Case 94-4
2021年9月29日 完成(1日以上遅刻)
電子魔術の使い手からの襲撃を退ける。
家に帰って晩御飯を食べながら今日を振り返ることにする……
【4月15日(木)・夜(19:30) 太陽喫茶・共用ダイニング】
『本日、西水瀬地区にて暴行事件が発生しました
被害者の■■■■は、異能力者をターゲットにする一連の事件と関連が……』
何となく惰性で付けられているテレビを見ながら夕飯をつつく。
特に有益な情報でもなかったので、自然と意識が今日起きた事へと移る。
まずは非能力者の代表である生徒会を公式に味方につけられたこと。
エリス捜索の最大の障害となる潜在敵を無力化できたのは大きい。
同時にこの世界での榑宮がどうなっているのか気がかりではある。
(……相変わらず異能力者排斥なのだろうか
俺が異能力者を鎮圧して、危険思想が復活しないといいんだが)
現状、彼等について情報が無い。
『前の2月』以前の警戒感が残っていたばかりに確認すら怠ってしまった。
明日から少しずつ聞いていったほうが良さそうだ。
続いて水瀬神社についてである。
これに関しては棚から牡丹餅といっても過言ではない。
まさか『転生の間』を含めた広大な地下空間を手中に収められるとは。
だが、元管理者である篠鶴機関がこの世界では『七災』で隔離されている。
内部が想像以上に荒れ果てている事は言うまでもなさそうだ。
(『七災之壱』か……出来るなら最後に回したい
下手に壊して戒律が解放されると『七災』の比ではない被害が出る)
『前の6月』にて十死の諸力が最後に繰り出した隠し玉。
人の罪悪感を暴走させ、精神的苦痛とそれに伴う自殺を引き起こさせる異能力。
そして、同じように『七災之肆』も避けておきたい。
だが、それこそが最後の問題である『襲撃者』と一番関連性があるものである。
まず『七災之弐』と『七災之漆』は性質上人を害しない。
漆だけは意味合いが違うが、両方とも『七災』とは言い難い。
続いて『七災之伍』と『七災之陸』は地理的に遠い。
縁物として影響があっても、水瀬地区まで遠征すると各個撃破の憂き目にあう。
そして、襲撃者の属性は自然と壱か肆と絞られる。
(……電子魔術と関係が深そうなのは壱なのだが
よく考えてみたら肆も何となく辰之中に似ている気がしなくもない)
七不思議の時は二人で食べれば魂を入れ替えるという呪物。
この世界での魂は龍脈の流れであり、使用すれば直ちに身体を破壊される。
だが、祈りの地に篠鶴市の複製と意識を入れ替える辰之中の仕組みは
肆の『魂の入れ替え』と何らかの関連性を匂わせてくる。
かく言う八朝の現在の身体もその複製体で、本体は今も三階で眠っている。
「どうした? 辛気臭い顔をしよってに」
「……ああ、今日起きた事について考えててな」
マスターに今日起きた襲撃について話してみる。
聞いていくうちに全員の顔が徐々に真っ青になっていく。
「どうした?」
「うん、そういうのは直ぐにわたしに相談してほしいんだけど」
「……相談する程の事か?」
「そうじゃなくて、ふうちゃん以外にも被害が出ているから」
咲良がテレビを指差してこう言う。
テレビは異能力者襲撃について特集を組んで今も話し合っている。
「……そうだな、これからはそうさせてもらう」
「うん」
「にしてもお前、何の為に水瀬神社に行ってたんだ?」
「ああ、それは鳴下家を動員させる引き換えで
七災を全て倒すまで臨時で神社の管理を任されたんだ」
情報量が多すぎてマスターが頭を抱えている。
咲良が『そのおかげで助かったんだよ』と的を射ない返しもしてくる。
「お前……そこまでやるつもりだったんだな」
「何をだ?」
「エリスっていう人探しについてだ」
突然マスターが言い出しそうもない話題が飛び出る。
八朝が目を丸くしていると、咲良が自らが下手人だと明かす。
「それで、探すにしても特徴を知らなければなァ」
「……本当にいいのか?」
「うちは喫茶店だ
お客にそれとなく聞くだけなら仕事の邪魔にもならん」
マスターの好意に甘えてエリスの特徴を語ろうとする。
ふと、彼女についてあまり知っていないことに気付く。
今まで声と態度と性格ぐらいしか知らず、それ以外は……
「……」
「どうした?」
「……ああ、エリスは妖精で
恐らく柚月と同じくらいの女の子で……」
八朝は咄嗟に記憶の中の少女の話をする。
だが、不思議としっくりと来てしまい、それはマスターにも伝わる。
「分かった、探してやるよ」
「助かる」
そうしてマスターの協力も取り付けて心に余裕ができる。
部屋に戻った後、久々に瞑想が成功する程に集中できたのは言うまでもない。
後は高校で大事件が起きない事だけを祈るのみであった。
次でCase94が終了いたします




