Case 96-3
2021年10月8日 完成(2時間以上遅刻)
1日目の地下遺跡群の探索が始まる。
水瀬神社の磐座で3人の到着を待ちわびる。
【4月25日(土)・昼(13:00) 水瀬神社・磐座】
昼飯の包装紙を鞄の中に突っ込む。
口元をチリ紙で拭って、ボロボロの本殿を見つめる。
(……未だに信じられない
『七含人』を率いた錫沢英丸が死んだなんて)
『前の6月』にて八朝から簒奪しようとした僭越者。
鳴下家を背後に抱えるも、七不思議を従えている時点で人知を越えている。
そんな負の巨人が、頓死と称してもいいぐらいにあっさり退場するとは。
(という事は、今回は異世界知識が広まる要素が無い
そもそも彼等の異世界知識は一体どこから入手したのか)
八朝の場合はそもそも記憶していた所に拠る。
転生者なら当然の事だが、異世界人の錫沢家では話は別。
『七含人』自体が彼等の固有の力でない以上、協力者が無いとおかしい。
だが、考察はここまでとなる。
目生が鳥居の下から歩いてやってきた。
「やあ、待たせたね
にしても酷い有様だね」
「当たり前だ、2年前に火事で焼け死んだからな」
「ああ、そう言えば錫沢だっけ?
あの一家の娘さん、生きていたら僕と同じ学年らしいね」
目生が遠い目で空を見つめる。
彼は錫沢と何らかの関係があるのだろうか。
「知っているのか?」
「いや、特に何も
こいつらを直すのにどんだけ金が要るんだろうなって」
「少しぐらいは市役所が持つだろうが、高級外車よりハードだろう」
目生が『うへぇ』と拒否反応を示す。
確かに個人の力では少なくない労力と忍耐を要求されるに違いない。
改めて目生がこちらに向く。
「……俺が任されたのは『七災鎮圧』だけだ」
「にしてはさ、さっきのお前の目マジだったもん……直す気だろ」
八朝が沈黙で返すことにする。
出来なくないのであれば、やらない理由が何処にあるのだろうか。
ましてや錫沢は顔見知りである。
「……まあいいよ、その方がヤツも喜ぶだろうよ」
「やっぱり知ってるじゃねーか
さしずめ俺の事も錫沢から聞いているだろ」
「ノーコメントでお願いしまーす」
どうやら先程の予感は的中したらしい。
だからといってどうになる訳でもなく、目線はやがて本題の磐座へ。
「で、化物がうじゃうじゃいる地下遺跡群で何をお探しで?」
「七災之陸の侵入口だ、伍はついででいい」
まず『七災之陸』が外から侵入できない理由を挙げよう。
文字通り『暴風』である、それを半球状に囲み触れたものを粉々に削る。
それを利用したゴミ処理方法が確立されており
表立ってこの『七災』を消そうとすれば少なくない人間からの反発がある。
だが、ここから化物が湧き出しているのも事実である。
「ついでって、どっちにしろ無茶が過ぎるわ」
「危険度についてか? それについては安心するといい」
丁度残りの二人の姿も見えてくる。
制服姿の三刀坂と柚月がこちらに手を振る。
それに対し、目生が信じられないものを見るような視線をくれる。
「……」
「先に言うが、そういうのじゃねぇからな」
「だったら何だってんだ」
「俺と同じ『前の世界』の記憶がある同士ってだけだ」
そんな彼らに三刀坂の元気な声が降りかかる。
「ごめーん! 待った?」
「ついさっき来たところだ、安心するといい」
「ならばよし!
それと、目生先輩もよろしくお願いします」
三刀坂が折り目正しくお辞儀する。
テンションの割に上下関係をきっちりする彼女に目生が面を食らう。
(……八朝の友人はみんなこんな感じなのか?)
(そうでもない、柚月を見てみろ)
促した先に三刀坂に隠れ、真似するように頭を下げる柚月。
そんな様子を見て目生が当然の質問を投げる。
(流石に、小学生はちょっと……)
(いや、柚月は俺らの中では最も強いから安心しろ)
(いやいやいや、有り得ないでしょ)
「何コソコソと話しているのかなー?」
三刀坂が至近距離で内緒話に割って入る。
顔は笑っているが、目が全然笑っていない。
「……取るに足らない事だ、気にするな」
「本当かなぁ」
「それより、鳴下は駄目だったか」
「うん、何か急に忙しくなったらしくて」
恐らくは『鎮圧』時の騒動を鳴下家が重く見たらしい。
道中でもエンカウント率が高かったのも、そういった『監視体制強化』に拠る。
「そうか、それじゃあ擦り合わせをする
今回の探索の目的は大体二つぐらいだ」
即ち『陸の侵入点』と、できれば『伍の侵入経路』である。
伍だけ侵入経路と言ったのは、厳密に探す必要が無いからである。
「ちょっと待て、どっちも必要なんだろ
だったら今日は陸で明日は伍ってスジじゃね?」
「いや、もう陸以外で化物が出てこない
だから今日は陸の侵入点で、明日はそこで1日中張る」
「そりゃあ、どういう事だ?」
「まだ陸を鎮圧しないって事だ
本当の目的は『化物斡旋業者』……つまり弐の尻尾を掴むことだ」
続きます




