Case 94-2
2021年9月26日 完成(71分遅刻)
無事に咲良の側と合流することに成功する。
その後、八朝は水瀬神社での業務の下見に現地へと足を運ぶ……
【4月15日(木)・放課後(17:16) 水瀬地区・水瀬神社】
「これは……」
水瀬神社の鳥居が見えてくるが、ここから既に記憶が違っている。
垣根は朽ちて崩れ、隙間から草がぼうぼうと伸び、石碑も上半分が消えている。
この劣化の仕方はたかが数か月程度では考えられない。
少なくとも一年、いや……現当主の証言通り二年前から無主の可能性すらある。
「……」
周囲を見渡しても、廃墟に近づく物好きは八朝のみ。
昔日の厳かな神域の姿を思うと何も言えなくなるが、それでは仕事にならぬ。
崩れを避けて、石畳を進む。
突き当りの屋は錫沢の住居で本殿は右に曲がった奥の方。
共に雨水が染みたように中まで荒れ果てていた。
「……どうすりゃいいんだよ、これは」
別に神社の原状復帰は任されていないのだが、この風景は心象に良くない。
自分一人ではやれることが限られる、せめて掃除ぐらいしか無理だろう。
八朝は持ってきた竹箒で石畳の掃除から始める事にした。
……。
…………。
………………。
「……一丁前に、遊んでやがるな」
空き缶をゴミ袋に押し込むたびに、頼まれてもない文句が漏れる。
誰かがいた形跡はあれど、誰一人として身の回りを清める事は無かった。
朽ち果てて当然である。
(……)
だが何も言わないのなら、段々と嫌な予想が積もっていく。
それは水瀬神社の事でなく、最近体験したことについてのもの。
例えば、錫沢が存在せず、二年前に一家心中で消えた事。
それだけなら『この世界』での相違点で片付く筈が、そうはいかない。
『前の2月』を知っていた鳴下家がそう言ったのだから
八朝が天文台で錫沢と会った事実と食い違っている。
(……理屈は無くもない
俺が『元世界の法則』を持ち込める存在、つまり『七災』なら可能だ)
(だが、まさか『人』までもか……)
まだ『七災』を1つしか見ていないが、元世界から持ち込めるのは『物』のみ。
縁物、法則、記憶……全て自ら思考することのない無機物で単純な物。
なのに錫沢の件が正しいなら、人間すらも。
ひいては『前の6月』『前の2月』から記憶のある三刀坂や柚月は……
(それは無い、無い筈だ……)
まず、自らがそこまで強力な存在だとは思えない。
だとすれば人間を持ち込めるほどのポテンシャルだってある筈が無い。
彼女たちはちゃんと地に足のついた『本物』に違いない。
それで話は終わり、これ以上に何を考える必要があるというのだろうか。
(……)
次に気になる事は視線の先の本殿。
それは『七災之参』が見せた本殿内の景色。
あの大広間があるのは篠鶴市ではこの神社以外に有り得ない。
中を見て確認すれば、あの映像が『南浦神社』でない事も明白となる。
なのに……
(……修繕してもらってからにするか)
八朝は石畳の清掃に固執する。
余りにも恐ろしい真実を前に、足が竦んでしまったかのように本殿を無視する。
それでも視線がそれを映す度に、気持ち悪いような意識が通り過ぎる。
その度に背中を押されるように掃除の手が手早くなっていく。
いつの間にか、参道だけが昔日のように綺麗な石肌を晒すようになった。
「……汗、もうこんな時間か」
既に没した太陽ではなく端末の画面で時間を知る。
明日がこの地域の燃えるゴミの日だが、袋が余りにも多く、事前連絡が必要だ。
端末で市役所に電話を掛けるのだが、誰も出てこない。
「……そういやもう業務時間外、予め連絡すべきだったな」
後悔を口にして、少しでも気分を軽くしようとする。
明日には数袋だけだが、昼休みに連絡して残りも引き取ってもらう事にする。
ふと本殿を見ると、汚れているだけで破壊の痕がそれ程ない事に気付く。
(丁度いい、明日にするか)
本殿の隣には懐かしい『巨岩』がそこにあった。
この下には篠鶴地下遺跡群に通じ、最終的には『転生の間』に辿り着く。
八朝の転生もこの岩の下から始まったのである。
「意外にも記憶通りだ、どんな仕組みだろうか」
霧を使おうとしたが、既に真っ暗である事に気付く。
馬鹿な考えは休むに似たり、という事でさっさと家に帰ることにする。
凝り固まった血流を伸びをして消そうとして
ふと、林の中から奇妙な気配が漂っている事に気付く。
(何だ……嫌な予感がする)
帰り支度を済ませ、神社の外に出ても気配がついてくる。
住所割り出しの可能性も考えて、いつもの道を避ける事にする。
咄嗟に抑川の地下道を選んだが、内部構造は『前の2月』以前と同じ。
地の利を生かして撒くことも考えたが、このしつこさでは無意味だろう。
一番近い広間を目指して歩く事にする。
そして、名所のビスケット城地下に入ったところで戦闘態勢に入る。
「追ってることは分かっている、出てこい」
続きます




