Case 97-1:【該当データが存在しません】
2021年10月11日 完成(2時間以上遅刻)
地下遺跡群探索は失敗に終わった。
歩いているうちに体調を戻し、ひとまず太陽喫茶に帰る事にする……
【4月25日(土)・昼(16:39) 太陽喫茶・商業スペース】
「……陸は無視していいってそういう事だったのかい」
目生が噛み締めるようにそう吐き捨てる。
それは地下遺跡群で襲撃してきた敵についての事である。
「俺もここまでは予想外だったよ
篠鶴機関の秘密組織が名乗っているだけと思っていたが……」
「そりゃ無いよ、俺はちゃんと言ったぞ
七災之陸の直下に『アイリス社』があるって」
八朝達は互いに想定外を吐き出す。
各々の常識に囚われて、証言を十全に信用しなかった結果ともいえる。
次回以降は陸は壱と同じく『回避対象』となるのは言うまでもない。
「でも、あの人強かったよね」
「……ああ、死体漁りを持ち出されないだけマシだったけどな」
「な……死体漁りだと!?」
目生が『死体漁り』という言葉に驚く。
曰く、『アイリス社』がそれを持つとは思えないという。
「『アイリス社』って言ったら
端末を作り、無主の篠鶴市を十死の諸力から守った英雄だぞ」
「……俺達からしたら、篠鶴機関に寄生する死の商人なんだけどな」
「いやいやいや、死体漁りって十死の諸力側の武器だぞ!」
「……」
ここでも派手な相違点が顔を覗かせる。
死体漁りを巡って篠鶴機関と正反対の勢力に渡っている。
どうやら、数年以上前から分岐している可能性がある。
「にしてもあの異能力、どこかで見た気が……」
「ああ、アレは部長の『輪郭切断』だ」
「えっ……」
その一瞬の逡巡で、心裡で反論が潰されていく。
持っていた槍斧に見覚えがあり過ぎる。
それに自分の騎士槍と一合して、余りにも既視感のある衝撃だったと振り返る。
だが、最後に八朝に対して発動したあの瞬間。
彼曰く『盲点』でなぞったのだろうと証言しているが、そんな力は知らない。
「で、でも……!」
「……残念だが『分析結果』がそうなんだ」
使用者:里塚真白
誕生日:12月19日
固有名 :Cshblv
制御番号:Nom.238107
種別 :T.AQUAE
STR:5 MGI:2 DEX:1
BRK:3 CON:2 LUK:4
依代 :魔眼(盲点)※
能力 :輪郭切断
後遺症 :不明
備考:依代の適合率が20%を下回っています
「そんな……」
いがみ合ってたとはいえ、身内が敵という事実に三刀坂が呆然とする。
八朝にとっても衝撃は甚だしく、表情が晴れない。
「その、部長って奴は一人だろ?
んでこっちは3人、万全ならどうにでもなるでしょ?」
「いや、相手も3人だ
あの暗闇の奥に閃光弾を放ったもう一人が必ずいる」
目生の楽観に八朝が水を差す。
とはいえ、これも無しに脅威評価すれば今度は全滅の可能性すらある。
相手は『アイリス社』で訓練を受けた3人。
その練度、連携の的確さ……あの一瞬だけでも段違いである。
「……了解した、陸を徹底的に避けるルートでも考えとくよ」
「助かる」
マグカップを置いて目生だけ先に帰る。
そして、残されたのは気まずい八朝と三刀坂。
それは最後に放った『自爆技』に因んでいる。
「三刀坂、早速約束を破って……」
「一つ聞いてもいいかな?
あの時、柚月ちゃんが守ってくれたよね」
「もしかして、それをアテにしてた?」
相変わらず、恐ろしく容赦のない質問を投げる。
そんな真剣な目をしているのだから容赦のしようが無いのだろう。
この世界で自分はあくまで『本物』の身体を預かる者。
あの時、三刀坂の『彼に会いたい』という願いを叶えたが、それと話は別。
どちらにせよ咎めを避けられないのなら、正直に答えるしかない。
「……ああ、寧ろ期待してた」
「うん、だったら今回はこれのお代で不問にしてあげる」
三刀坂が空になったパフェの瓶に匙を入れる。
それは太陽喫茶の中で最も値段の高いメニューで、2000円近いお値段。
だとしても、関係の破綻に比べたらマシである。
「それは助かるが、だが……」
「べ、別にいいじゃん! 折角許そうとしてたのに……」
「いや、何も無いのなら良い
本当に助かった、ありがとう」
三刀坂からの視線を合わせて感謝を述べる。
だが、彼女からの返しは不明瞭なほどに小さくて聞き取ることができない。
だが、不思議と表情は失望や照れというよりも『自責』に傾いているような……
「それじゃあ、また明日も頼む」
「うん」
そう言って三刀坂も帰宅していった。
マスターにお代を払い、懐から塵が出てくる様子を体験することになった。
続きます




