Case 08-4
2020年7月16日 Case 08より分割完了
2020年8月7日 異能力情報を更新
2021年1月26日 ノベルアップ+版と同期(03→04)
【16時03分 月の館】
字山の神隠し症候群が完治した。
台所から眠い目を擦る初老の職員が、それを確認すると二人して喜び跳ねた。
呆然とする八朝も巻き込んでの祭り騒ぎである。
曰く、月の館の退院とは篠鶴機関が希求する根治を指しており、また月の館の退院率の低さが反動となった喜び様である。
八朝は取り敢えず同じクラスの字山の様子が気になって来たという事で誤魔化した。
この後初老の職員が秘蔵していた高級お菓子の味は甘美かつ、嘘の毒を飲み込んでしまったように腹の悪いものとなった。
因みに三刀坂は起き上がると『別の用事が出来た』と言ってすぐに別れた。
八朝も用が無くなり、三刀坂より遅れて十数分後に406号室から出る。
廊下を歩いていると、あの案内してくれた職員から声を掛けられる。
「おーい! Sln.117287君!」
「何か用ですか?」
「いやー君ともちゃんと話がしたくてね!
どう? 僕達の作ったSln方式の識別番号は!」
識別番号とは、異能力の管理と暴走抑制を兼ねたシステムの名前である。
これにより篠鶴市内での暴走件数を2桁近く削減したというのもあり、篠鶴機関の看板商品ともなっている。
制御方式は2つある。
能力の成長を考慮して甘く縛るSlnと、暴走を確実に防ぐ強度と付加物が魅力のNom。
「どうと言われても……」
「みんな強くなったらNomに変えちゃうからね。
君もX級を脱して能力を得ているのに珍しくSlnを使っているから珍しくてね、正直めっちゃ嬉しい」
「どうしてそれを使い続けているんだい?」
この男の質問をマトモに答えてはいけない。
「能力を得てもまだ弱いからつけっぱにしてる」
「なるほど! そんな考えが……」
八朝の言った事を忘れまいとメモを付ける。
その姿を哀れだと思いながらも、その真意を悟られない様にポーカーフェイスを続ける。
「ああ、そういえば君も神隠し症候群だっけ?
今なら僕持ちで無料で治療させてあげることが出来るけどどうかな?」
向けられる言葉に悪意を感じない。
故に、先ほどの苦々しい思いを倍加して味わう事となった。
「ええ、今は忙しいので……」
2つある仕事、居候先の手伝い、学業。
どこにも空いた時間が存在していない旨を職員に告げる。
「なるほど、それでしたらこちらをどうぞ!」
渡されたのは職員の名刺であった。
「気が変わりましたら連絡してください。
いつでも待っておりますので!」
「ありがとう」
新たに人脈を手に入れる。
それはとても喜ばしい事の筈なのに、今でも字山の姿が忘れられない。
三刀坂もこんな思いを味わったのかもしれない、と……。
◆◇◆◇◆◇
やぁ
どうだい■■■君?
キミの野望は阻ませてもらったよ。
そんなにも僕と■■君が会うのが嫌だったのかい?
分かるよその気持ち。
僕も同じ力を受けた事があるからね。
でも、彼は僕たちを命を呈して守ろうとしてくれた。
あの時の優しさは嘘じゃない。
だから今こそ僕は君を糾弾する。
悪魔はお前の方だ!!
いつでも■■君の本当の記憶に蓋をし
偽りのお前の記憶を植え付けようとする。
例えそれが『この世界』では絶対的に正しい事だろうけど
僕はお前の悪行を見ているぞ!
僕が消え去った永遠の未来から
お前の独善的な『常識』を、強圧的な『記憶』を弾圧する!
僕たちを見くびるなよ。
十死の諸力・十四席 聖堂のレサト
「何が……何が!!」
地面に転がっていた石を蹴飛ばす。
先程のアレは、こんな八つ当たり如きで晴れるものではない。
今でも心の中に憎悪が渦巻いている。
『悪魔』から■■を取り戻せ。
あの『眷属』が消えた今なら、出来る筈だ。
彼の唯一の希望。
そう、アレを……
「私の気持ちも知らいないでどいつもこいつも……ッ!」
視界が幻覚に襲われる。
それは厳かで美しく、暗い聖堂の風景。
無数に屹立する十字架。
吐き気を催す『圧』に悲鳴が迸りそうになる。
叫び出しそうになった所で視界が元に戻る。
あの幻覚と同じように360°をぐるりと囲む心配してくれる見ず知らずの顔の群れ。
「大丈夫ですか……?」
「えええ……大丈夫ですので……」
まるで逃げるように野次馬の中に突っ込んでいく。
このまま私の事を忘れてくれたらいいのに……
でも、突き刺さる視線と圧が永遠に苦しめ続ける。
「助け……て……■■君……」
◆◇◆◇◆◇
使用者:字山光樹
誕生日:9月27日
固有名 :Vhdcowf
制御番号:Nom.149438
種別 :T・AQUAE?
STR:0 MGI:1 DEX:2
BRK:4 CON:5 LUK:5
依代 :雷
能力 :麻痺の呪詛雷
後遺症 :麻痺させた所と同じ部位が麻痺
備考:
・元々八朝の能力だった可能性がある
■■■■■■■■ ■■■
■■■■■■■ 08-a 抹消 - Personal Erase
END
以上でCase 08、消え失せる字山の回を終了いたします
ええ、病気ですのでいずれかはこうして治していくものなのです
本人の気持ちが介入することはありません
そういう世界なのでございます
半分冗談はさておき、彼も十死の諸力でありました
2回目の登場にして例外ドーンされてさぞ混乱しているでしょうが
例外はここまでです
次なる十死の諸力はある意味最凶のキャラとなっています
乞うご期待ください




