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Case 99-4

2021年10月23日 完成

2021年10月24日 修正(誤字部分など)


  ……マスター達は無事でよかった。

  ここからじゃ何も分からないが、至って平和そうで……


 『だれか、いるの?』


  しまった……!


 『……』


 『ふうちゃん、まだかえってこないのかな……』




【4月29日(火)・深夜(1:14) 祈りの地・学園島エリア】




 目論見は上手くいった。

 誰にも気づかれることなく正門側からの侵入に成功する。


 本日の運はとても良いらしい。

 封印された依代(アーム)も『汚染(gaml)』とあまり使わない物だった。


(さて、久々の学園は……)


 橋に並ぶ灯りはデザインが奇妙な物に変更されている。

 一切動かない牝牛の上に溶けて『3』だけ逆になっている時計が乗っている。


(ダリの『記憶の固執』?

 いや、床にあるのはムンクの『叫び』で一貫性が無い)


 いつから学園は現代アートの展覧会になったのか。

 思わぬ記憶違いで警戒する八朝(やとも)に更なる奇妙が襲い掛かる。


 門には『篠鶴学園』ではなく『Thaumiel(二つの顔)』が書かれ

 その傍で三角座りで蹲る子供の人影もあった。


 学園内は文化祭をやっているようにエスニック料理の出店が立ち並び

 中には小さな樽でビールを乾杯する男の人影たちまで見られる。


 車やバイク、どころか雑草や石にまみれて歩き辛い。


「なんだよこれは……」


 この数分だけで自分の知っている学園なぞ存在しないのだと突き付けられる。


 これらの渾沌が現実にもあると思えば

 暴風の壁で隔てられて良かったと素直に漏らしてしまう程だ。


 頭を抱える八朝(やとも)に、更に記憶にない土壁の建造物が出てくる。


「……取り敢えず入ってみるか」


 建物は『GULFPORT(ガルフポート) ISLAND(アイランド) ROAD(鉄道会社)』とあるが、それは真っ赤な嘘。

 ホワイトノイズまみれのBGMが流れる内装はキリスト教由来の荘厳なデザイン。


 天井には天使を含む壮麗な絵画が直接描かれている。


(礼拝堂か、どうしてこんな所に……)


 手に取ったパンフレット内のプログラムも

 『結婚式』『桃太郎』『黒犬』『姫騎士の朗読会』と全く脈絡が無い。


 理解不能な情報で疲弊し、長椅子で一休みする事にした。

 どんなに奇抜でも目を閉じてしまえば疲弊を認識する道理はない。


 瞼の暗闇の中で、見落としてきた数々が巡る。


(……そういえば道行く人間を全然見ていない)


 目を開ければ、探すべきものが一つに定まった。

 今まで背景に紛れていた人影の様子をつぶさに観察し始める。


(一見バラバラに見えるが、数人ぐらいのルートが全く一緒だ)


 例えば集団行動(マスゲーム)のそれのような隠された秩序性。

 分岐点に通りがかるたびに跪くように祈る様はまるで巡礼者のよう。


 そして、人々は校庭の『ある地点』を必ず通るルートで歩いていた。

 それは、高等部校舎と中等部校舎、部活棟へと別れる『十字路』


「これは……」


 そこだけ道中を埋め尽くしていた筈の石が一切見当たらない。

 代わりに円と十字を縁取るように石が並び、中心に人一人分の穴がある。


 八朝(やとも)も穴へと潜ると、そこはツルハシ音が鳴り響く地下迷宮。

 いや、支保工に吊るされた灯りがどう見ても『坑道』にしかみえない。


 しかも、坑道の構造も特殊なものである。


 普通なら鉱脈に沿って、水源を避けるように無秩序に伸びるそれが

 ある深さで突然4メートル毎に交差する条坊型のルートに変化した。


(執拗に『十字路』が……待てよ、これは!)


 一つ思い当たる節がある。


 『七災』の縁物が『願いを叶えるもの』がモチーフなら

 『十字路』に関してはあまりにも有名な概念が存在している。


 魂と引き換えに一人の天才音楽家を生んだ『十字路』。

 即ち、『クロスロード伝説』と呼ばれるアメリカの都市伝説である。


(……いや早まるな、他の証拠との整合性が無い

 特に、この『七災』を覆う暴風の壁なんかは……)


 段々と思考の迷宮へと迷い込んでいく。

 だが、それはこの渾沌に身を置き過ぎたが故のデバフに違いなかった。


 既に情報は十全に手に入れられた。

 後は弘治(こうじ)の隠れ家にある『白紙の書』とにらめっこすれば事足りる。


(戻るか)


 踵を返して坑道の入口へ。

 祈りの地の優しい外の光が差し込んだ瞬間、イレギュラーな人影が見える。


 人影は刀を手に数人と戦っている。


 一人は体術で翻弄し、もう一人は中距離からの銃撃

 さらに双子の魔術師が溶岩弾(フレアグラム3)を多重詠唱する。


 流星雨の如き攻撃を、人影が刀一本で全て切り伏せる。

 余りにも流麗で無駄のない刀捌きに思わず心の中で喝采を送る。


(これは一体誰だ……ッ!?)


 一瞬、その人影からの『確かな』視線を受ける。

 まさかと思っていたが、数時間前の怪現象の答え合わせのような光景。


 ここに来る前にマスター達の様子を見ようとして

 突然咲良(さくら)らしき人影に察知されて、思わず逃げた一幕。


 まるで幽霊に遭遇するような論理で

 篠鶴市の人間が『祈りの地』の人間を認識しているのだろうか。


(……!)


 人影はずっとこちらを注視している。

 だが、先程の『敵』らしき人影がリスポーンしたのを察知して視線が外れる。


(……本当に一体何が起きているんだ)


 そうして八朝(やとも)は変わり果てた学園を後にする。


 振り返る『祈りの地』の学園の姿が

 一滴の着色料が混ざった水面のように渦巻く靄が見えた気がした。

次でCase99が終了いたします

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