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Case 99-5

2021年10月25日 完成(1日以上遅刻)


 混沌としていた学園から情報を持ち帰った八朝(やとも)

 情報を整理する為に一旦隠れ家に戻ってきたのだった……




【4月29日(火)・深夜(3:58) 磯始地区・弘治の隠れ家】




「やあ、遅かったではないか眷属よ」

「少し手間取ってしまってな、すまない」


 そう言って八朝(やとも)が学園に行った時の経緯を話す。

 二人の反応が鋭かったのは、本体ではなく『侵入方法』であった。


「ほうほう、辰之中の模倣を利用して調査したのか」

「まぁ、そうだな……それで?」

「我には盲点であった

 だがいいのかね、こんな情報を我々に提供するのは」


 確かに弘治(こうじ)の指摘通り余計な事を話す必要はない。

 ましてや呉越同舟といかなくても同床異夢の相手となれば尚更である。


 それでも値千金に成り得る情報を漏らす理由。


弘治(こうじ)達は『七災之伍(天底に沈む交差点)』に挑んでいる

 俺の任務を肩代わりしてくれたお代という事でどうだ」

「ほうほう」


 一先ずは弘治(こうじ)は納得してくれたらしい。

 そして無言の読書を終わらせた箱家(はこいえ)がこちらに視線を投げかける。


「では辰之中が何処にあるかはご存じですか?」

「残念だが、それはお代に含まれていない」

「そうですか」


 急速に興味を失った箱家(はこいえ)が中断していた読書を再開する。

 とはいえ封印した依代(アーム)を引き換えにすると思っていたが目論見外れ。


 箱家(はこいえ)の意思は相当固いらしい。


「さすれば、我が『蔵書』を欲するのだろう」

「ああ、ブルースの歌詞が載っている本がいい」

「では少々待つがいい」


 そう言って弘治(こうじ)が奥の書架群へと消えていく。

 約10分ぐらい探している間に、彼が読んでいた本に栞を挟んで流し読みする。


 内容は銃器の図鑑で、丁度『人影』が使っている銃もあった。


(コルトM1903、工作員や将校が使う護身用の拳銃……)


 あの『人影』がそんな偉い立場の人間には見えない。

 というよりも、屋外の中距離支援でこの拳銃を選択するのは有り得ない。


 あの距離なら『死体漁り(コープスピッカー)』の方がまだ使える筈である。


「おい」

「何だ箱家(はこいえ)

「それ読んでて楽しいか?」

「……楽しいも何も、証拠集めに必要だ」


 突然箱家(はこいえ)に話しかけられて困惑する。

 だが相手の顔も嫌悪ではなく同じく困り果てている様子である。


 そういえば今彼が読んでいる本はここの蔵書ではない……


「まさか読めないのか?」

「へっ、知るかよバーカ」


 箱家(はこいえ)のしたり顔は先程の意趣返しという事なのだろう。

 何にせよ、この『空白の書』を読める人間は何故か2人のみ。


(『空白の書』といえば……)


 八朝(やとも)がポケットから『メモ』を取り出す。

 余りにも忙しく、全然読む時間が無かったそれを開いてみる。


 ……だが、何も書かれていなかった。


(おかしいな、俺の記憶喪失前の物事が書かれていた筈で……)


 だが、最終ページまで中身は真っ白。

 まるで道を失ったかのような呆然とした感情がこみあげる。


 頭に刻めばいいと人は言うが

 こうして証拠が消え失せるとなると、忘れた時が大変である。


「眷属、これで十分であろう」


 どすんと机の上に本のタワーが置かれる。

 一応3等分に分けてくれたが、それでも凄まじい量である。


 篠鶴市民(異世界人)である弘治(こうじ)が『ブルース』を知らないのか

 歌詞が載っている本を手あたり次第という有様である。


「ああ、十分だ」


 箱家(はこいえ)の嫌そうな視線を無視して早速本に取り掛かる。

 1時間は掛かりそうだと思っていたが、ものの一発目で目的の本が見つかった。


(ロバート・ジョンソン

 十字路の悪魔に取引して音楽の才能を貰ったブルースの天才)


 その歌詞を覗いているも、英語が多すぎて読むことができない。

 流し読みではタイトルを和訳するだけで精一杯である。


 その中で一番簡単で気になったのは『32-20 Blues』という曲であった。


(……ピストル、拳銃、38)


 まるで弾かれたかのように、先程の銃の図鑑を開いてみる。

 コルトM1903、口径は38と『32』の2種類……


「見つけたようであるな」

「ああ、少しずつだがあの学園にあった物が再現されている」


 『七災之陸(尽きぬ暴風の骨)』の縁物は『十字路の悪魔』で間違いない。

 だがそれはこれまで以上に難しい相手という事を証明したに過ぎない。


 思わず天を仰ぎ、大きな溜息を吐く。


「如何した眷属よ」

「縁物は悪魔だ、それが問題だ」

「それは汝の得手ではなかろうか?」

「ああ、それが『小さな鍵(レメゲトン)』由来ならな

 今回の悪魔は近世のアメリカ人の大衆が生み出したものだ」


 即ち、都市伝説と呼ばれるもの程厄介な存在は無い。

 無意識という無根拠の中から生まれ、噂話(ミーム)によって維持される存在。


 突き崩す論理が『記憶の物理的消去』以外に存在しない。


 なので普通は『倒し方』と呼ばれるものが一緒に付記されるのである。

 『口裂け女』ならポマード、『見越し入道』なら見越したの一言がそれである。


 残念ながら『十字路の悪魔』にはそういったものは存在しない。


「ほうほう、ロバート・ジョンソンという奴が件の……

 聞く限り奴はメフィストフェレスみたいな輩であるな」

「……だな」


 ふと、忘れていた疲れがどっと込み上げてくる。

 そういえばもう丑三つ時すら過ぎているという事を失念してしまっていた。


「ひとまず明日に回す」

「ああ、では休むがいい眷属よ」


 そうして適当なカーペットの上で寝転がる。

 自室に比べるとやや固い感触だが眠れない訳は無い。


 というよりも、ここは一つ『悪あがき』がしてみたかったのである。




(……均衡なる諸力よ(Kvkvby)、暗天に現せよ(HaQabbalah)




◆◇◆◇◆◇




 【何も書かれていないようだ】




Interest RAT

  Chapter 09-e   宴会 - Crossroad Festival




END

これにてCase99、『最初の行動』の回を終了いたします


なるほど、それほど記載が無い都市伝説ときましたか……

普通なら弱点もありますが、化物に化物をぶつける手段でもアリかも


にしても、そんな同族の『人影』を殺す『人影』とは一体……

刀を持っているようですが、Oh Japanese Samrai!という事でしょうか


それとも……


次回は『霧雨』です

それでは引き続きよろしくお願いいたします

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