Case 93-5
2021年9月24日 完成(40分遅刻)
2021年9月25日 ストーリー修正(化物退治→治安維持)
『七災』に呑まれ、真っ暗闇へと幽閉された。
状況を把握しようと霧を放つと、そこは神社の中で……
【4月15日(水)・放課後(16:46) ARRAYINDEX_OUTOFBOUNDS】
「……」
少年が八朝達の気配に気づいてこちらを振り向く。
只の輪郭しか見えない世界で、少年は光なく笑みだけを浮かべる。
「……!」
三刀坂が彼の周りの以上に気付いて口を抑える。
少年は夥しい血を浴び、服に肉片をこびりつかせ
その原因となった『死体達』の山の上から話しかけてくる。
『ねぇ、これで自由になったかな?』
そんな酸鼻極まりない、現実感の無い世界の中で奇妙な問い一つ。
事情を知らぬ八朝が持ち合わせる答えなどは無い。
だが、言いたいことは一つだけあった。
「……ならない、永遠に」
「八朝……君……?」
『そっか、じゃあ……』
『ごめんね』
その瞬間、八朝に猛烈な頭痛が襲い掛かる。
『記憶遡行』かと疑ったが、明確な相違点があった。
「どうしたの!?」
「……頭が痛い、割れる……ようだ……」
「ふうちゃん、喋れるの!?」
「……らしい」
「あ……」
三刀坂の指した方を見る。
既に少年は溶けてなくなり、死体の山と一体化した。
それらが畳に刻まれた溝を満たし、呪的文様を為していく。
これもまた見覚えがある。
「ぐあああああ!」
「八朝君!」
三刀坂に支えられながら立ち上がる。
襖の格子から無数の腐った手が生え、株のように身体がずるりと抜ける。
敵は少年の姿から空間を満たす呪詛へと姿を変じる。
だが、異変は八朝の落とす影にも現れる。
突如として夥しい視線を感じ、後ろを振り向いた八朝に無数の目。
表情なく、声もなく、踝に縋るように泳いで一瞥をくれる。
『お前を見ているぞ』、と……
(一体何が起きている……!?
まずはここから抜け出す方法だが)
それは既に知った事、四方を襖で囲まれている以上存在しない。
奇跡が起きて、外から穴が開かない限り自分たちは死体に呑まれて絶命する。
覚悟を決め、肩になだれるだけの手を引き寄せて自立する。
そこに、轟音と共に太陽の光が降り注いできた。
「……ッ! これは……!?」
激しい逆光のせいで何も見えない。
だが、瞼の裏が久々の光に赤々とした映像を送って来る。
「こっちに来い!」
気配で三刀坂と柚月を探し出す。
彼女らの手を引いて、赤色の激しい方へと一歩ずつ逃亡する。
光に包まれた頃合いを見て目を開ける。
……元の静謐な鳴下本家への山道の風景が視界いっぱいに広がった。
「外に出れた!」
「……そうらしいな」
感極まった三刀坂に抱きつかれるが仏頂面で押し通そうとする。
微妙に恨めしそうな視線を感じたので三刀坂を引き剥がすことにする。
ふと、胸ポケットに異物感があったので取り出すと小さな『鱗』が一つ。
「人形……?」
「藁人形の形をしているな、珍しい」
『鱗』があるという事は『七災』は化物以外に有り得ない。
示し合わせるように3人で頷くと、山道を戻ろうとする。
その時、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「八朝さん、ですの?」
【4月15日(水)・放課後(17:20) 鳴下本家・大広間】
「お主等が『七災』を祓ったというのだな?」
「ああ」
「ほうほう
『七災之壱』で消え失せた篠鶴機関以外にも気骨があるのが……」
垂簾の先の現当主空の問いに答える。
三刀坂が背筋を伸ばすほどの迫力が空間中を圧している。
框の外にずらりと正座しているのは鳴下一族なのだろうか。
その一角に鳴下雅の姿もあった。
「これで目下の問題は取り除かれた……皆の衆、異存はないの?」
鳴下家では無言が首肯であるらしい。
もしくは気圧されて口答えが出来ないのだろうか。
「では、この功を以て汝等を水瀬神社の司とする」
『当主の果せのままに』
「待て、その神社には『錫沢』が……」
その一言で全員の空気が凍り付く。
余計な事を、というよりかは『錫沢』の名を忌々しく思っているのか。
憎悪の視線がヤマアラシのように突き刺さる。
(そういえば俺は視線に敏感なんだな、どういうことなのか)
元々現当主にあまり良い思いをしていない八朝の中で
取るに足らない『視線への反応』への興味が勝ってしまう。
「聞いておるかの?」
「……一から話してくれ」
考えを巡らせようと頭を回して、漸く声に気付く。
不遜な態度に怒気のボルテージが上がっていくが、現当主が手で制止する。
「よい、これはわしにもある『巫女』への適性の証
何故かは知らぬが、お主からは神霊と血風の匂いがする」
たった10分弱で誰にも話していない過去を悟られる。
大量殺戮の起点となる出来事は秘して、ほとぼりが覚めるのを待つ。
(あれ……?)
何故か、触れた記憶の感触が鈍い。
大量の人を殺した愉悦と罪悪と後悔が……薄皮一枚隔てて遠い。
そこに現当主の咳払いが割り込んできた。
「黙りかの、まあ良い
『錫沢』が一家心中して以来荒れ果てた社であるが……」
暗に水瀬神社の管理を任せるかどうかこちらに委ねてくる。
正直言うと彼女の戯言に付き合う気は無い。
厄介事か、利用するかしてエリス捜索を邪魔してくるに違いない。
だが水瀬神社と言えば、篠鶴地下遺跡群の管轄が任されている。
捜索範囲がこれまで以上に広がるのは好都合である。
『どうする、嫌な予感がするけど……』
『地下遺跡群も探したいから引き受けたい
だが、アレに二つぐらい確認する事項がある』
八朝が端末の筆談を置いて現当主と向き合う。
「二つ聞く、水瀬神社の管轄とは具体的に?」
「お主等に神事は任せぬよ
じゃが『錫沢』の名を知るなら、想像はできていよう」
「『七災鎮圧』、これのみ」
それは彼女の言う通り『前の6月』から想像できた。
英丸と、私欲で力を受けた『七含人』……
『錫沢』と『七不思議』切っても切れぬ関係にあるという。
「もう一つは何じゃ?」
「俺が管理する代わりに、お前たちが治安維持をやってくれ」
ざわざわと嘲笑の声が沸き上がる。
愚かな、下賤な、醜い……言葉からして化物を忌んでいる。
鳴下家が魔力消去の力を持ちながら不干渉だった理由を体感する。
「我々がそうせぬ理由とは?
よもや、坊やが不在故に儂等に強要するのか?」
「ああそうだ、少しは働け穀潰し共
八卦切通の要石見張りなぞ俺でもできる」
下に見ていた空気が、一瞬にして張りつめる。
八朝が放り棄てたのは、紫色の拳大の『鱗』。
それが『妖魔』のものであるのはこの場の全員が知っていた。
「そうしたいが、儂等には出来ぬ相談じゃ
取り締まりは兎も角、儂等は『辰之中』に入れぬ、倒せぬのじゃよ」
「え……『辰之中』なんて無いんだけど……」
三刀坂が慌てて自分の口を押さえるも既に遅し。
当主も含めた鳴下家全員がざわざわと困惑を口にする。
「どういう事じゃ?
お主等が『紫府大星』を殺したのではないのか?」
「……本当に知らないんだな」
どうやら『鳴下家』のみ『前の2月』の記憶が残っていたらしい。
という事で改変された『現状』についてかいつまんで説明した。
「……であれば、儂等がやらぬ理由は無い」
「と、当主様……?」
「黙るがいい
主無き篠鶴を任されるのは儂ら鳴下家」
「まさか、殺せぬとは言うまいよな?」
垂簾から凍り付くような威圧が同族へと届けられる。
あらゆる年齢の、贅肉で鈍った悉くの『鳴下家』が針の筵となる。
「では引き受ける」
◆◇◆◇◆◇
………………。
Interest RAT
Chapter 03-e 外道 - Out of Theory
END
これにてCase93、鳴下駅東口の衛士Ⅱの回を終了いたします
いやいや、出来ないと言ってるのに記憶遡行やらRAT_Visionやら
一貫性が無いように見えて、実はこれがメインテーマでもあります
お気づきでしょうか、LOGDATA(過去・鷹狗ヶ島)回について
まぁ、何も無いというのであればそうなのでしょうが……
次回は『甘い罠』
引き続き当物語をよろしくお願いいたします




