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Case 93-1:【該当データが存在しません】

2021年9月20日 完成(118分遅刻)


 予定通り19時までに太陽喫茶へと戻って来る。

 だが、そこに恐ろしい『脅威』が立ち塞がっていた……




【4月14日(火)・夕方(18:30)  太陽喫茶前・裏道】




「今度からは、ちゃんと電話するようになァ」

「………………はい」


 マスターにこってりと絞られた八朝(やとも)が青い顔をしている。

 いつもなら拳骨で済んでいた筈が、今日だけはそうもいかなかった。


 だが少し考えると道理は通っている。

 まず、マスターにも『前の世界』の記憶は引き継がれてはいない。


 その上でここ数日間の八朝(やとも)の行動を見てみると

 朝帰りや不純異性交遊、しかも連絡なしで押しかけるとは暴挙に等しい。


 親の目線からすれば説教は無くとも心配されて当然であった。


「お前さんがどう連もうが俺は文句を言わねェ

 だが、ケジメだけは付けろ、それが出来なければ人として……」


 本当に珍しく、長い説教をしようとするマスター。

 だが、そんなマスターの肩をちょんちょんと叩く人物がいた。


「何だ、今は取り込み中で……」


 そこには能面のような笑みを貼り付けたマスターの奥さんが佇んでいた。

 八朝(やとも)はエプロンから取り出した写真を受け取った。


 若かりし頃のマスター達と、時計は2時を指している。

 室内照明から考えて昼下がりではなく、深夜に騒ぐ若者たちの一幕。


「お、おい……それは……」


 マスターが反論しようとして瞬間にたじろいでしまう。

 状況的には『貴方が言えた事ですか?』と凄まれたのだろう。


 くるりと翻り、八朝(やとも)には文字が書かれたボードを見せられる。


『でも本当に心配しましたよ』

「……すみません」


 マスターの奥さんは柔和な笑みで『分かればいい』と書き直す。

 また、文字で三刀坂(みとさか)達を待たせていると伝えてくる。


「では」

「……」


 マスターは何も返せず溜息を吐くしかない。

 家族の急な心変わりについて奥さんと話し合う必要があるのだろう。




【4月14日(火)・夕方(18:41)  太陽喫茶・屋内スペース】




「おかえりー」


 そこには三刀坂(みとさか)柚月(ゆづき)に加え咲良(さくら)もいた。

 席も飲み物も既に用意されているので座る事にする。


「……聞こえてたか?」

「ちょっとはね」

「まあこれからはちょくちょく確認しなきゃね、抜けてるし」

「……本当にすまんかった」


 そのまま本題に入ることにする。


 『七災之参(鳴下駅東口の衛士)』を調査した結果を伝える。

 瞬間移動、絵画のような性質、そして魔力が無い……どれもこれも異常である。


「魔力が無いのに動くって何なの……?」

「……」

「ふうちゃん?」

「あ、いや……元の世界では当たり前の事だったなって」

「それって?」


 質問を契機に八朝(やとも)が元の世界の生活について話す。


 ここよりも進んだ科学技術に、ある程度自動化された日常のシーン。

 功罪は多々あれど、魔力無しに便利な暮らしをしていたと話す。


「でも八朝(やとも)君って確か……」

「ああ、俺は離島住まいで疎かった

 自動改札やQR決済は他の人から聞いただけだ」

「へぇー……じゃあ鷹狗ヶ島はどんなとこなの?」


「……自然豊かで、穏やかな島だったよ」


 八朝(やとも)が一瞬言葉に詰まってしまう。

 穏やかに他者を否定し踏みつけにする姑息の島、嘘は言っていない。


 だがそれを素のまま言うのに恐ろしいほどの躊躇いがあった。

 また、その後を知っている柚月(ゆづき)も微妙な顔をしている。


「ふんふん、それはそれとして魔力がなくてもというのは?」

「そういうのは本や嘘の中だけで、生活には全く関わらなかった」

「あー……ほんとうに無いかんじなんだー」


 咲良(さくら)の急激な話題転換に異を唱えるものはいない。

 そんな中、おずおずと柚月(ゆづき)がおずおずと手を上げている。


「どしたのー?」

「えっと……ふうちゃんの能力で魔力つかわないの、あるけど」


 柚月(ゆづき)が放った爆弾発言でその場が騒然となる。

 異能力こそ魔力と不可分でありながら、それに反する特例の登場である。


 奇しくも『七災』という点で両者は一致している。


「えっ!? そんなのあるの!?」

「いや、俺も知らん……どういう事なんだ?」

「そ、その……」


「記憶……遡行」


 だがその指摘は的外れも良い所であった。

 ただ思い出すだけのそれが異能力の筈がない、空気が一気に弛緩した。


「ほ、ほんとうなんだけ、ど!」

「……すまん、記憶遡行(そっち)の方を異能力と考えた事は」




「ううん、それも八朝(やとも)君の異能力だよ

 ちゃんとRAT_Vision(アプリ)の分析画面にも出ていたよ」




 唯一、三刀坂(みとさか)だけが真剣な顔で頷いていた。

 証拠のRAT_Vision(アプリ)は遡及的に消え去っているが、それでも自信満々に。


「それは、『本物』の千里眼(ギフト)の方では?」

「ううん、属性が違う

 八朝(やとも)君のはZ.ERROR(不明・無属性)だったから」

「無属性……」


 それもまた魔力と相互作用が無い事の証左であった。

 だがそこから得られる結論は、あの『紫府大星』を過去にする程の脅威である。


 即ち……




「『七災之参(鳴下駅東口の衛士)』は転生者だっていうのか……?」




続きます

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