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2021年11月1日 完成
『七災』が死に、代わりに丸前が襲い掛かる。
何一つあの時から欠けることなく、育んできた憎悪を滾らせて……
【4月29日(水)・朝(10:25) 七災之陸・学園橋付近】
「……ッ!」
『渦』を吸い込んだ拳大の石が大地を跳ねる。
これで通算何度目か、流石に鹿室にも汗が浮かび始める。
「どうした? お前がその程度では無かろうが!!」
「これが初対面なのに貴方変わった人ですね!」
「初対面だァ?」
唐突に剣戟を止めた鹿室に魔法剣の一太刀。
だが、丸前はまるで未来を見たかのようにひらりと回避する。
返す刀で致死量の『血液喪失』を喰らわせようとしている。
『■■!』
そこに八朝の黒雷の2連撃が飛んでくる。
鹿室への止めを捨てて、代わりに『麻痺』の2連撃を回避し切る。
(あの目の動き……まさか即席神託か!?)
八朝が彼の回避能力の理由に思い当たり絶句する。
即ちこの場には『見てから回避余裕』が可能な人物しかいない。
修行した八朝なら兎も角、丸前すらもである。
「忘れたとは言わせんぞ貴様
8日前の『カマイタチ』が出てきたあの夕方を!!!」
それは『巻き戻る前』の話であり、鹿室が知る筈もない。
八朝に『伝令の石』を渡す前の話の続きを始める。
「俺が魔王の呪いだって?
救ってやるだと、ふざけるなよこのゴミクズが!!!」
再び空間を埋め尽くす『渦』の津波を発生させる。
それと鹿室の『天象封石』による吸収が鍔迫り合いのように火花を散らす。
「意味が分かりません
ですが、貴方にはまだ良心が残っているのを信じます!」
「うるせえ死にやがれ!!」
「貴方をそんな薄汚い殺人鬼にしたのは全て『魔王』の仕業!
その汚染の証である『異能力』をこれで封じれば正気に戻れる!!」
「そして夬橋さんを含めた全ての人に心から詫びるのです!!」
だがその結末は、許容量オーバーによる魔法剣の崩壊。
抑えを失った『渦』達が勢いを弱めたまま八朝へと殺到する。
『■■!』
灯杖による『相殺』の突きが、人物一人分僅かに押し返す。
周囲からの余波を受けるも許容範囲内のダメージで収まった。
安堵して早々、丸前からの異様な気配に戦慄する。
「薄汚いとは何だ、聖戦を穢すかこのクズが!
魔王の仕業とはどういう了見だ、俺の『力』を馬鹿にしやがって!!」
丸前の周囲を黒い螺旋が取り囲み始める。
集中しているのか、何一つ身動きができない。
その隙に八朝が魔法剣を作り
それを持たせることで鹿室の意識を取り戻す。
「だったら、何だって言うんです?」
「おい、よせ止めろ!」
「罪のない人間を大勢殺して
貴方はどれだけ身勝手なんですか! 恥を知りなさい!!」
その瞬間、世界が割れた。
そうとしか思えない音が鼓膜を引き千切る程の力で揺らいでいった。
これが『七災』を殺した『渦動』の極致。
全てを一点に圧し潰す『閉じた終焉』の具現たる『渦動破』。
円盤のように周囲を平らげ、その目を此方に向ける。
「……ッ!」
余りの激しい気流に立っているのだけがやっとである。
目を瞑り、まだこれが『本体』でないという事実に打ち震える。
鹿室すらも口がきけない程である。
「罪が無い、だと?
寝言をほざくなよこの罪人が!」
「俺を侮辱する全てが罪だ!
馬鹿にした時点で、貴様らを逃がしはしない!!」
万物が擦れ合い、激しい雷を迸らせる。
学園橋は円盤に触れた全てが消し飛んでしまっている。
「安全圏から石を投げつける畜生共よ!
義憤などという『言い訳』を振りかざす暴力主義者共よ!」
「目を逸らすな! こっちを見ろクズが!!
この『繧ェエ?蜉ヲ@蟷迹コ辯』の薄汚い豚共が!!!」
丸前は八朝達でなく上を見上げて絶叫する。
こちらを見ていない、どこか虚空の存在を呪うように狂った声を上げる。
「いつか届かせてやろう、貴様等の足元に!!
罪を背負い、贖罪もせずのうのうと生きている貴様等に地獄を見せてやろう」
「極大の苦痛を味わって死ぬが良い!!!」
鹿室が『即席神託』を頼りに攻撃を仕掛ける。
丸前をミンチにする筈だった雹嵐が渦動破に吸い込まれる。
「それが貴様等の答えか……口ほどにも無い!!
『悪魔』を切り裂いたこの刃に通じる道理があるものか!!」
「お前……さっきから誰と話してやがる!」
「無論、全員だ」
丸前の醜悪な独演会は、急激なトーンダウンによって終了する。
だが『敵』を見据えたまま、妖刀の切先を向けて狙いを定める。
『渦動破』
続きます
実はこの展開も当初のプロットから外れています
元々は『鹿室不在』で『丸前vs七災vs八朝』を予定しておりました




