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2021年11月11日 完成(2時間以上遅刻)
一人で考え事をしていると鳴下がやって来る。
時間帯もあって彼女に警戒心を抱く八朝であった……
【4月30日(木)・深夜(0:06) 磯始地区・鳴下のアパート】
「……」
急な来客、しかも深夜に鍵も無視して入って来る。
相手が鳴下のような知人であっても非常識であろう。
「あら、そんなに警戒して……
別に私は何も致しませんわ、それより」
鳴下が部屋のスイッチを押して灯りを付ける。
こんな真っ暗闇で何をしていたんだと言わんばかりでもある。
「貴方にも今日の事を話していただきます」
卓袱台を挟んで鳴下と対面する。
彼女が持ってきたお茶を一杯呷ると、訥々とこちらの視点で話をする。
唐砂に一方的に煽られ、キレて殺しそうになった事。
その際に異能力が変質して使い物にならなくなってしまった事。
一つ一つ確認するように聞き続ける。
「……やはり今回のは唐砂が悪いようですね
主として貴方への非礼の数々、詫びさせていただきますわ」
やけにあっさりと折れた鳴下の様子に内心で慌てる。
寧ろこっちが非難される側と考えていたため、言葉を用意できずに固まった。
「いや、俺は殺しかけたんだぞ」
「当然ですわ、唐砂は面と向かって人格否定してましたのよ」
「……夕方に言っている事と真逆だぞ」
「それは貴方がおくびにも思ってもない事を言ったからです」
そう言って鳴下が溜息を吐く。
どうやら本心が筒抜けだったらしく、こっちもばつが悪そうに頭を掻く。
「だったら何て言えばよかったんだよ」
「最初からエリスさんを探すと言えば宜しいのでしょう
私だって貴方にあんなことを言いたくなかったのですから」
前半だけなら少々不審ではあるが最大限慮っている事は伝わる。
だが被害者意識全開の言い方に八朝が少し機嫌が悪くなる。
「……それ言われて信じるのかよ」
「普段だったら一笑に付しますわ、ですが……」
そう言って鳴下がテレビのスイッチを付ける。
先程も流れていた『海神作戦』の特別報道番組が今も続いていた。
「唐砂から聞きました
三日後に『ミチザネ』がやってきて篠鶴市が焦土になると」
「……」
「貴方がそう言った夕方時点では寧ろ勝利目前だったのですよ」
確かにそこまで狂言が極まると最早信じざるを得ない。
こんな心労でしかない物と向き合う鳴下の目的は明白であった。
「貴方、まだ何か隠してますわよね?」
「……一体何を隠すって言うんだ?」
「では言い方を変えましょう
貴方は何故私に近づいたのですか?」
少し経ってそれが『前の6月』の頃からの疑問だと判明する。
第二異能部での口も聞かない先輩後輩でしかない関係を変えたのは何故か。
出来るなら正直に答えたいが、それが不可能な事情もある。
「……残念だが証拠が無い、それでもか?」
「ええ、他ならぬ貴方の言い分です、存分に聞きましょう」
お墨付きが貰えたので『空白の書』について話す。
それは記憶喪失となった八朝の行動指針となる内容で
その中に『最重要治療対象』の3人として鳴下の名があった事。
それでこの3人が抱えている厄介事が篠鶴市の壊滅に繋がっていた事から
恐らくは『本物』の『未来予知』で書かれた物だろうと付け加える。
「だが見て分かる通り白紙となった、だから……」
「それはおかしいですわよ」
「白紙になった事か、それについては耳が痛い事なんだが……」
「違いますわ、『本物』の仕業という所です」
曰く、もしも本当に『未来予知』で回避すべきと書くなら
八朝が言った『詩的な表現』では十分に伝わらない。
具体例を上げるのであれば、市新野を只の友人と書く所。
確かに努力の跡すら無いのはおかしい、最早騙されたようにも見える。
「じゃあ誰が……」
「そんなの分かり切っているでしょう
スタートになる4月まで貴方の振りをしていたっていう」
「……エリス」
まるで助けを求めるように呟いたことに自己嫌悪する。
それが話題の終了となったらしく、そそくさと鳴下が撤収しようとする。
「待て、どういうつもりだ
俺はもうお前たちの事を今までのように信じられない」
「ええ、承知の上ですわ」
「だったら、ここまでするのに意味が……」
「ありますわよ
私たちは互いに信じられないまま手を取る事も出来ますわ」
余りにも身勝手な物言いに堪忍袋の緒が切れる。
だが拳を握ったところで何になるのだろうか、それこそ夕方の二の舞に……
「……貴方はここから出ないことをお勧めいたします
既に悪評が広まり、異能力も使い物にならないぐらいに変質した」
「……」
「貴方は残り3日間で元のように戦えるよう努力しなさい」
「その代わりに『七災之壱』と『ミチザネ』
どちらも、貴方の代わりに私たちの総力で粉砕して差し上げますわ」
その全力で味方してくれる宣言に呆気にとられる八朝。
そんな彼に鳴下が苦笑しながら更に言葉を掛ける。
「貴方が陰ながら努力したものが一体何だったのか
お部屋の中で1日中怠惰に過ごしながら痛感すると良いですわ」
続きます




