表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
556/582

Page103-2

2021年11月11日 完成(2時間以上遅刻)


 一人で考え事をしていると鳴下(なりもと)がやって来る。

 時間帯もあって彼女に警戒心を抱く八朝(やとも)であった……




【4月30日(木)・深夜(0:06) 磯始地区・鳴下のアパート】




「……」


 急な来客、しかも深夜に鍵も無視して入って来る。

 相手が鳴下(なりもと)のような知人であっても非常識であろう。


「あら、そんなに警戒して……

 別に私は何も致しませんわ、それより」


 鳴下(なりもと)が部屋のスイッチを押して灯りを付ける。

 こんな真っ暗闇で何をしていたんだと言わんばかりでもある。


「貴方にも今日の事を話していただきます」


 卓袱台を挟んで鳴下(なりもと)と対面する。

 彼女が持ってきたお茶を一杯呷ると、訥々とこちらの視点で話をする。


 唐砂(からさ)に一方的に煽られ、キレて殺しそうになった事。

 その際に異能力が変質して使い物にならなくなってしまった事。


 一つ一つ確認するように聞き続ける。


「……やはり今回のは唐砂(からさ)が悪いようですね

 主として貴方への非礼の数々、詫びさせていただきますわ」


 やけにあっさりと折れた鳴下(なりもと)の様子に内心で慌てる。

 寧ろこっちが非難される側と考えていたため、言葉を用意できずに固まった。


「いや、俺は殺しかけたんだぞ」

「当然ですわ、唐砂(からさ)は面と向かって人格否定してましたのよ」

「……夕方に言っている事と真逆だぞ」

「それは貴方がおくびにも思ってもない事を言ったからです」


 そう言って鳴下(なりもと)が溜息を吐く。

 どうやら本心が筒抜けだったらしく、こっちもばつが悪そうに頭を掻く。


「だったら何て言えばよかったんだよ」

「最初からエリスさんを探すと言えば宜しいのでしょう

 私だって貴方にあんなことを言いたくなかったのですから」


 前半だけなら少々不審ではあるが最大限慮っている事は伝わる。

 だが被害者意識全開の言い方に八朝(やとも)が少し機嫌が悪くなる。


「……それ言われて信じるのかよ」

「普段だったら一笑に付しますわ、ですが……」


 そう言って鳴下(なりもと)がテレビのスイッチを付ける。

 先程も流れていた『海神作戦』の特別報道番組が今も続いていた。


唐砂(からさ)から聞きました

 三日後に『ミチザネ(アルキオネⅢ)』がやってきて篠鶴市が焦土になると」

「……」

「貴方がそう言った夕方時点では寧ろ勝利目前だったのですよ」


 確かにそこまで狂言が極まると最早信じざるを得ない。

 こんな心労でしかない物と向き合う鳴下(なりもと)の目的は明白であった。


「貴方、まだ何か隠してますわよね?」

「……一体何を隠すって言うんだ?」


「では言い方を変えましょう

 貴方は何故私に近づいたのですか?」


 少し経ってそれが『前の6月』の頃からの疑問だと判明する。

 第二異能部での口も聞かない先輩後輩でしかない関係を変えたのは何故か。


 出来るなら正直に答えたいが、それが不可能な事情もある。


「……残念だが証拠が無い、それでもか?」

「ええ、他ならぬ貴方の言い分です、存分に聞きましょう」


 お墨付きが貰えたので『空白の書(メモ)』について話す。


 それは記憶喪失となった八朝(やとも)の行動指針となる内容で

 その中に『最重要治療対象』の3人として鳴下(なりもと)の名があった事。


 それでこの3人が抱えている厄介事が篠鶴市の壊滅に繋がっていた事から

 恐らくは『本物』の『未来予知(ギフト)』で書かれた物だろうと付け加える。


「だが見て分かる通り白紙となった、だから……」

「それはおかしいですわよ」

「白紙になった事か、それについては耳が痛い事なんだが……」


「違いますわ、『本物』の仕業という所です」


 曰く、もしも本当に『未来予知』で回避すべきと書くなら

 八朝(やとも)が言った『詩的な表現』では十分に伝わらない。


 具体例を上げるのであれば、市新野(いちしの)を只の友人と書く所。

 確かに努力の跡すら無いのはおかしい、最早騙されたようにも見える。


「じゃあ誰が……」

「そんなの分かり切っているでしょう

 スタートになる4月まで貴方の振りをしていたっていう」


「……エリス」


 まるで助けを求めるように呟いたことに自己嫌悪する。

 それが話題の終了となったらしく、そそくさと鳴下(なりもと)が撤収しようとする。


「待て、どういうつもりだ

 俺はもうお前たちの事を今までのように信じられない」

「ええ、承知の上ですわ」

「だったら、ここまでするのに意味が……」

「ありますわよ

 私たちは互いに信じられないまま手を取る事も出来ますわ」


 余りにも身勝手な物言いに堪忍袋の緒が切れる。

 だが拳を握ったところで何になるのだろうか、それこそ夕方の二の舞に……


「……貴方はここから出ないことをお勧めいたします

 既に悪評が広まり、異能力も使い物にならないぐらいに変質した」

「……」

「貴方は残り3日間で元のように戦えるよう努力しなさい」




「その代わりに『七災之壱(渡れずの横断歩道)』と『ミチザネ(アルキオネⅢ)

 どちらも、貴方の代わりに私たちの総力で粉砕して差し上げますわ」




 その全力で味方してくれる宣言に呆気にとられる八朝(やとも)

 そんな彼に鳴下(なりもと)が苦笑しながら更に言葉を掛ける。


「貴方が陰ながら努力したものが一体何だったのか

 お部屋の中で1日中怠惰に過ごしながら痛感すると良いですわ」


続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ