Case 99-3
2021年10月23日 完成(1日以上遅刻)
弘治と箱家の同盟に入る。
ひとまずは風雨を凌げる場所は手に入れたが、代償は大きかった……
【4月28日(月)・夜(6:11) 篠鶴地下遺跡群中層・学園島エリア】
侵入点は意外にも早く見つかった。
そもそも学園の『地下ダンジョン』と繋がっている。
寧ろ難航する方がおかしい。
ふと、『アイリス社』に襲われたあの時を回顧する。
(目生の裏切りは……余計に彼の素性が分からん)
この『裏切り』という現象は
弘治達曰く『アイリス社』による洗脳だという。
そうすると、目生は『裏切り』のタイミングが早すぎる。
全くの無関係なのか、もしくは彼も『アイリス社』の利害関係者なのか。
……何も分からないのに考える癖は修正した方が良い。
(……この大広間も記憶通りだ
だが、やけに『アイリス社』の連中が多い)
眠るようなローマ風構造物の裏にちらほらと人影。
目を眇めてみると、防弾ベストとマイク付きフルヘルメット、そして小銃。
『七災之伍』で襲ってきた連中と同じ装備である。
『■……』
いつも通りに『幻惑』を使おうとして、ある事を思い出す。
それは彼等に協力する為の『代償』であった。
『君が素直に協力してくれるとは思えない
だから、君には時限付きの制約を掛けさせてもらうよ』
唐突に理不尽な要求をしてくる箱家。
だが、弘治は止めるどころか『その方が彼は強くなる』と歓迎ムード。
そして『時限付きの制約』とは、1日毎に依代を一つ封印である。
初回で幻惑を封じてきた辺り、箱家の敵意は本物である。
なお時限付きとは
22の依代が尽きれば役立たずとして追い出す事に他ならない。
(……巡回パターンが単純すぎる
こいつらは偵察ではなく『出口を塞ぐ』担当なのだろう)
気を取り直して大広間の状況に目を凝らす。
数は大広間を見て回るのに過剰な数十人態勢。
だが彼等の持ち場といえば10メートルぐらいの直線を往復のみ。
中には精神的疲弊から勝手に休む輩もいるが
そのせいで余計に複雑なパターンになってしまっている。
……かと思えば、全く監視していないエリアが細道のように外へと通じている。
(早朝なのに、お疲れ様)
という事で、わざと作られた監視の穴を通って『地底探検部部室』に出てくる。
無論、そんな歴史など存在するわけがなく、部室には無数の机と椅子のみ。
物音を立てないようドアに近づき、鍵の部分を確かめる。
(……鍵が掛かっている)
窓の外を見てみるが、校内エリアの端しか映さないのではまるで意味がない。
昔日は並木で塞いでいた外の視界が灰色一色の異界へと変貌している。
これが件の『暴風の壁』である。
曰く『七災之陸』は侵入者を粉々にする『壁』があるという。
そしてその『壁』が少しずつ大きくなり、やがては篠鶴市を粉々にするだろう。
他の『七災』と比べても災害色が強い。
(義憤に駆られて真っ先にすべきではなかった
こうして『アイリス社』が監視網を張っているなら今のように慎重に)
自分が声を殺して粛々と進んでいったのとは対照的に
外では絶えず鳴り響く風唸りと大小の物体が転がる音が引っ切り無しに鳴る。
屋内が安全であれば、言える事は一つ。
この部室は謂わば『行き止まり』であった。
(他に道は無いのだろうか)
学園で地下部分といえばこの部室と、後は異能部部室。
『辰之中』で特殊なルートを使わないと現れない地下への階段のその先。
だが、あの部室に階段以外の侵入箇所は存在しない。
(こうしてみると幻惑は優秀だったんだな
いや、俺が依代を上手く使えなかった証左なのかもな)
今更になって自分の技能の偏りに頭を痛める。
手数で勝負するタイプなのに、その『手』に優劣をつけてしまっている矛盾。
そうして『座山挨星歩』へと逃げた、なんという滑稽か。
(ああ滑稽だよ、まずは初心に立ち返らねば
今ある依代でこの状況を切り抜ける方法を)
考えれば考える程、出口を塞ぐ人員が邪魔で意味を為さない。
それでも自分の『手』を考慮する……依代に留まらずあらゆる可能性。
ふと、何かに気付く。
(『辰之中』の模倣は、人間に対しても効いていた
それに『辰之中』の場所は確かこの遺跡の最深部の……)
つまり『祈りの地』に現れる人影、特に学園島にある人影を見るという事。
だが『祈りの地』からの変更は地上に変化を及ぼさない。
それは直接状況を打開する手段に足り得ない。
だが、彼が問題にしている『情報不足』を解消できる手段である。
特に、ノーリスクで『七災』の縁物を調べられるのが大きい。
(今日は一先ず戻ろう
幸いにもお互いに時間には縛られていないだろう)
(明日の深夜1時だ)
それでも八朝に懸念事項が残る。
一つずつ失う依代について、絶対に失ってはいけないもの。
相殺が狙われないよう祈るしかない。
続きます




