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2021年10月28日 完成(2時間以上遅刻)
状況3・『総合工作戦』
当時を反映しながら市新野の野望を砕け
【6月13日(土)・朝(5:55) 篠鶴学園・臨時営倉】
「よお、お前も始めてか?」
それは『前の6月』にて夥しい死者を齎した『学園逃亡戦』の2日前。
第五層の猛攻の傷も冷めやらぬうちに対テロ戦に巻き込まれたあの時。
同じく営倉に放り込まれたならず者学生たちが下卑た視線をくれる。
(何だ……この感情は……ッ!?)
それは仲間を守れずバラバラにしてしまった自分への嫌悪。
それを目の前の人間へすり替えて、殺し尽くそうとする悍ましき憎悪。
……早くこいつらを殺さないと
「何だコイツ苦しそうな顔しやがって
昨日のご飯がお腹に合いませんでちゅたか、文化部ちゃん?」
笑い声が、すり替えをどんどんと許容していく。
だが記憶ではこのまま憎悪に身を任せ、数日間に渡って……
(何としてでも耐えなければ……)
自然と耐え忍ぶ目と加害性が加わり、周囲にガンを付ける有様となる。
それが先輩囚人達の機嫌を更に悪くさせる。
「何だその眼は、文化部の癖に生意気だな」
「兄貴、こいつシメようぜ」
その言葉と共に雹の如き暴力が襲い掛かる。
拳が靴底が石が刃物が陶磁器が、八朝の身体を打ち据える。
逃げようとしても既に羽交い絞めにされて手遅れ。
「……ッ!!」
「何だよ何も抵抗しないのか?
嫌よ嫌よも好きの内ってかぁ!?」
「気持ち悪りぃなぁ!!」
唾を吐きつけられ、ドブのような臭気がこびりつく。
それでも耐えろ、何故ならもうすぐ騒ぎを聞きつけた看守達が……
『貴様等何をしている!!』
たった一声で全員がビシッと並んで正座する。
それが不可能な八朝は寝転がりながら虚ろな目だけ向ける。
そして看守からの視線は……
『何が起こったか報告せよ!』
「はっ!
新入りの八朝が急に暴れ出したので全員で止めましたであります!」
『そうかご苦労!
ならば私から直々に罰を与える!!』
八朝に炎壁生成魔術が掛けられる。
生きたまま数千度の炎に炙られ、喉の奥から爛れ落ちる程の苦痛を浴びる。
「あああああああああ!!!!」
『口答えをするな!!』
更に教官からの暴力が頬に刺さり、倒される。
そして顔を掴まれ、万力の如き握力で更なる苦痛を与え続ける。
「……ッッッ!」
『上官の命令に返事をしろ!!
薄汚い十死の諸力共の真似をするな!!!』
今度は掴んだ頭を執拗に地面に叩き付け続ける。
異能力者が自然回復である程度の致命傷を回避出来るのを良い事に
普通の人間には出来ない程の強度の『折檻』を与えて罪と鬱憤を晴らす。
実に薄汚い性根であろうか。
(……ッ!)
心の中から湧き出す感情が気持ち悪くてしょうがない。
先程の汚物を軽く超える呑酸の刺激臭に精神が削れていく。
一頻り頭を打ち付け終えるまで、微かに嘲笑の声が聞こえ続けた。
『チームの輪を乱せばこのような罰も有り得る
心して十死の諸力との戦いの為に励むがよい!』
気持ち悪い程に重なった返事の音。
またしても声が出なかったので、持っていた小槌で頭を殴られた。
そして今度は首を締められながら持ち上げられる。
『ハイと言えこのクズが!!!!!』
「は……い……」
だがもう一発小槌による制裁が降り落ちた。
これにて暴力の嵐が止み、普段通りの『訓練』が開始された。
無論、八朝の『反抗的態度』によりロードワークがいつもの二倍。
走っていくうちに嘘のように暴行跡が消えていくのが今更ながら気持ち悪い。
「おい」
誰かお仲間から話しかけられた気がするがどうせロクな事は無い。
さっさと殺してしまえばいいんじゃないのだろうか。
(……ッ!)
僅かに残った理性で食いしばる。
噛む動作に全力を注いでしまい、唇の一部を嚙み千切ってしまう。
「そうか、だったらあと数時間耐えろ」
誰かがそう言い残したのちサッと離れていく。
思考の大半が痛覚で麻痺し、それでも生き残った部分で考える。
(………………沓田?)
果たしてその言葉は真実だったのか。
深夜まで続いた『お仲間』による拷問紛いの最中に、多くの足跡がやってくる。
そのまま背景が変わる事十数分。
『あの時』とは異なり営倉の全員で『抵抗軍』の仲間入りを果たした。
「本当に助かりましたよ沓田さん!」
「そうか、ところでアレは……」
「ああ、アイツは慰み物にしかならねぇ役立たずですぜ」
「……したのか?」
「とんでもない!
まぁ、ボッコボコにしただけなんですけどね!」
沓田と囚人たちが和気藹々と話している。
今は何故か彼等からの嘲笑もどこ吹く風のレベルにまで下がっている。
激痛が無いだけで、こんなにも思考がクリアになるとは思わなかった。
(……それに、本当の敵は)
八朝の視線が人の輪の中心にいる市新野へ。
今回の想定で達成すべき目標は、彼による『時限式病毒』の蔓延を防ぐ事。
具体的には2日後の『決行式』で振舞われるジュースを誰にも飲ませない事。
(……今言っても誰も信じないだろう
そこから抵抗軍全員で市新野を疑うレベルまで持って行かないと)
だが、それ自体が無理難題である。
どう考えたものかと頭を捻ると、懐かしの感触とぶつかる。
『ふうちゃん!』
「エリス……生きてたのか」
それは当時も、今現在も含めた一言。
だが感傷に浸っている暇はない、この瞬間から出来る手は全て打つ。
「エリス、早速だが一つ頼んで良いか?」
『いいよー』
「助かる、それで今すぐ三刀坂と連絡が取りたい」
続きます
元になった話:Case48-3-2




