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2021年11月9日 完成(1日以上遅刻)
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一欠片の未練が正気へと引き戻す。
だが、既に手遅れとなっていた……
【4月29日(水)・時刻不明 南磯始地区・山麓の雑木林】
(……あ)
次の瞬間、八朝は猛烈な脱力感に襲われる。
あの呪術の核となっていた殻が魔力に耐えきれず自壊する。
一瞬の疑念が八朝の生死を分けた。
(なん……で……)
あの時、八朝は本気で唐砂を殺そうとした。
だが『住人』の幻聴が聞こえ始めてから全てが真逆となった。
そして今、主を失くした数多の呪詛達の視線を一気に感じる。
(ああ、これが……)
八朝が思い浮かべた『報復』とは当たらずも遠からず。
魔術の世界で第一にコントロールすべき『返し風』が吹き荒れている。
対象は言わずもがな、発動者の八朝風太。
「……ッ!?」
内臓が腐り落ちるかのような苦痛が襲い掛かる。
えづいてもえづいても、涎の一滴すら出てこない。
身体ではなく『認識』を汚染され、苦痛だけが襲い掛かる。
『■■■■■■■■■ ■■■■■■』
朧げに鳴下の声が聞こえてくる。
中々帰ってこない二人を不審に思って探しに来たのだろうか。
そう思うと、中々に今の自分の惨状は滑稽である。
折角この世界に恨み言を言って、その通りにしようとしたのにこの有様。
『■■■』
恐らくもう彼女らと、どころかこの世界の人間と協力はできない。
それだけの事をしたのだという後悔が今更になって湧いてくる。
(あの時から何も……)
あの島の時のように人を殺さないと戒めてきた。
そしてその原因となった人間関係の不和も徹底的に潰した。
そう心掛けていたものを愚かにも自ら踏み躙ってしまった。
(……)
返す言葉が無いとはこの時を置いて他にない。
エリスに助けを求めようとする『顛倒』ですら羞恥の極みで口にできない。
だから、何も言えずにこのまま野ざらしで死ぬと思っていた。
(あれ……背負われている……?)
苦痛で頭が回らず、急に起きた浮遊感をそう解釈する。
普段なら眩暈や酩酊の類だと直ぐに判断できていた。
だがそれらとも少し違うような……
『■■■■■■■■■■■■■■■■■』
『■■■■■■■■■』
段々と苦痛が喉へと上がっていき、遂には吐き戻したのだと思う。
それでもこの持続的な浮遊感と振動が終わらない、何故なのか。
もう八朝を助けても無駄だというのに……
『■■■■■■■■■■■』
とうとう気絶無効すら貫通して意識が消えようとする。
その中で現実と記憶が段々と混ざり始めていく。
あの時もしも怒りに任せて『彼』を傷つけなければ。
だが、どうやって彼の凶行を止められたのだろうか。
それが分からない限りは、今日のような惨事を繰り返すと確信する。
『■■■■■■■■■』
忘れかけていた記憶の一つが朧げに開いていく。
助けられたはずのエリスが自分を恐れて逃げようとする一幕。
その最後に何か言われたはずだった。
更に言うと、それが最も重要な言葉だった筈だ。
なのに使命の『死の瞬間の記憶』と同じように思い出せない。
(エリス……あの時一体、何を……)
そして八朝の意識が途切れた。
この瞬間に彼の能力が完全に変質してしまった事にも気付かずに……
◆◇◆◇◆◇
使用者:八朝風太
誕生日:9月12日
固有名 :Ghmkv
制御番号:Sln.117287
種別 :U.AQUAE
STR:5 MGI:5 DEX:0
BRK:0 CON:0 LUK:0
依代 :【構築不能】
能力 :樹影魔術
後遺症 :返し風
Interest RAT
Chapter 12-e 破戒 - La Maison Dieu
END
これにてPage102、愚かな選択の回を終了いたします
とはいえいずれは避けて通れない『転生者』への差別問題
彼は自らを恥じていますが、やりすぎという見方もできるでしょう
鹿室と箱家は自らの世界に閉じこもり
掌藤親衛隊の面々は『闘争』で誤魔化そうとしている
そうでなくとも見ず知らずの人間にあそこまで酷い口を叩けるなら
もしかすると篠鶴市の人間は追い込まれているのかもしれません……
次回は『成長痛』となります
それでは引き続きお楽しみくださいませ




