Case 97-5
2021年10月14日 完成(57分遅刻)
2021年10月15日 修正(副題部分)
目生の全くの予想外の場所を報告してきた。
嫌な予感を覚えた八朝は遠海神社に一人で挑むことにする……
【4月27日(月)・放課後(17:36) 遠海地区・遠海神社】
そもそも、親衛隊があの掌藤親衛隊がなら廃ビルを拠点にする筈である。
用賀が一家ぐるみで隠蔽した幽霊拠点なら活動内容がバレる事は無い。
だから、こんなにも開放的な場所をアジトにするとは想定外である。
(……だが、嘘は言っていないらしい
そこかしこから殺伐とした視線を感じる)
石畳を踏むたびに、肌を刺すような気配が濃くなっていく。
一人の、全てを圧し潰す迫力などではない……少なくとも5人以上。
(まるで、あの花火大会の夜のようだ)
八朝は喉元まで出てきた言葉に苦い顔になる。
約束の場所に来れなかった■■を森の中で襲う○○。
『助ける』ではなく『殺す』の意思の下、○○の四肢を吹き飛ばした悪い夢。
全てが狂い始めた元凶たる記憶。
「……」
傾き過ぎて、より大地を暗く彩る太陽。
一点の光無き境内で、それよりも黒い人影にようやく出会う。
「よお、久しいじゃねぇか」
「……飼葉、他の二人はどうした?」
「用賀は自ら去り、雨止は楯突いたから殺した
当たり前だよな、化物を売って一儲けするなんてセコい真似」
飼葉が賽銭箱の上で胡坐をかいて自嘲する。
そして彼が取り出したのは、紅い『四つ葉』の描かれた栞。
……いや、呪符と呼ぶべきもの。
「これが欲しかったのだろう、八朝」
「……随分と話が早いじゃねぇか」
「お前が裏でコソコソしていた事ぐらいはお見通しだ」
そして飼葉が指を鳴らす合図と共にぞろぞろと人が集まる。
暗すぎて顔が見えない、だが憎しみの色だけが目に灯って不気味な光景である。
「お前らよく見るがいい!
コイツが私利私欲で異能力と化物を消し去った『クソ野郎』だ!」
唐突に一部の人間しか知り得ない情報を叫ぶ飼葉。
それを皮切りに、異能力者が非能力者がその区別なく憎悪を口にする。
『お前のせいでまたイジメが、どうしてくれんだよ!』
『異能力は兎も角妖精を消そうだなんて』
『私のピーちゃんを返してよ、返さないなら死ねよ』
『俺達を守るのか苦しめるのか一体何がしたいんだ』
『この『転生者』が……!』
十数人、その中にはつい昨日まで冗談を交わしていたクラスメイトの姿もある。
そんな彼等が『転生者』という最大の悪意を憚りなく口にしている。
余りの豹変ぶりに気を失いそうになるが、ぐっと堪える。
「どこでそれを……」
「はん、お前はスパイとやらの区別が付かないらしいな
こすっからい事をしくさっている割には頭がお花畑のようだ」
……目生なのだろう。
それ以外に漏洩点が分からない、いや気付きたくないかもしれない。
「前にも言ったよな、勝者が全てを取ると」
「……だから何だよ」
「お前は全取りと言いながら美味しい所のみだ
灰霊の時も、篠鶴機関とドンパチしていた時も」
「……」
「俺は仏ではない、だから三度も堪えるのは随分と堪えた
お前が俺等の安全と価値を踏み躙るのであれば致し方は無い」
飼葉が『四つ葉』の栞を投げ渡す。
そして、全員分の悪意を乗せて八朝に宣告する。
「今度こそ『全取り』してもらうぞ、卑怯者」
それは余りにも、あの悍ましき夜の生き写し。
だから、八朝は栞を破り捨てる事はできない。
破り捨てれば鷹狗ヶ島での悲劇を繰り返すのだと本能が警告する。
「どうした、今更になって情が湧いたか?
周りを見るがいい……既に手遅れなのだと分からんのか?」
無言の30弱ある瞳が憎悪を吐き出す。
ただ見つめているだけ、それだけでこんなにも恐ろしいとは。
まるで、篠鶴市全体からそう思われているかのような……
「……」
だが、これを壊さなければ水瀬神社は……
磐座の下を探索できなければエリスを探しようがない。
それだけは譲ってはいけない、その筈なのに……
「ほう、手放すか」
いつの間にか壊すべき栞が指の隙間から零れ落ちる。
それと共に、十数回程度の小銃を構える音が重なった。
目を見開いても無駄、それは間違いなく『異能力者殺し』の……
「では俺等の未来の為に死ね」
たった一瞬、憎悪に駆られた群衆が引き金を引くまでの間。
八朝にとっては永劫にも感じられる苦痛の中で、思考が。
段々と、鈍麻になっていく……
それ程までに一人の人間が憎いのか。
いや、憎いというよりも『当たり前の事』をやっているだけなのだろう。
虐められる程に弱い人間から武器を奪うとどうなるか。
意思疎通のようなものだけで絆を結んだ二人を引き裂いたらどうなるか。
余りにも、想像力に欠けた愚者の末路に相応しい。
だがそれは、飼葉にも言える事であった。
『死ね』
ここで、異能力が下敷きにする四大元素論についておさらいする。
それは世界を構成する四つの力であり
形相無きヒュレーに熱冷乾湿を加える事で分化する。
これはアリストテレスが提唱したモデルであり、通説といってもいい。
だが通説と言うからには、別のモデルも存在する。
四大元素と聞いて、最初に思い浮かべるのが『エンペドクレス』かもしれない。
彼が四つの元素論を統合したのが四大元素の始まりでもあるからだ。
だが、彼のモデルに熱冷乾湿は無い
代わりに『愛憎』による集合離散が世界を形成すると説く。
即ち、愛を以て元素が集まり、憎しみを以て元素を引き剥がす。
では今の状況を振り返ってみよう。
八朝に向かって十数人の憎悪が一点に集中している。
その結果何が起きたのか。
即ち、八朝を介して『四つ葉』の栞が憎悪を浴び
これまでの『七災』の死と同じく、粘ついた黒霧を爆散させながら砕け散った。
◆◆◆◆◆◆
彼女は僕の救いだった。
僕に光を与え、僕に彩りを与え、まるで太陽のようだった。
彼女は僕に気付かなくとも、僕は全てを知っている。
彼女の優しさを、強さを、気高さを、美しさを
電話番号も住所も机の高さもポスターの好みも最後に使う乳液のブランドも
全て、全て知り尽くしている
だから僕の下に舞い降りたのだ
夢見心地だった、僕たちは間違いなく両思いだったのだ
そう思ってた筈……なのに……
『やめて!』
僕以外の虫が這っている。
これは救いを求めているのだろう、そうに違いない。
『近づかないで!』
安心しろ、近づかなくても駆除する手段はある。
ペンは剣よりも強しというだろう、僕に全てを委ねるといい。
『お願い!』
君の気持はよく分かる、このノートに書いている通りだろう。
さて、虫は虫らしく肢を捥ぎ手を撓み頭を千切る。
『……』
どうだい鮮やかだろう、この目が眩むほどの赤!
君のそれに及ばなくて申し訳ないが、日頃のお返しと思って受け取って欲しい。
『……許して』
ああ許すとも。
……僕の『掲示板』通りであり続けるならね。
◆◇◆◇◆◇
………………。
Interest RAT
Chapter 07-e 調布事件 - Case Sixth Again
END
これにてCase97、『現世利益』の回を終了いたします
多くは語りません、ただ一言だけ
Eルートの本番はこの『連鎖崩壊』から始まります
次回は『狂夢』
それでは引き続き……ええ、本当に引き続きお楽しみくださいませ




