Case 93-2
2021年9月21日 完成(45分遅刻)
『七災』の正体が転生者の可能性がある。
だが、それが分かったところで何も進展はしない……
【4月14日(火)・夕方(18:42) 太陽喫茶前・屋内スペース】
「……」
それから数分間誰も喋れなくなる。
話題が尽きたとも、目的が到達不能と思い知ったとも。
相手が法則外の存在だなんて誰も思いはしなかった。
(……いや、転生者って手掛かりはある
そこから考えれば少なくとも……少なく、とも)
もし自分の発想や記憶だけで答えを探した場合
上首尾でも24時間、いやどう考えても週単位を溝に投げ捨てる事になる。
そんな危機に対し、八朝の視界に他の三人が映っていた。
(全員巻き込めれば或いは……だが、どうやって
上手くみんなの興味を引くよう話すには……)
そこまで言って、自分の非に漸く気づく。
であれば時間が無い以上、四の五も言わずに行動に映すしかない。
「奴がもしも転生者なら、少し気になるところがあるんだ」
「気になる事?」
「ああ、奴の力がどういう理屈でこの世界に『引用』されているかだ」
「それって、水瀬神社の社殿の本の事?」
当事者である三刀坂だけ気付くことができた。
という事で柚月や咲良に当時の話をする。
七不思議の管理者たる『七含人』、それを生み出す外の世界の書籍。
信じ難い話であるが、三刀坂が頷いてしまっている。
より奇妙な光景にも見えなくもない。
「……」
咲良と柚月が互いに顔を見合わせる。
思ったよりも薄い反応で八朝の心裡に不安がよぎる。
「そういえば、ゆーちゃんも変なこと言ってたよね?」
「え?」
「電子魔術がどうだって……」
柚月が何が起きたか分からないように呆ける。
だが、その言葉に反応したのは三刀坂の方であった。
「え……? 電子魔術を知らないんですか?」
「うん、しらないよ
わたしだけじゃなくて、学校中のひともしらないと思う」
「ああ、そうらしいな
俺も電子魔術を使ってるの三刀坂しか知らない」
「嘘……」
どうやらあの時の重力強化魔術も無意識であったらしい。
流石にここまで材料が揃うと咲良もある事実に行き当たる。
「……ねぇ、みっちゃんってはじめて会ったのにふれんどりーなんだね」
「あ、いや……その……」
「ううん、いやってわけじゃないけど
ふうちゃん繋がりで何かあったんだよね」
「それは、うん」
「……だったら、その電子魔術って
もしかしてふうちゃん由来の力だったりしないのかなって」
つまりは、転生者がその周囲に与える影響についてである。
言うまでもなく『前の6月』の記憶が象徴するように、強い影響が残っている。
そして、もしもマスターの呟いた一言が正しいのなら……
「ああ、それが俺の気になっていた事だ
転生者は周囲に法則外の影響を与える、それは衛士にも言えるだろう」
「うん、でもそれだけじゃないよね?」
「ああ、柚月の言ってた『記憶遡行』とセットで言うなら……」
「俺の『記憶遡行』は確実に弱くなっていっている」
それは紛れもなく衛士を倒すための材料となり得る。
その一言に全員の顔が一気に晴れていく。
「でも、弱くなっているってどうして?」
「それはふうちゃんが思い出せるところはぜんぶ思い出せたからとか」
「それもあるかもしれない
だが、一番怪しいと睨んでいるのは『喪失』だ」
八朝が更に『喪失』の内容に踏み込む。
『巻き戻す前』にて字山光樹を、『前の6月』にて鹿室を
そして言うなれば『前の2月』にて八雷神を失う度に起きた事。
『本物』の千里眼の影響による他人の記憶やifの世界の記憶。
それらが、段々と見えなくなって遂には自分の過去しか見えなくなっていく。
そして……
「エリスがいなくなった途端に『記憶遡行』自体が発動しなくなった」
その瞬間に全員と衛士の倒し方を共有した。
つまりは、衛士と縁のある物を破壊していけば能力が弱くなる。
「だったらピッタリな人いるじゃん! 確か……」
「箱家の事だろ」
「あ、それそれ!」
「残念だが俺はソイツから恨みを買っている、協力は絶望的だ」
「そっか……」
三刀坂の得意そうな物言いが瞬殺されて稍気てしまう。
何気に彼も記憶を引き継いでいる前提の話なのだが
似たような事例が幾度となく襲い掛かってきたことがある。
(……流石に、今回は丸前すらも)
今度は縁のある物の探し方について話している。
黙っていた自分が一方的に悪いのだろう、さっさと話すことにする。
幸いにも衛士は分かりやすい『反応』を残していた。
「ああ、縁のある物の探し方についてだが実践したほうが早い」
八朝が霧を周囲に撒き散らす。
霧は絶えず何らかの形を取り、霧散するのを繰り返す。
「あっ! あの衛士は確か……!」
「そう、全く反応しなかった
衛士の周囲で霧の反応しない物を片っ端から叩けばいい」
続きます




