Case 92-3
2021年9月17日 完成(94分遅刻)&修正(一文追加・誤字)
2021年9月20日 ストーリー修正
雅の救出と取引の為に『七災之参』に挑む。
そして八朝達は『七災』の恐ろしさを味わうことになる……
【4月14日(火)・放課後(17:59) 鳴下地区・駅前大通り】
まず『七災』とは何なのかという話である。
辛うじて『篠鶴七不思議』であるとはいうが、根本的な所で相違点がある。
要は『七不思議』には実体がないのである。
ただ向こう側に行けないだけの『渡れずの横断歩道』
守人がいるだけの『笑う卵』、只の疾病の『神隠し症候群』なんかは特に。
『七不思議』は、その名の通りあくまで『噂』でしかないのである。
「ねぇ、七不思議の方の衛士って確か……」
「東口で立っているだけの鎧
その向こうに行くと襲ってきて、死ぬまで追い続ける……だったな」
八朝が何気なく七不思議の方を諳んじて見せるが
もうこの時点で『七不思議』の定義と矛盾していることが分かる。
「うん、私はてっきり鳴下家の人がやっていると思ってたけど」
「ああ、その理論で行くと明確な謀反になるな……命知らずにも程がある」
鳴下家は現当主の独裁体制が敷かれ、それを裏付ける『実力』も備えている。
現当主と匹敵する柚月なら兎も角
それ以外で彼女を倒して統治を奪い返せる可能性はゼロに等しい。
ましてや『七不思議』すらも魔力消去の鳴下神楽の前ではゴミクズに等しい。
(篠鶴市ではほぼすべての事が『魔力』で引き起こされる
そんな場所で天敵の鳴下家すら手を出せない『七災之参』とは……)
だが、余計な事を考えている暇はこれで終わった。
まるで地鳴りのような足音が二方向から聞こえてくる。
確認するまでもない、化物の群れであった。
「……向こうの小さな群れは?」
「うん、まかせて」
そう言って柚月がもう一方の群れの方へと駆けだす。
八朝達は朧げに見え始めた化物に備えて……
『■■!』
八朝が左足麻痺の呪雷を飛ばす。
範囲攻撃・妨害の性質を持った呪雷で先頭集団を躓かせる心積もりである。
目論見通りに先頭から伝播するように後方まで崩れ、霧に帰っていく。
まさかその程度で死ぬぐらいに弱いのは想定外だが、それだけでは終わらない。
崩れた屍の上からもう一波分の化物が湧き出してきた。
「……何だよコイツ等!?」
もう一度呪雷で挫かせる、だがその霧の中から更に湧き出す。
それを更に数度繰り返し、徐々に敵側前線が目と鼻の先にまで迫って来る。
「……ッ!」
『tm ma udnfmvr qb / cnhj siym sn jjz oa / wmmgct mecm shpa ex!』
「三刀坂!? それは……!」
『Ogrmglakil!』
三刀坂が電子魔術を唱えようとする。
この世界に電子魔術アプリは存在しない、不発になる筈だった。
だが、重力強化魔術は化物達を地面に縫いつけた。
「な……!?」
「八朝君! 余所見してない!」
「あ、ああ……」
その間に化物達が重力から逃れるように、じりじりと滑っていく。
漸く異変に気付いた八朝が本来の目的を思い出す。
即ち、何が起きているのかを明かにするのが自分の役目にして力なのだと。
『■■!』
はみ出た化物を銃撃で一体ずつ処理する三刀坂。
そんな彼女の為に明かにした敵の性質は恐るべきものであった。
何一つとして法則性が無い、絵の具を零したようにカオスな分析結果であった。
(何なんだよこれは!?
■■を経由していることは分かるがそれ以外は……!)
それは状態異常的には『呪詛』、言葉の原義としては『水』。
もっと思い出せ、■■が現れた場所の特異性……例えば。
低い、低い……まるで地を這うように並ぶように……
「八朝君!」
耐えきれずに懇願するように叫ぶ三刀坂。
もう既に『重力減少』によって文字通り浮足立ってしまっている。
それに抗うための呪いはちゃんと存在している。
『■■!』
八朝が帽子を三刀坂に投げ渡す。
紐の部分が頭に引っ掛かり、無事に三刀坂へ『鈍足』の過重が届けられる。
だが、今まで通り化物を狙っていてはジリ貧に違いない。
故に八朝が一か八かで指示を飛ばす。
「三刀坂! 地面を狙え!」
「分かった!」
三刀坂が瞬時に照準を大地へと向ける。
乾いた発砲音と共に、大地に凄まじい勢いで亀裂が走り始めた。
「え……!?」
三刀坂が異変に気付いてその場から離れる。
岩が千々に砕ける音と共に大地がその口を細長く大きく開けていく。
そして化物達はその亀裂の中に吸い込まれていった。
「これは……!?」
「ああ、暗渠だ
地下に埋められた川、だがここには地下遺跡群がある」
「暗渠がキリトリ線になって、地下遺跡群への深い亀裂を引き起こした」
あの『水』という暗示は化物の属性ではなく『水脈』を現していた。
それだけの筈が、化物達は次から次へと亀裂へ身投げしていく。
まるで脳を失ったかのように、生き物ですらなくなったかのように。
「化物ってこんなに頭悪かったっけ?」
「分からない……だがこれで進めるようになった」
大通りの向こうに2階建ての立派な鳴下駅の建物が見える。
八朝達は、亀裂を避けるように大回りで鳴下駅を目指した。
続きます




