

 そして改めて告げられる。


「お願いがあるの!

 車寺ちゃんを助けて欲しいの!」


「それとあとその針めっちゃ怖いから早く仕舞ってくれないかなホントに!」




【4月30日|(木)・放課後|(17:08) 磯始地区・旧北方峠トンネル】




 三刀坂(みとさか)と別れ、八朝(やとも)は弘治の隠れ家へと向かう。

 依頼は明日片付けるという予定の下、先に三刀坂(みとさか)を帰らせたのである。


「歓迎するぞわが眷属よ」


 いつも通りのノリの弘治が出迎えてくれる。

 世話話に無断欠席について相談すると『成績で取り返すがよい』と赤本を渡される。


 その中身は少々成績の振るわない八朝(やとも)でも毎日できるようなバランスが為されている。


 大学受験にはまだ早いが、持ってても損は無いと思い、赤本もどきを鞄に仕舞う。


 早速、用件を手短に話す。

 弘治が終始頷いていたが、特に意味はない。


「それなら引き受けよう、我が眷属よ」


 本棚を探す。


 手に取ったのは意味不明な文字列に溢れた謎本。


「それはグリム……童話……?」

「そ、これに用がある」


 中には目的の『小人の靴屋』が載っていた。

 それは一晩で靴を完成させてくれる小人のお話。


 ……に加えてもう二つの話があった。


 一つは浦島太郎に似た、戻ると数十年後の未来となる妖精のお茶会。


「やっぱりか……」

「やっぱりとは如何した?」

「今日襲ってきた奴の能力とそっくりなんだ」


 六角形、或いは亀甲と呼ばれる文様。

 睡眠をトリガーに発動する『構築物操作』。


 まさに彼女が自称した御伽(フォークロア)の守り手に相応しすぎる異能力である。


「おお、また我が脳髄が満たされた!」

「いや、これだけでは終わらん、大盤振る舞いだ」

「何だと……?」


 そして懸念事項の第3話(ドライ)である。


 妖精に赤子を取られ

 押し付けられた鬼を追い払うために

 暖炉で沸かしているお湯に鬼を入れる話。


 卵の殻で熱せられたお湯に浸かる鬼が笑い

 赤子と自分の場所を入れ替えてしまう。


 非常に有名な取り換え児(チェンジリング)話である。


「これが恐らく笑う卵(ヴィヒテル・ドライ)のオリジナルの正体だな」

「!?」


 これには驚く弘治。

 何しろ数十年来の解明なのである。


「即ち、笑う卵(ヴィヒテル・ドライ)は産声と同程度の苦痛を共有し

 文字通り魂のカタチ(人格)を焼いて捻じ曲げる……」

「いや、そこまででは無いだろう

 だが七不思議の最後は知っているだろう?」

「ああ……『似姿のジンクス』か」


 篠鶴市の地下には瓜二つの人影が存在する。

 それと出会うと苦痛と共に絶命するという……


 これが『似姿のジンクス』である。


 この話において赤子と鬼は等価であり……


 『笑う卵(ヴィヒテル・ドライ)』に巻き込まれた二人は『似姿のジンクス』の条件も満たしてしまう。


「この依頼、取り下げる必要がありそうだ」


 八朝(やとも)は自然と呟いた口を塞ぐ。

 気を取り直して弘治にお礼をする。


「今日は助かった、感謝する」

「我が深淵なる朋友よ、何時でも我が知の蔵書を訪ねるがよい」


 何かランクアップしたらしい。

 取り敢えず本を戻そうとして呼び止められる。


「眷属よ、エリスとやらはどうした?」

「? エリスなら……」


 居なかった。


「眷属よ、エリスもまた『転生者』であるな?」

「それはどうかわからないが、俺を恩人だって……」


 そこまで言って気づく。


 箱家(はこいえ)の依頼の時に彼女が口にした『論理爆弾』。

 これは篠鶴市(いせかい)が未だ到達していない『情報科学』の用語である。


 ならば彼女も『グリム童話』を……


「……RAT貸してもらえるか?」


次でCase09が終わります

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