Case 94-5
2021年9月30日 完成(2時間以上遅刻)
「そうか、やはりお主も『それ』を知っておったか」
「……」
「良い、最早無用の長物と成り果てた
『七災』の弱点に資するであれば話さざるを得ないわい」
「『七災の肆』と勝台重彦の関係をな……」
【4月17日(土)・昼(12:00) 篠鶴高校・某所】
「……ようやく終わった」
八朝が集中を解いて大きく息を吐く。
金曜、土曜と1日半もかけて38人の重症後遺症への干渉。
これにて『鎮圧』後も致命的な影響を受けずに済む事となる。
(……もう12時か)
木陰で端末の表示を確認し、これからの予定を考える。
高校も『学園』と同じく午前の土曜授業が実施され、課外活動も18時まで。
無論、価格崩壊気味の学生食堂も平日通りである。
「よお」
八朝が異常な声に気付いて警戒感を露わにする。
……だが、その声がクラスメイトの沓田だと次の瞬間に気付く。
「どうしたってんだよお前
もしかしアレか、学食でも行くつもりだったのか?」
「まぁ、そんな所だ」
八朝が立ち上がってズボンの土埃を払う。
そのまま沓田を待たずして学食まで行こうとする。
「奇遇だな、俺も行こうとしてた
って訳で、ちょっと俺に付き合えや」
6×2の長机に全員が席を占領している。
八朝達は運よく2つ席を確保できたが、それ以外は難しかろう。
黙ってラーメンを啜っていると、沓田が端末を寄越してくる。
『お前、校内での異能力禁止を企んでいるらしいな』
……どうやってその情報が漏洩したのか。
昔日の第二異能部も使えず、地べたで地道にやっていたのに。
その視線は相手にも伝わったのか『勘だよ、勘』と返される。
『今すぐにそいつは止めな
お前も知っているだろ……生徒会が、非能力者がどんな奴か』
その言い面は流石に聞き捨てならなかった。
だが、公衆の面前で事を荒げる訳にもいかず、首を振って否定してみせる。
『そうかよ、それも神隠し症候群で消えちまったのか
まあいい、非能力者はな……俺達を弾圧するつもりだったんだよ』
曰く、篠鶴機関が主導となって
端末単位で異能力者の管理を行おうとしたらしい。
だが、人権を踏み躙る非道の篠鶴機関に天罰が下った。
『七災之壱』が彼等を街の外へと放逐した、という。
勝ち誇った話で悪いが、その管理とは即ち『前の2月』以前の……
『分かっただろ、非能力者に俺達の気持ちなぞ……』
『そうだな、分かる筈もない
容易に人を殺し得る力で罪なき人々を脅すお前らの気持ちなぞ』
ようやく出てきた言葉に沓田が歯ぎしりをする。
異能力者側にいながら、あの授業で唯一非能力者に力を振るわなかった沓田。
己の論に矛盾を孕んでいることは、最初から承知だったのだろう。
それは八朝に対しても同様である。
既にこの手で大量虐殺を為し、最悪の結末に至った彼に人道を語る資格は無い。
『綺麗事を言うつもりは無いが
その行いはいずれ自分に跳ね返ってくるだろう』
『そうかよ、やっぱお前は優等生でしかないな』
席を立とうとする彼に端末である画像を見せる。
それは数日前に八朝を襲い、その前に異能力者を襲った下手人。
目深に被ったフード姿の筈なのに沓田の表情が凍り付く。
『おい、コイツは確かあの体育で■■に痛めつけられた……』
『ああ知っているとも
ついでに彼が電子魔術という異能力に似て非なる力を使ってたことも』
『そして、それは篠鶴機関が異能力者に渡そうとしたものだ』
八朝は端末画面でこの事件の裏話を始める。
つまるところ、この電子魔術という違法アプリが非能力者の窮鼠となった事。
その淵源が『七災之肆』である事。
本来なら鳴下家と協力して自由に暴れられる辰之中となるものが
所謂『天罰』で、更に属性スキルや電子魔術すらも無かった事になった。
そして彼が鎮圧決行を知るや否や仕掛ける事も容易に想像できる。
『その犯罪行為を以て、俺達生徒会は違法アプリも禁止対象に加える』
『……』
『そして残るのは異能力者喰らいの化物のみ
そら見た事か、お前らのやってきたことが報いとなって跳ね返ってきたぞ?』
八朝は呆然とする沓田を他所に席を立つ。
後は彼がどう行動するかで未来が大きく変わる。
一般大衆ならここで先に潰す事を考えるが、沓田ならどうだろうか。
舎弟を大切にする彼の行動は、ある程度まで予測可能だ。
そして八朝はこれにて『七災之肆』の二正面作戦を打ち破った。
それは、ゆっくりと縁物を探す時間を確保できた事に他ならない。
(……エリス、待っていろ
全ての障害を取り除いて、いずれはお前の下に辿り着く)
◆◇◆◇◆◇
………………。
Interest RAT
Chapter 04-e 落日 - Debilities
END
これにてCase95、怨嗟と嘲笑の回を終了いたします
まあ、何とも運がいいのやら
といってもあの時の人間が彼でないときは探し回ったのでしょう
そして水面下で蠢く三勢力が徐々に露わになっていく
一体誰が来たるべき騒動でその望みを掴んでいくのか
次回は『白鬼遊行』
それでは引き続きお楽しみください




