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Case 95-4

2021年10月3日 完成


 黒霧の中でまたも別人の記憶に触れる。

 その果てに八朝(やとも)達は『崖崩れ』の地に降り立つ……




【4月19日(土)・朝(9:06) ARRAYINDEX_OUTOFBOUNDS】




■■(taw)


 黒霧の中で(taw)を使い、輪郭情報だけ手に入れる。

 三刀坂(みとさか)の位置と、件の『崖崩れ』の現場である事を把握した。


「……ッ!」


 また、である。


 八朝(やとも)はこの崖崩れを魂の単位で覚えている。

 自分の記憶の、本当の起点となる『家族が土砂崩れで死んだ』場面と同一。


 まるで……自分の記憶に触発されて場が形成されているように思える。

 或いは、いや……それだけは……


八朝(やとも)君、あれ……」


 三刀坂(みとさか)が指差した先で無数の視線とかち合った。

 遠目では単なる死体ですらない肉片の筈なのに、夥しい視線を感じる。


 やがて、肉片たちは瞼を開いて隠し持っていた瞳で訴えかける(・・・・・)


『我等は静かに暮らしたかっただけなのだ

 疎ましく思われたから消えたあげただけなのだ、なのに……』




『どうしてお前達は見つけてくるんだ』




 一音一音に濃縮された怨念が込められており、聞くだけで耳が腐る。

 毒を受けたように青白い顔をしながら八朝(やとも)は肉片たちに対峙する。


『見ただろう、我々の歩みを

 可哀想だろう、見ていられないだろう、だが誰もそう思わない』


 言わなくても、初めて彼等に遭遇した人々の気持ちは分かる。

 そんな八朝(やとも)の気配を察知したのか肉片たちの視線が重くなる。


『我々は人を見続けた、働く手を止めてでも見続けた

 我々ほどに人間に熟知した者は存在しない、故にこう断じよう』


『醜いとは汝等である、故に我々に酷似する

 臭いとはお前達である、故に我等の旅を必要とする筈だ』


『そして気持ち悪いのは貴様等である、故に楽園は顕れぬのだ』


 肉片達が破綻した理論で言い募る。

 まるで圧し掛かってくるような不快感に腹の底から焼かれる思いをする。


 三刀坂(みとさか)はもう膝を付いてしまっていた。


『だが、汝等は違う……我等に適う者だ、そうであろう』

「……」

『故にもう一度問おう、何故我々を見つけたのだ

 嘲笑うためか、溝に捨てる為か、それとも大悲を起こしたのか』


 終始頼み込む様な視線なのに、言葉の裏からどうしようもない圧を感じる。


 三刀坂(みとさか)がダウンする理由も分かる。

 これは、真面目に聞いてはならない類の怨念である。


 だから、次にすべき行動はもう決まっていた。


『……ッ!

 Immofa b( 万象に)e baqrqdj(命じる ) / Sptrhe( 悪し) jw(き  を) dhnomu(阻め ) / Ocufuvdm(翠力の) ai jmthjqa(守り手)x!』


『Hpnaswbjt!』


 八朝(やとも)依代(アーム)の1枠を潰して妖精魔術(エルフグラム)の薪とする。

 魔力による障壁が三刀坂(みとさか)を覆うと、彼女の顔色が少しだけ良くなった。


 三刀坂(みとさか)が使えるのなら、という甘い予想で唱えたが上首尾だった。

 どうやらエリスが残してくれたこの魔術には呪詛除けの力もあるらしい。


『無駄だ、それでも我々の歩みは止まらない』


 障壁に夥しい肉片がうぞうぞと纏わり、這い寄って来る。

 視線は全て彼女に、これでは気持ち悪いと思われて当然だろう。


「一つ聞いていいか、どうして僧を殺した?」

『決まっておろう、彼は最初から我々なのだ

 だのに真実から目を背け余計な自我(くるしみ)を背負う、故にその荷を解いてやったのだ』


 肉片の海から吐き出されるようにあるものが転がり落ちてくる。

 悍ましい汁の海に満たされた数珠を挟んで合わせる『両手』が瞼を開く。


『た、たすけ……この、ばけも……』


 そこに隕石の如き拳が降り落ちる。

 土埃と衝撃で目を閉じるも『両手』が死んだことはハッキリと分かる。


「よく分かったよ、この化物共が

 要は『気持ち悪い』と言われたくなくて、只管逃げ回ってただけだろ」


 その一言で周囲の気配が豹変する。

 今までは懐柔しようとした気配が、徹底的な排除・粛清の気運となる。


 それと共に天を覆い尽す程の『拳骨(いんせき)』が出現する。

 ……随分とこのやり口は久々な気がしてならない。


『……』

「そうか、何も言う事が無いんだな」


 思えばこの『七災之肆(嘲笑う卵の子攫い)』は終始一貫していた。

 徹底して人の視線から逃れ、それでも遭遇した相手を懐柔(せんのう)抑圧(せんのう)の一択で迫る。


 辰之中のシステムを使って被害者を脅し、付喪神という命綱で『連帯』を騙る。


 それは『笑う卵(ヴィヒテルドライ)』の時からもである。

 『純粋な悪意』によって作成され、辿り着いた者達に最悪の悲劇を齎す。


 一番恐ろしいのが、コイツ等が『最初の記憶』に関係している事である。


(そりゃ言われたくはない、逃げたいときもある

 だが、他人を消費するのは俺だって『悪』だと分かる、故に……)


 八朝(やとも)は己の今使える技を全て検討して

 たった一撃で『拳骨』を消し飛ばす方法を練り上げる。


 それはちゃんと存在していた、そしてやり方も普段通りを守るだけ。

 『桃花曲脈』で龍脈を、九星を一点に集め、刹那の間に踏み抜く。


 即ち……


桃花曲脈(まがれ) 九天拝帝(しほうのほし) 一震反閇(ちょうぶくせよ)


 たった一撃で『拳骨』達が砂のように消え失せた。


 あの時の『天の声』のように狼狽する様子が視線からも伝わって来る。

 どころか重圧の呪詛も黒霧も薄れて、段々と距離が離れていく。


 逃がす訳にはいかない……


続きます


『天の声』はCase1-2以来の登場となります

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