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Page100-5

2021年10月30日 完成(1日以上遅刻)


 遂に市新野(いちしの)腸鞭(アーム)を取り出した。

 その悍ましい光景は、誰の目から見ても『闇属性』のそれであった。




【6月14日(日)・昼(13:55) 篠鶴学園・某所】




「……ッ!」


 一部で音速を突破する鞭の破裂音が鳴り響く。

 だが恐るべきは腸鞭(アーム)の威力ではなく、その追加効果である。


「あ、兄貴!?」


 悲鳴のような営倉仲間の声が聞こえる。

 恐らく腸鞭(アーム)から飛んできた病毒(ギフト)の飛沫に当たったのだろう。


 赤痢、疱瘡、偽膜、幼虫移行、それらですらない伝染病のカクテル。

 幸いにも犠牲者はその一人だけで済んだ。


「……ッ!」


 いつになく瞳孔を窄めて怨敵を捉える市新野(いちしの)

 後戻りのできない彼は、せめて目の前の敵を殺そうと2撃目を振るう。


 そして、敵の『ある弱点』に気付き口角を上げる。


(全く身動きが取れないことに気付いたか

 ……だとしても、お前が直接攻撃を選んだ時点で終わった!)


 未だに騒然とし混乱の坩堝となる観客を差し置いて勝負が決する。

 誰の目から見ても明らかな肉の連続的な断裂音。




 腸鞭(アーム)が『即死』を受け、根元に至るまで白化して砕け散った。




「ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛!!!!」


 市新野(いちしの)が腹を抱え苦しみだす。


 人体にとって重要な臓器が消え失せた事で

 生命活動に必要な平衡が堰を切ったように失われる。


 すっかりと真っ青な顔になり、泡を吹いては悶え苦しむ。


「……ッ!」


 八朝(やとも)(nahs)を解除し余力を残したまま駆けだす。

 向かうのは病毒(ギフト)を受けた営倉の仲間、言うまでもない。


 だがそんな彼を引き留めたのは沓田(くつだ)であった。


「おい、何をするつもりだ?」

「言うまでもないだろ」

「その前に答えろよ

 そいつを助ける意味はあるのか?」


 沓田(くつだ)から余りにも冷たい言葉が飛び出す。

 だが周囲の反応が思った以上に薄い、未だに介抱し続ける一人を除いて……


沓田(くつだ)さん、貴方一体何を!?」

「まだ理解できんのか、ソイツは助ける価値もないクズだ」


 更に理由に挙げたのは二つ。

 八朝(やとも)を鬱憤晴らしにした『過去』と、昨日の席で聞いた『態度』。


 それらが抵抗軍の理念と致命的に合わないと指摘する。


「俺達は自らに覚悟を決めて学園と戦う、そういった集まりだ

 そんな中で、依存を恥とも思わないお前らは邪魔以外の何者でもない」

「な……!? ……ッ!?」


 辺りをキョロキョロと見渡して、沓田(くつだ)の言葉が正しいと知ってしまう。

 彼に向けられる視線は『失望』『排除』、その現実に酷く打ちのめされる。


 そして今度は八朝(やとも)の番であった。


八朝(やとも)、お前はこれ以上に無く『力』を示した

 故に今から俺達はお前の指示に従う、後は分かるよな?」


 無言の圧は、全幅の信頼との裏返し。

 彼等の『学園脱出』の夢が、信念が、八朝(やとも)を縛り上げる。


 だが、八朝(やとも)にも信念があった。


「それが『見殺し』も含むのなら、お断りだ」

「……お前は何を言っているのか分かってるのか?」

「ああ、よく理解した

 ……自分たちだけで助かろうとしている『同類』だってな」


 八朝(やとも)が制止を振り切り、まずは市新野(いちしの)へ。

 先程ひったくった封印手錠を嵌め、『伝令の石(アンゲルスリシオン)』で腸鞭(アーム)を回復。


 続いて多彩な伝染病で苦しむ営倉の仲間の元へ。

 これも同じく『伝令の石(アンゲルスリシオン)』に病毒(ギフト)を吸わせて癒す。


 これでもう『伝令の石(アンゲルスリシオン)』は使い切った。


「あ、ありがとう……ありがとう!」


 縋りつくように泣く営倉の仲間の子分。

 無論、彼等の為ではなく、もっと卑近で身勝手な『自分の信念』の為。


 何一つ受け取らないまま、思考は次の展開へと巡る。


(さて、『前の6月』と同じでは確実に負ける、教官たちを出し抜く為には……)




◆◆◆◆◆◆




「やあ」


 唐突に弘治(こうじ)の声が聞こえてくる。

 ここで漸く自分が『前の6月』の回想をしていたのだと気付く。


「おはよう眷属、いい夢は見れたかい?」

「……まあ、そうだな」

「それは良き事哉、珈琲でも淹れてやろうではないか」


 そうして段々と珈琲の芳醇な香りが立ってくる。

 箱家(はこいえ)は何かを調べているらしく、書架群の中なのだろう。


 地下に朝日は届かないが、空気だけでも清々しい朝なのだと感じる。


(そういえば……)


 ポケットの中の『メモ帳』を開いてみる。

 相変わらず中身は真っ白、昔日のことなど忘れたかのように……


(……だったら)


 八朝(やとも)は思い付きで回想の内容を書き記す。

 何一つ現実として存在しないものだが、それでも忘れぬように。


 今度こそ失わないように、戒める意味で。


「これでいいか」


 そこに丁度良く弘治(こうじ)が珈琲を持ってやって来る。

 カラバル豆でもない珈琲だが、苦手なので角砂糖を何個か溶かしておく。


 そして弘治(こうじ)も『メモ帳』に気付く。


「そうか、本来の使い方をするのであるな」

「まあメモ帳だしな」

「成程、では我が蔵書にも同様に」

「それは困る」


 珈琲の苦味で完全に目を覚ます。

 今日も『七災之陸(尽きぬ暴風の骨)』を攻略しようと準備を進める。


 だが、弘治(こうじ)からの軽口に驚かされるとは思っていなかった。


「では気を付けて行ってくるように

 『前回』に引き続き、助っ人の鹿室(かむろ)と……」

「……待て、今誰って言ったか?」

「ああ、助っ人の鹿室正一郎(かむろしょういちろう)と言った」




鹿室(かむろ)が存在しているのか……?」




◆◇◆◇◆◇




 ・『汚染(gaml)』の性質を理解した

  これからは攻撃無効手段、及び『雷の小径』に有効に使えるものと確信する




Interest RAT

  Chapter 10-e   再走 - Reset from Deviation




END

これにてCaseもといPage100、『小さな改変』の回を終了いたします


『改変』とは一体何のことでしょうか

全然覚えがないでしょう、でもどうやらそうもいかないようです


それにしても今回は『強くてニューゲーム』でありました

まあ回想なのでそれぐらいはしないと示しがつく筈もなく


だが、回想と現実の違いとは一体何なのでしょうか?

特に『神隠し症候群』という『七災』を抱える主人公は如何とも分け難く……


次回は『時を超える妄執』

それでは引き続きお楽しみくださいませ

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