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Case 95-1:【該当データが存在しません】

2021年9月30日 完成


 それは『鎮圧』の前の夜半に行われる会合。

 等しく、異能力者への敵意と『何か』を匂わせる人々の決起。




【4月18日(日)・夜(22:00) 篠鶴高校・屋上】




『お集まりいただき誠に恐縮です

 それでは明日の『鎮圧(いんぼう)』につきご報告があります』


 本日の屋上は光も無いのに騒がしい様子である。

 だが、誰一人として気に留めない……何故だろうか。


 それは話し声、からからかたかたと人語を為さず文字で話しているから。

 またはその姿、扇子・杓子・手棒・数珠・古書・陶器の置物・鏡・布。


 そう、誰一つ(・・・)として人の形を為していないからだ。

 これでは騒ぎに気付きようがない、現代社会に付喪神とは信じられぬ。


 さて、彼等の話とは終始陰気臭く、また物騒な言動が飛び交うものであった。


『これで奴等に復讐できる』

『僕なんかまたやられた、もう我慢できねぇよ』

『傲慢なる異能力者に鉄槌を!』


『まずは『鎮圧』に尽力頂いた生徒会

 並びに鳴下家を派遣してくださった八朝風太(やともふうた)に感謝いたしましょう』


 その一言に気まずそうに黙るのは金色の土瓶。

 申し訳なさそうに煙を抑え気味の『彼』に、古書がそのページを捲って伝える。


『いえ、そのお陰で彼はこの問題に本気になってくれた

 そして我々の反逆の為の致命的な隙までも作ってくれた』


『貴方は『新参』でありながら、良い働きをしてくれました』


 それでも金色の土瓶は押し黙る。

 古書は宥めた事に満足して本題へと戻す。


『さて、我々の集いもこれで終わりとなる

 夜は眠れず『水色の廃墟』の夢に閉ざされる地獄もこれで終わる』


 道具たちが一斉に頷き合う。

 針金の如き手腕で地面を引っ掻いて目標を共有する。


 即ち、怨敵に卵をぶつけて奴等を『水色の廃墟』へ……と。


『では明日の10時、生徒会演説の日に』


 そんな屋上にぞろぞろと生徒達が入って来る。

 無言で各々の『付喪神』を回収すると、開いた手で拳をぶつけ合う。


 恐らく、こっちが本当の『決起』に違いない。

 彼等の瞳は全て同じ色……それは八朝(やとも)の瞳とも同一の……




◆◆◆◆◆◆




「はぁ……はぁ……」


 電気を全て消した真っ暗闇で八朝(やとも)が冷や汗をかく。

 夢にも似た、荒唐無稽な屋上の景色を『視た』反動なのだろう。


(只の瞑想をするつもりだった

 趣向を変えてパスの再接続をしたらまさか千里眼(ギフト)が発動するとは……)


 千里眼、とは『本物』が持っていた異能力。

 別人の異能力を使った罰なのか、身体が重くて動かしにくい。


 だが、ここで行動不能になっては全てが終わる。


(……アイツらと俺の瞳の色が同じだった

 だからといって同一という訳ではないが、現当主の話と合わせれば)


(アイツらは俺と同じく辰之中にいる『複製』だ……)


 さらに『水色の廃墟』とは言うまでもなく辰之中、或いは祈りの地。

 彼等は何らかの理由で『本体』が辰之中に閉じ込められているのだろう。


 だが一体誰が彼等に『卵』を使わせたのだろうか。

 その情報が上がらない以上は、この事件を乗り越えても暗躍する。


 柏海(かしみ)の行方が分からない以上、手の打ちようが無い。


(全てが終わったら彼等から話を聞こう

 それよりも目下の問題は2つ、しかもどっちも致命的)


 即ち一つ目の気付き。

 『七災之肆(嘲笑う卵の子攫い)』によって祈りの地に連れ去られる被害。


 これを現当主に連絡して救助しなければならない。


(そしてこっちは……)


 八朝(やとも)が震える手で端末(RAT)を操作する。

 相手はすんなりと通話に応じてくれた。


「そうか、止めはしない

 だがやるなら一つだけ忠告がある」


 相手は嫌味と敵意をぶつけてくる。

 あんな話をしたのだから憎まれても仕方は無い。


 だが、話さなければ『彼』は確実に負ける。


 そして『七災之肆(嘲笑う卵の子攫い)』と『笑う卵(ヴィヒテルドライ)』が同一であれば

 彼等への敗北は即ち死、信じられぬ被害が出てくることになる。


 それは何としてでも避けなくてはならない。


「卵は絶対に避けろ、当たった瞬間に死ぬ」


 一方的に通話を切り、今度は現当主へ。

 こっちはワンクッションがあったが、鶴の一声で現当主へと行きつく。


「明日の、鎮圧に……ついて……一つ、懸念事項が……ある……」


 電話口から体調を心配されるがどうってことは無い。

 それまでに話しきって相手に伝わればそれでいい。


 だが上記の情報を一言でどう言えばいいのだろうか。

 七災之肆が生徒を拉致した、これでは『誰』という余計な疑義が生じる。


 鎮圧を餌に七災に脅された一部生徒が異能力者を仇討ちしようとしている

 ……駄目だ、これでは長すぎる。


 悩む時間すら惜しかった。

 それでも必死に考えようとして、まるで比喩のような言い分となってしまう。


「辰之……中、が……生徒、を……喰ら……た…………」


 端末(RAT)が無に等しい握力から逃れて滑り落ちる。

 電話越しの相手はそれが『終わり』なのだろうと察して通話を打ち切った。


続きます

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