Case 99-1:【該当データが存在しません】
2021年10月21日 完成(1日以上遅刻)
『外が騒がしいなァ』
『んー……祭りでもやってるのかな?』
『この時期にか?
にしてもアイツ、また帰ってこな……い?』
『どうしたの、おとうさん』
『……『また』って、どういう事だ?
アイツの帰りが遅かった事なんてあるのか?』
『……』
『そういや、どうして端末を捨てろと
咲良……お前の考えはよく分からんなァ』
【4月27日(月)・夜(23:01) 篠鶴地下遺跡群表層・水瀬エリア】
地下遺跡に差し込む光はたった2種類。
即ち外から持ち込んだ人工的な光と、外から差し込む自然光。
この時間ではささやかではあるが夜の静かな光の気配がするものである。
だが、今の自然光は不安定な暖色の暴力である。
(……焼きやがったな!?)
その先には水瀬神社の磐座がある。
神社が特別明るい訳ではないので、光源は言うまでもなく一つのみ。
神社が火災に遭っている、いや状況からして放火の方が正しい。
「何が起きてんだ……!?」
数時間前の豹変ぶりが頭を離れない。
敵の中に、その他と然程変わらないレベルで憎悪を浮かべる同級生の姿。
何も悪い事はしていない筈だ。
確かに『今回』は秘密裏の行動が多かったが、それも公益には適う。
『七災之参』を倒したことで鳴下家を復活させた。
『七災之肆』の恐るべき転覆計画を未然に止めた。
そして『七災之弐』を排除したことで力の天秤を正した。
(……だが、不平等が消えたわけじゃない
傍目から見れば『この世界』の鳴下家はエイリアン同然だろう)
曰く、2年前の『七災之壱』の暴走により篠鶴機関共々排除された。
この篠鶴市は、2年にも渡って統治者不在のままある程度の秩序を保っていた。
非能力者が虐げられている現状は、治安維持の為のガス弁だったのだろう。
それ自体は倫理に悖るものであるが、そんな彼等の平穏を破ったのは……
(……)
失意に屈している暇はない、いやその価値すらない。
他の誰かがどう考えようが、自分にはやるべきことが残っている。
エリスを見つけ出し、彼女の身体を取り戻す。
その為にも『使命』である『死んだ瞬間の記憶』を取り戻す。
……なのだが、それは既に得ている。
(俺は『■■』を殺した絶望で身投げして死んだ
これが全ての筈だ、他に何があるってんだよ……)
彼の『元世界』の記憶はこのように完全に戻ってきている。
だが、一向に『使命』のクリア扱いになっていない。
引っ掛かる点は一つ。
『七災』を破壊した際に出てくる黒霧の中で見た『記憶』の数々。
(……いや、あれは十宮による洗脳だった筈
そう分かれば、もう記憶が『七災』で色褪せる事は無くなった)
そこに、遠くからの怒声と苛立たしそうな足音たちが聞こえ始める。
特殊な化物の巣窟である地下遺跡群に非能力者が乗り込んでくる。
有り得ない光景なのだが、これも八朝の犯した罪の一つ。
即ち、化物が入水自殺するようになったので
地下遺跡の化物その例外に漏れず、数を激減させていた。
今や篠鶴地下遺跡群は全域が観光名所レベルで安全となっている。
「クソッ!」
八朝は光に怖がるネズミのように、より深い闇へと走り出す。
そこに、見覚えのある十字の物体を見つける。
それは箱家が『絶滅命令』に使う依代に酷似している。
その十字の物体が奥へと並び置かれている。
「……こっちに来いって事か?」
箱家は特に八朝への憎悪を募らせる人物である。
彼に与することの危険性を考えたら無視するべきなのだが……
『■い、こっち■ら音がする■!』
『八朝風太を■せ!』
段々と、悍ましい罵声が明瞭になっていく。
ここで迷っている暇は無かった。
「……ッ!」
八朝が『†』の並びに従って通路を突き進む。
まるで『†』自体に魔除けの力があるように、憎しみの声が遠ざかっていく。
道標は直線でなく、何度も角を曲がらせる複雑なものだった。
それについても八朝は覚えがある、即ち『弘治の隠れ家へのルート』である。
(……これは一体どういう事だ?
箱家と弘治が結託している?)
目的もスタンスも違う彼等が協力している理由が分からない。
だが、八朝を包囲しようとしている状況で
暢気に道標を置くことが出来ているこの状況こそが結託の証なのだろう。
(……急ぐしかない)
距離的には水瀬神社から太陽喫茶ぐらいだろうか。
散々走った後に、『†』の途切れる扉の前に辿り着く。
「ここは弘治の……」
すると扉が勝手に開かれる。
その先には昔日の『図書館の風景』と、二人の姿があった。
即ち椅子に座る箱家と、扉を開けてくれた弘治。
「息災であったか、我が眷属よ」
続きます




