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Case 96-2

2021年10月7日 完成(2時間以上遅刻)&ストーリー追加(パンの件)


 『掌藤(たなふじ)? 聞かない名前だな』

 『ああ、でも確か親衛隊率いている奴がいるってのは聞いた聞いた』

 『だけどそれってもう一つ噂があるよな』

 『そうそう確か……』




 『存在しない奴の親衛隊してるって』




【4月24日(金)・昼休み(13:00) 篠鶴高校・学食】




「……」


 完全に予想外であった。

 錫沢(すずさわ)だけなら兎も角、掌藤(たなふじ)すらいないとは。


 これが単なる噂に終わらなかったのは杣根(そまね)の証言だったから。

 彼が所属する『地下探検部』も存在せず、代わりの漫研に彼女の妹すらいない。


 よって、この世界は掌藤(たなふじ)が存在しない世界である。

 そして掌藤(たなふじ)が存在しないことは、エリスに対して重大な影響を及ぼす。


 ……妖精(エルフ)としての身体すら存在していない。


(いや、どころか本当に存在しない可能性も……だが)


 これまで3度も『創造神』による『巻き戻し』を体験してきた。

 それぞれの世界は偶然にも『創造神』の意向通りの変化が加えられている。


 今回の『創造神』は明確に八朝(やとも)に苦痛を与える旨を公言した。

 エリスを消すのも極大の苦痛を齎しかねないが、相手はあの『創造神』である。


 彼なら、敢えて生かして目の前で殺す、ぐらいはする筈である。


(エリスは間違いなく存在する、それでいいじゃねぇか)


 先のクラスメイト達の話が間違いなく発火点である。

 言い聞かせるようにエリスの実在を信じ、この話を強制終了させる。


 それと、同時に約束の人物が対面の席に座る。


『何の話ですか、八朝(やとも)さん?』

『覚えているなら話は早い、化物(ナイト)斡旋について話がしたい』


 箱家(はこいえ)が陰湿な視線と共にメッセージを投げる。

 流石に同じ世界出身なのか端末(RAT)によるSMSを使いこなしている。


『それは八朝(やとも)さんがしていることでしょう?

 ほら、第二異能部って厨二臭い部活で正義ごっこ、楽しい?』

『高校にそんな部活は存在しないぞ?』

『だったら、名前を変えてやってるんでしょう』


 相手の性格からして直球の質問に答えないことは知っていた。

 だから、どこかのタイミングでブラフを混ぜる必要がある。


 その為には自分と相手の情報の差を把握する必要がある。


『ああ、正にそうしている

 それでお前に耳寄りな情報を持ってきた』


化物(ナイト)の発生地点だ』


 例えば『七災』への理解度である。

 具体的には参の黒霧から化物(ナイト)の群れが湧いてくる場面。


 実際に対峙した八朝(やとも)達なら理解できる事だが

 この世界の一般人は化物(ナイト)の生まれる理屈すら分からない。


 加えて、彼は『使命(オーダー)』を持つ転生者である、即ち……


『……『魔王』の居場所ですか?』


 八朝(やとも)がその反応に心裡でほくそ笑む。

 この瞬間に、箱家(はこいえ)化物(ナイト)斡旋に一切関わっていない。


 それも知らずに、顔だけ深刻そうにして食いついてくる。


『ああ、そうだ

 その場所について……』


 取り敢えず、吐けるものは吐いてもらったのでテキトーに誤魔化す。

 同情心から代価無しにしては警戒されかねないので、ワンコイン請求させた。




【4月24日(金)・放課後(15:40) 篠鶴高校3F・物置き教室】




 生徒会室の隣、最上階の端に存在する物置用教室。

 所狭しと机が置かれている中、目生(めのい)が机の上に座っている。


「行儀悪いぞ?」

「んな事言うなよ、お前用にクッション用意してんだからさ」


 目生(めのい)が机をトントンと叩いてクッションの存在を知らせる。

 用意されたのに無下にするわけにはいかず、取り敢えず机の上に座る。


 そんな中、目生(めのい)は菓子袋を開ける。


「そういや、ツレはどうしたんよ?」

三刀坂(みとさか)なら部活だ」

「そっか、あの話は本当だったんだな、頑張るよなぁ」


 目生(めのい)が菓子を頬張り始める。

 生徒会役員にあるまじき不良行為の筈が、彼には似合ってしまっていた。


「で、地下遺跡群に挑むってのも」

「ああ、順を追って説明する」


 八朝(やとも)が『七災』についてのこれまでの経緯を話す。

 鳴下家との取引、水瀬神社の管理、そして参と肆の撃破etc...


「……って事は、磐座の管理もお前って事?」

「驚く所はそこかよ

 ああ、磐座の管理もだ」

「マジかよ、お前性格の割にアグレッシブだな……気に入ったよ」


 アグレッシブと称された理由が微妙に分かりづらい。


 それでも高校生の身分で政治的な人物と

 対等に渡り合っている状況は確かにアグレッシブと言えなくもない。


「お前、言ったよな……異能力者の横暴が目に余るって」

「まぁ、近い事なら」

「その言葉、異能力者・転生者どちらの立場でも普通は出てこない

 致命的な後遺症(レフト)って理屈もあるが、友人の足枷ってのが想像以上にデカい」


 曰く、生徒会もそういった感情的な『しがらみ』が存在するという。

 そんな彼の経験からしても八朝(やとも)の行動は特異的である。


 また、転生者は元世界の記憶に引っ張られ

 うっすらと選民意識的な嫌らしさを持っている事が多いと付け加える。


「という事で、お前は友人ゼロの『人でなし』だと普通は思う

 でも、噂を聞く限りお前にうっすら信頼を置いてくれる人が多い」

「……随分と持ち上げて来るな」

「俺だってこういう事はしたくない

 でも、昼休みの話を聞いたからには……な」


 それは、八朝(やとも)を揶揄う目的で近づいてきた奴等の話である。


 一人にしか販売しないパンを4つ買えと言われたので、先に代金を払わせて

 三刀坂(みとさか)達を使って耳を揃えて渡し、(ついで)に親衛隊の噂話も巻き上げたという顛末。


 想像以上に目生(めのい)は情報通らしい。


「そういった意味でお前がどっちの立場っぽく無いんだ

 寧ろ異世界人(おれたち)の側だ、どんだけ譲歩してんだよって話さ」


「ま、だからあの時の予感は正しかったって事だ」


 目生(めのい)がチリ紙で菓子のカスを拭いて手を差し伸べる。

 どうやら、協力してくれるらしいので握手に応じる事にする。


「感謝する」

「そういうのはちゃんと仕事してから言うんだ、先輩としてのアドバイスさ」


続きます

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