Case 94-3
2021年9月28日 完成(2時間以上遅刻)
学校から後を付けてくる相手に宣戦する。
だが、相手は予想外の『戦法』を仕掛けてくる……
【4月15日(木)・夕方(18:00) 篠鶴地下遺跡群表層・大広間】
「……そちらが何もしないのなら、その殺意に応えてやろう」
八朝は■■を呼び出すが
形はいつもの『歯車』ではなく『拳銃』、そして込めるのは死体漁り。
恙無く銃弾に火が起こされ、狙い通り人影の頬を擦過した。
「!?」
恐らく相手は『見えていない』と慢心しきったのだろう。
だが、今の八朝には座山挨星歩による察知方法が存在する。
向けられた視線は、目論見通り戦意が削げ落ちようとしている。
(さて、後は逃げてくれるか……だが)
一向に相手は逃げようとしない。
どころかフードを目深に被った姿がうっすらと浮かび上がる始末。
八朝がどうやって昏倒させようと思考している間に、何かに気付く。
そういえば、この世界で端末は最早無用の長物。
唯一の使い道である連絡も地下深くでは満足に使えない。
なのに端末を使う意味。
例えば、三刀坂がそうだったように一部の人間に電子魔術が……
『Dwonj』
「……ッ!」
数コンマ前にいた地点を、壁すら貫徹する程の出力の光条が飛び去った。
紛れもなく、熱線生成魔術による遠距離攻撃である。
(まずい! 相手が非能力者だとしたら……!)
八朝が全力でフード姿と距離を取ろうとする。
そこに三度ほど、地面を抉る重力強化魔術が降り落ちる。
さらに前方が……いや全方位から氷の軋む音が聞こえ始める。
即ち、水属性の秘奥である原子晶列魔術。
『Vsbseqzzh!』
『桃花曲脈 任心起脈 穢火延焼』
足を開けて歩みを止め、天任と天心を踏み締める。
そのまま片足を引き寄せるように回し蹴りをして氷晶を砕く。
出来た穴に向かって全速力で走り、転がり込むように氷から逃れる。
この魔術はすべての元素を氷の結晶として扱うため
水蒸気は疎か空気・土・人体すらも凍結破砕し、抉られたような発動痕となる。
『fb mg eddprv qb / wqmkbnbi mm tntr ce sj cd jc / lupam vo qhcn kb!』
続いて爆炎生成魔術の詠唱が終わってしまう。
残念ながら、今の間合いでは普通に八朝に届いてしまう、防御以外ありえない。
だがどうするか。
もしも、妖精魔術も使えるなら、障壁で防ぐ方法もある。
八朝はMGIがゼロなので電子魔術を使う事ができない。
いつものように依代を端末に食わせる事ができるのなら……
「……ッ!」
意を決して端末に霧を流し込む。
その瞬間、八朝に爆炎と、障壁がぶつかる轟音が聞こえてくる。
どうやら『障壁魔術』は成功し、余裕が出来た。
『■■!』
相手の正体を探ろうと霧による相術を用いる。
……いや、既に正体は分かり切っている、強いて言うなら反応しない事。
丁度、フード姿に対してがそうだったように……
(『七災』……だと……!?)
フード姿の正体は『七災』の一つだという。
確かにこの世に存在しない『電子魔術』を持ち込んでいる。
だが、知っている限りその働きをする『七災』は存在しない。
強いて言うなら電子魔術持ってくる余裕が無い筈なのである。
「……ッ!」
フード姿と洞窟の暗さを隔てて睨み合う。
本格的な電子魔術乱舞になる前に倒す必要があるのだろうか。
だが、唐突に戦闘状態が解除されることになる。
フード姿が回れ右して一目散に逃げ始めたからである。
「待……!」
だが、人ならざる『七災』に言葉が果たして通じるのか。
既にフード姿は八朝の気配察知範囲外に逃げ果せた。
(……)
情報を得ようとフード姿が最後に立っていた地点に歩み寄る。
その地面に少なくない量の血が溜まっている。
(……この怪我でよく動けたな)
もしも異能力者であるなら罰則による昏倒が避けられない。
非能力者でもこの出血を伴う外傷が身体の一部消滅以外にあり得ない。
それでも逃げることが出来たフード姿の忍耐力に驚きを。
同時に、似たようなことが出来る『事例』が脳裏を過る。
(今は帰るか)
もう既に住所割り出しの脅威から外れた事に漸く気づいた。
八朝は踵を返して帰宅の続きを始める。
続きます




