Case 95-2
2021年10月2日 完成(2時間以上遅刻)
『鎮圧』当日を迎えてしまう。
それでも沓田達は犯人の行方を掴むことはできなかった……
【4月19日(土)・朝(8:55) 篠鶴高校・体育館】
(おかしい……何故だ……!?)
沓田は体育館舞台裏で数人を連れ、目論見違いに驚愕する。
どう考えても、異能力者に復讐するならこの日以外に考えられない。
その筈なのに、体育館には被害者の■■の姿すら見かけない。
昨日、八朝が犯人のうちの一人と挙げた彼は未だに欠席のまま。
「沓田、その八朝って奴が嘘を付いた可能性は?」
「それは有り得ん、あの話には筋が通っていた」
それは又聞きしただけのもう一人すらうっすらと感じていた確信。
自分達が虐めていた犯人が、違法アプリによって復讐しに来たのでは?
そして、無常にも全校集会が始まってしまった。
『皆さん、朝早くからお集まり頂き誠にありがとうございます
本日は『議定書』の信任と、新政策についてのお知らせがあります』
まずい、もう時間が無い。
本当なら昨日中に奴等の居場所を割り出し、端末を強奪したかった。
そうでなくとも、生徒会の目に触れることなく『電子魔術』を手に入れたい。
まだ力を欲しているのかという詭弁を弄するわけでもなく
この『鎮圧』で異能力者だけ武装解除させられる不公平を想像してほしい。
異能力者はこの学校にいる間、化物に為す術なく食われ
非能力者の横暴が実力を背景に許されるという歪んだ世界。
(……それは、俺達も)
いや、だとしても無辜の被害者を出す事を許してはならない。
沓田は異能力者の未来の為に、異能力者狩りの姿を血眼になって探す。
「沓田さん、仮にその話が本当だとして
奴等が『鎮圧』の瞬間を狙っているなら、司会進行が聞こえる場所に居る筈」
「そう……だな……」
「それでもってこの体育館から出られる場所って、後ろのドアのみだよな」
「……まさか!」
仲間の指摘により沓田が、漸く彼等の狙いに気付く。
急いで出口に向かい、外から体育館の入口に向かおうとする。
『では皆さん、これより当学校で異能力の使用を禁止と致します
致命的な後遺症持ちはさぞ心配でしょうが、調整は既に為されています』
『ご安心ください』
「ご安心じゃねえんだよ! そっちじゃねえ!」
「非能力者だって俺達と変わらないぐらいに汚い癖に……!」
だが、3人とも突然の倦怠感に襲われる。
人を越える脚力を生み出す身体補正が『鎮圧』により消え失せたからである。
「クソ……! 沓田さん……!」
だが、沓田には『鎮圧』の効き目が鈍くなっている。
彼は全速力で入り口前に屯している一団に駆け寄る。
「!?」
誰もが異能力者が健在であることに驚く。
端末を構えようとしても遅い、先に沓田の異能力が炸裂する。
『Wytglc!』
断末魔の如き赫灼が一団をすっぽりと覆いつくす。
邪なる企みは、また別の邪悪によって破滅の道に追いやられたのであった。
【4月19日(土)・朝(9:08) 篠鶴高校・体育館付近】
辺り一帯は騒然となっている。
だが、これは自分たちの望んでいない恐慌であった。
この学校を蝕む異能力者達への制裁の一撃
それは手からするりと抜けて地べたに転がってしまっている。
「クソ……!」
怨敵の姿を見る。
それはあの体育の授業で2人だけしかいなかった異能力を差し向けない賢人。
一人は八朝、だが彼の姿は朝から見かけない。
彼は本当の意味でこの問題に怒ってくれたが、異能力者である時点で罪深い。
もう一人は、たったいま我々に爆炎を差し向けた沓田修也。
見るがいい八朝、これがお前らの浅ましい姿だぞ?
『……ッ!』
沓田が俺の立ち上がる姿に恐れを為している。
当たり前だ、お前らのようにその時の感情だけで行動している筈が無い。
俺達は、この時の為に数ヶ月以上も前から計画を練ってきたのだ。
流石に『鎮圧』までは読めなかったが、天は常に正しい者の味方をしている。
『fb mg eddprv qb / wqmkbnbi mm tntr ce sj cd jc / lupam vo qhcn kb!』
そちらが爆炎を放ってきたのなら、同じ爆炎で葬ってやる。
お前たちが気まぐれで俺達を虐げてきた痛みを、地獄の底で悔いるが良い!
『Axyloye!』
爆炎が沓田に降り落ちてくる。
流石は電子魔術、グラウンドを抉る程のパワーをボタン一つで……!
叩きつけるような衝撃波を無視して、影の動いた方へと走る。
(避けやがったな……! だが……!)
本命の『卵』を取り出し、狙いを定める。
煤煙と黒霧が邪魔する頼りない視界だが、せめて足音だけでも。
……捉えた。
「ゴミクズが、水色の廃墟に……沈め!!」
それは一見すると悪あがきのようにしか見えない。
卵をぶつけられた如きで人間が死ぬはずがない、だがその卵は別だ。
名を『嘲笑う卵の子攫い』、そう『七災』である。
そしてその力は『魂の入れ替え』なのである。
俺達は『七災』に騙されながら、この数ヶ月を耐えてきた。
全ては目の前の異能力者共をこの地獄に幽閉する為に。
そしてこの一投で、俺は水色の廃墟から解放される。
他の皆には悪いが、一抜けてさせて……
「な……!?」
それは、そのまま復讐者の断末魔となってしまった。
驚くべきことが2つも起きてしまったからである。
一つは沓田が『卵』を避けた事。
後退してまで『卵』を忌避するとは、一体どこから情報が漏れたのか。
そうとしか思えない異常行動であった。
そして二つ目は、今まさに復讐者の意識が失われつつある事。
だが、その彼岸となる緩慢な視界の中で全てを察してしまった。
仲間たちの身体が『黒霧』へと帰っていく様子を……
「馬鹿……な……どうやって、『白鬼』を……ッ!?」
白鬼、或いは九十九神
それは祖父母の家にあるような古い道具の形をした命。
俺達を一時だけ『現世』へと連れ戻す『七災』との約束。
それが、何者かによって破壊された。
厳重に隠していた筈なのに、見つけ出されて壊されてしまった。
『いや、だ……死にたく、ない……』
もう水色の廃墟に戻りたくない。
誰も会えず、人食いの化物に追われ続ける地獄に戻りたくない。
だって俺達の憎しみは、間違いなく正しい筈で……
お天道様だって、可哀想な俺達に味方しているのに……
どう……して…………
続きます




