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Page103-4

2021年11月13日 完成(1日以上遅刻)


 まず異能力の変質をどうにかする為に思案を巡らせる。

 その過程でエリスの存在につき重大な『懸念』がある事に気付いてしまう




【4月30日(木)・昼(14:55) 磯始地区・鳴下のアパート】




(この障壁は正しく攻撃を防いでいない

 攻撃を呪い殺すことで攻撃を無かった事にしようとしている)


 瞑想で確認した『変質後の異能力(トンネル)』の性質が正しいなら

 この想定の通り攻撃を呪殺する、謂わば『相殺』の性質を持った力だと導ける。


 そして、自身の異能力がSln型ではなく一つを極めるMag型なら

 この障壁魔術こそが全てのオリジンと言っても過言ではない。


 だが一つ疑問が残る。


(俺は元世界でこんなものを使った覚えはない

 しかも、こっちで使ったとしてもエリス経由で俺自らって訳じゃない)


 まだ何か欠けたピースがあるらしい。

 もう一度過去の記憶を洗おうとして、一つのフラッシュバックが出迎える。




 『七災之参(鳴下駅東口の衛士)』で見かけた南浦神社本殿の血文字。




「……ッ!? これに一体何の意味が……」


 だが反射的にその血文字の文様を『空白の書(メモ)』に書き起こそうとする。

 3次元にわたる文様なので予め立体のパースを取りながら記憶通りに……


 ……すると、そこにも『邪悪の樹(クリフォト)』の図が浮かび上がる。


「な……」


 全てが繋がったような気さえもする。


 自分はMag型を発現する条件を元世界にもわたって満たしていたのだ。

 即ち『本殿の血文字』と、全く同じ構造の『障壁魔術』によって……


(だったら尚更何故『生命の樹(セフィロト)』になってんだ!?)


 障壁魔術(クリフォト)を使いこなす事で能力が発現したなら

 それが突然『生命の樹(セフィロト)』という似て非なる概念に変質したのか。


 そもそも障壁魔術を直接使っていたのはエリスの方である。

 ……いや、その発想のせいである『恐ろしい懸念』が浮かび上がる。


(……イマジナリー・フレンド)


 それは子供がよく引き起こす精神異常の一つで

 空想上の友達の実在を信じて疑わなくなるという誰しもが通る道。


 本人の気質や精神的ショックが無い限り、成長と共に消えるのだが

 八朝(やとも)には精神的ショックどころかオーバーキルとなるような記憶が存在する。


 家族が死に、次の家族も迫害され、島中を呪い殺さんと荒れ狂う……


(エリスは……)


 残酷な事実に突き当り、言葉を失ってしまう。


 もしも今のように『空想上の友達(エリス)』が消えた方が自然だと言うのなら

 異能力もこちらの殺伐とした方のが元の姿なのだろうと認めるしかない。


 もう二度と『生命の樹(セフィロト)』側に戻ることはできない。


「クソッ!」


 物に当ることもできずに座り込むことしかできない。


 乱暴に座った痛みが正しいのだというのなら

 何故エリスがいない事を悲しみ痛む心が現実にならないのか。


 その身勝手な願いが彼女を生んでしまったのだと気付く。


(はは……これじゃあ俺も『魔王』を追い求めるその他と然程変わらんな)


 異世界の現実を下らないと切り捨てて

 『世界の危機(魔王)』に立ち向かおうとする『転生者』達。


 あの『創造神』がそれでも良しとした悪辣さに今更気づいて気分が悪くなる。


「……」


 言葉どころか、その根幹にある意思すらも消え失せようとする。

 エリスが実在しないのであれば、使命(オーダー)すらも意味が無い。


 それが自分をこの世界に繋ぎとめる唯一の意思であった。

 即ち、エリスがいないのであればこの篠鶴市に長居する理由も無い。


『Ghmkv』


 久々に詠唱(パス)ではない本物の固有名(スペル)を口にする。

 黒霧を湛える棒状の何か、これを自身に突き刺せば自殺出来るかもしれない。


 両手で握り直し、切先を自分の腹に。


(『俺』が死ねば三刀坂(みとさか)の問題は解決だな)


 彼女はあの時確かに『本物』に別れの言葉を掛けて吹っ切った。

 だが今でも自分が……いや、その身体が傷つく事に誰よりも過剰反応する。


 先程までの自分がそうだったように、信じてやまない心がそうする。


『螺??笳螺笳笳?螺』


 死の恐怖からか目の前に誰かがいる様な気がした。

 呻き声を上げて、眼球もない窪みで虚ろな怨念を込めた視線を投げる。


 そう言えば『鷹狗ヶ島の怨念』と認識していた彼等もまたエリスと同じ。


『……イ』

「何だよ、はっきり言ってみろよ

 この際もう何でもアリだから聞いてやるよ」


 それは彼等の要望通り死と等しい状況に落ちるという意思表示であった。

 だが幻影ははっきりと首を締めて予想外の言葉を口にする。


『ユルサナイ』


 反論したいのに首が締まって声が出ない。

 余りにも呆気なく殺してくる彼等の害意に軽蔑を覚える。


 だが違う、八朝(やとも)と同年代の声で……


『マダ、ナニオモイダセテ、イナイクセニ』

「……ッ!」

『ニゲルコトヲ、ユルサナイ』


 そして幻覚は反論する余地も与えず霧のように消え失せる。

 首を締められる不快感も消え、残ったのは八朝(やとも)のみ。


 そこには先程の包み込む様な絶望は無く

 あるのは数多の矛盾に焼かれ、発破を掛けられた一人の青年。


(ああ、やってやるよ

 そんなにも俺の醜態が御所望だというのなら……ッ!)


 まだやれる事はある。


 異能力が変質した理由について。

 何も文字通り『天からの贈り物(ギフト)』でないなら必ず理由がある。


 次に使命(オーダー)によってエリスの肉体を取り戻す。


 最早誰の利益にもなっていないが

 自分にとっては精神の歪みを確認できる絶好のチャンスである。


(それにはまず、記憶が足りない

 何としてでも『記憶遡行(ギフト)』を再発動してやる!)


続きます

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