Page103-1:4月30日(木)・癸卯日
2021年11月10日 完成(1日以上遅刻)
『ミチザネ襲来』まで残り3日。
そして八朝は自らの強みを捨て去ってしまったことに気付く……
【4月30日(木)・深夜(0:00) 磯始地区・鳴下のアパート】
「ここ……は……」
目が覚めても明るさは殆ど存在していない。
外は真っ暗で中は鳴下のアパートの一室、恐らくは空き部屋なのだろう。
傍らには桶があり、上体を起こすと額の手拭が落ちる。
(……看病してくれたのか)
あまり覚えてはいないが生き地獄と喩えられるほどの苦痛であった。
最早下痢だけでは退けられない程の深部からの腹痛に加え、嘔吐の連続。
先程の自分の声がしわがれて……
(……いや、至って健康だ)
何故か体調はとても良い。
恐ろしいほどの発汗があったのは認めるが、それ以外は全て健康。
まるで悪い夢でも見ているようであった。
(夢といえば、あの少女の言葉……)
それは苦痛の中で見た『記憶遡行』の如き幻覚。
幻覚であればいいのだが妙にしっくり来るイメージで困惑していた。
その上で聞き取り不能な『彼女』の言葉。
これは使命で提示された『死の瞬間の記憶』と同じ。
自力では解けない封印の中にある記憶。
(少女も含めて何かの鍵かもしれない
この『七災』をどうにかしてから検討しよう、だからまずは……)
八朝は状況を確認する為に端末を開く。
時刻、そして分析内容の推移からある程度の状況を掴むことに成功する。
まずあの時自分は『七災之漆』となっていた事。
縁物が『消えない流星』とこれまでの『七災』の特徴である『願い事』と一致。
(そういえば丸前が奇妙な事を……)
『七災之陸』の時、彼は『俺は七災などではない』と叫んでいた。
その様子も唾棄するようなものでなく、真剣に否定しようとしていた。
それと自分の記憶の変質、そして錫沢の『異世界知識』も含めた一つの仮説。
(『七災』も『転生者』と同じ構造をしている……)
中々に妄想めいた発想で、立証するのに大変な手間が掛る。
要はこの世界の外の理である『異世界知識』の関与の有無である。
だが、これがクリアできれば一気に全てが解けるような確信がある。
そう思い霧を呼び出そうとして、すんでのところで思い留まる。
(そういや異能力が変質していたっけな)
属性が闇属性に、能力名が樹影魔術。
STRとMGI以外が0という攻撃特化に変化した。
これは同時に依代が呼び出せず
カバラを用いた魔術が全て使用不能になっていることを意味している。
(いや、諦めるのはまだ早い
闇属性に変わったなら闇属性電子魔術がある筈だ)
更に分析内容を精査するも一向にそれらしき痕跡が無い。
あるとしても『トンネル』という名称がカバラと対を為すものというぐらい。
諦めて別の分析結果も眺めて特にそれ以上の情報も無いので寝転がる。
「はぁ……」
まだ彼女等の厚意が生きているうちに身体を休めさせた方が良い。
そのうちにココすらも失って野ざらしのまま『七災之壱』に挑む。
(あの監視衛星群の事だよな
60もある施設全て破壊するのにどれだけの時間がかかるんだよ、それに……)
現状、自分の身分は準指名手配犯。
篠鶴市民の誰かに見つかれば即刻通報されて鳴下家の本邸幽閉となる。
あの時は霧も使った反閇で突破できたが今となっては不可能。
それでも1ヶ月半を目途にすればほぼ確実に破壊できる。
無論そんな時間は有りはしない、何故なら……
(今日の夜辺り、『巻き戻す前』では……)
そう思ってテレビを付けてみる。
丁度やっていたニュースに、目的の事件のテロップが流れていた。
『海神作戦失敗 死傷者多数』
『アルキオネⅢ 落着予想地点は■■県篠鶴市沖1km』
「……ッ!」
予想通り日本はミチザネに敗北した。
そしてこれを撃滅ないし無力化できる存在はたった2人のみ。
現当主の鳴下文と、篠鶴機関の長である金牛明彦。
前者に関しては手酷い裏切りも有って一切信用していないが、後者は絶望的。
『七災』を倒したくば『顕現級』をどうにかする必要があり
『顕現級』を殺すには『七災』に阻まれた篠鶴機関を元に戻すのが必須。
(……ここは現代日本だ
レーギャルンの匣みたいな嫌がらせしてんじゃねーよ)
そう思っていると来客を示すベルが鳴った。
ドアを開けようと歩いていると一人でに勝手に開く。
「あら、起きてましたのね」
続きます




