Page103-5
2021年11月14日 完成(1日以上遅刻)&細部修正
『記憶遡行』を発動しようと試行錯誤すること数時間。
とうとう鳴下が帰って来る時間になってしまった。
【4月30日(木)・昼(18:23) 磯始地区・鳴下のアパート】
「八朝さ……!?」
監視も兼ねた不法侵入なのだが、この時ばかりはそれが正しかった。
鳴下は部屋の中心で呻いている八朝に駆け寄る。
「何をしているんですの!?」
「すまん……もう少し声を小さく……」
頭痛が原因という事で急いで薬箱を開けて鎮痛剤を飲ませる。
八朝は粉薬の苦さに過去一苦しそうな顔をした。
「……」
十数分してようやく頭痛が収まり表情も緩やかとなる。
だが、状況としては少々残念と言わざるを得ない。
「もう話せますよね?」
「……『記憶遡行』の方を試そうと
『樹影魔術』で自爆してたんだが」
「貴方……!」
鳴下は怒ったような呆れたような表情をする。
だが、心なしか安心しているようにも見える。
「それで理由は?」
「幾つか思い出せない記憶があった
その中に今回の変質、ひいてはエリスに関するものがあって」
「その確認、だけですの?」
「ああそうだ、絶望している暇なんか無いからな」
あと3日で『ミチザネ』が襲来する。
篠鶴機関も無しにこれを退けるのは不可能に等しいので
このタイミングが実質のタイムリミットである。
「そうですか、本音を言いますと少し心配でした」
「……まぁ、あれだけ精神がやられていればな」
「そうですの、ですので安心しました」
鳴下がお茶を啜って長居するつもりらしい。
どうやら八朝に話があるのだろう。
「何だ、もう匿えないってか?」
「ご心配なく、これでも鳴下の端くれですもの
それよりも今日、『お札』を見かけてしまいましたの」
その言葉に少々の緊張が走る。
想定した『七災』の性質の中で、最も厄介なパターンである。
なので慎重にその特徴をヒアリングしてみる事にする。
「色はいくつあった?」
「赤青黒白黄の五色ありましたの」
「文字は日本語だったか?」
「いいえ、記号も含み殆どが漢字でしたの」
ああやっぱりと頭を抱える。
鳴下が『七災』に立ち向かうと聞いて
今までの情報と、それを頼りに立てたいくつかの『予想』も共有した。
その中で『お札』が出るのは最悪の部類の一つ。
即ち『七夕の短冊』をトリガーにした符呪、即ち変形した星祭。
だが一体何を祀るかが不明であれば意味は無い。
「漢字か……大方癸丑みたいな六十干支だと思うが」
「違いますわよ
確かに干支は有りますが戊己はありませんしそれに……」
鳴下が列挙したのは八門、九星、二十四山、二十八宿、そして残りの四卦。
即ち七十三の漢字で構成された法曼荼羅。
「……陥星鎮宅」
「それは何ですの」
「平たく言えば、ある概念だけ消し去る呪祭だ」
即ち七十二で構成される鎮宅霊符神を祀るために一つだけ犠牲にする。
すると、犠牲にされた文字の意味するところが神の領地内で消滅する。
例えば八門の『死』を封じれば疑似的に不死を得る事はできる。
尤も、その領地内は『老病が永遠に続く地獄』と化すのだが。
故に『呪』の一文字を付けるのにふさわしい祭祀と言える。
「俺も鷹狗ヶ島の地下で見かけただけで、実在するとは思わなかった」
「ええ、その線が濃厚ですわね」
恐らく鳴下もこの陥星が『開』だと理解している。
それは『七災之壱』の性質とも合致しているからだ。
「それで解除法はどうしますの?」
「……封印されている字を復活させれば止まる」
これも地下の書物通りの答えを口にする。
だが、何か一つが妙に引っ掛かって返答が遅れる。
(待て、だったら何故『ミチザネ』が侵入できるんだ?)
篠鶴市が陥星鎮宅で『開かれていない』のなら、侵入できる理屈が無い。
『転生者』が『七災之漆』の眷属なら兎も角
縁もゆかりもない『ミチザネ』なんて以ての外である。
なのに『記憶遡行』で普通に侵入しているのである。
「どうしましたの?」
「いや、こんな状態でも『ミチザネ』が入ってこれるなんてな」
「確かにおかしいですが……」
丁度良く電話が入ったらしく鳴下が応対する。
そこで『開』の符呪を作成してもらおうとしたが、次の瞬間に凍り付いた。
「焼いてしまったんですの!?
ちょっと焼けただけ、そうですか……それで裏に何かが書いて」
「……」
「丸の中に三角、縦、十字、翼、土台
それと外縁部にC、R、O、C、E、L、Lなのですね」
「……クロケル」
それはソロモン王が使役したとされる七十二の悪魔の一つ。
そう言えばこれも『七十二』なので陥星鎮宅の方を解除すれば……
『開の符呪作成は中止だ
やれば恐らく『ミチザネ』が瞬時に召喚される』
メモを目にした鳴下が『梅紋を探せ』と指示して電話を切る。
そして鳴下も何か言いたげであった。
「邪魔して悪かったな」
「いえ、寧ろ貴方のお陰でもう一つの『侵入者』にも気付きましたわ」
「……空中交差点のバンド」
あの大惨事の方に霞んでしまいがちだが
彼等は『七災』にはあってはならぬ『部外者』に違いない。
即ち『影踏み鬼』と同じく『ミチザネ』の眷属の可能性がある。
そして鳴下も現場に向かおうと立ち上がる。
だが今の状態で行かせる訳にはいかない。
「待て!」
「……やはり、事前に貴方に相談して正解でしたわね」
「そうじゃない
『七災之伍』には『十死の諸力』の『墓標』がいる!」
鳴下を止めた上で端末を貸すよう提案する。
彼女の端末に『墓標』のデータを転写して返す。
そのデータを確認して鳴下が自信満々に笑う。
「貴方こそ本業に専念してくださいまし」
「今度は倒れないように、だな」
◆◇◆◇◆◇
識別名 : 【識別不能】
翻訳 : 尽きぬ暴風の骨
適合者 : 丸前巧
深度 : 00000000
結節点 : The_University
STR : ? MGI : ? DEX : ?
BRK : ? CON : ? LUK : ?
依代 : 歌
能力 : 絶唱残影
縁物 : ある高名な歌手のアルバム
Interest RAT
Chapter 13-e 雷鳴 - Thunder's Footstamp
END
これにてPage103、新たなる敵の回を終了いたします
まあ立ち直れたのでこれにて一件落着でしょう
今後の主人公の活躍にご期待下さいませ、まあまだ何かありそうですが
しかしまあ、次から次へと厄介事が
本当は篠鶴市じゃなくて火薬庫でしょ、これホントに……
因みに『陥星鎮宅』は私の創作術式なので実在しておりません
それでも使用例が見たい方は『嘘を吐く聖霊達』(エブリスタ・休載中)にて
次回は『薬毒同源』となります
それでは引き続きよろしくお願いいたします




