Case 92-2
2021年9月16日 完成(106分遅刻)&誤字修正
三刀坂の機転により赦免してもらう。
だとすれば、今度は自分が頑張る番に違いなかった……
【4月14日(火)・放課後(17:46) 太陽喫茶・テラス】
まず目につく問題として『七災』を挙げてみる。
エリスを探すにあたって、情報収集の前に安全確保が重要であるからだ。
それにあたって『七災』と、そこから現実に湧き出す『化物』が問題となる。
「化物ってあれだよね?
みんな何かしらリードで繋いでいるあの……」
「ああ、目を疑いたくなる光景だがな」
化物は『非能力者は襲わず』『異能力者のみ襲う』という性質がある。
電子魔術が使用不能な今、これ以外に身を守る手段が存在しない。
だが、同時に無害な異能力者すら阻む壁となり得る。
「うーん……化物が湧き出す『七災』を消しても
非能力者の人達が余計に困っちゃって、もっと頑固になる気が……」
「ああ、だからこの場にいない用心棒を雇う」
八朝が端末の画面で指し示したのは鳴下駅。
その瞬間に三刀坂も納得したように声を上げる。
「そういや雅先輩も見かけない……」
「鳴下家の部外者である彼女までいないのは俺にも分からない
全員が姿を消した後に『七災』、更に今の今まで抵抗らしき動きが無い」
「鳴下家は『七災の三』に閉じ込められている可能性がある」
一応筋を通したのだが、そのせいでもう一つの問題が鎌首をもたげる。
魔力そのものを消し去る秘術・鳴下神楽でも抗えない『七災の三』の力。
「……だが、相手は鳴下神楽が効かない
どういった理屈でねじ伏せているのか不明なままで突撃はできない」
「だとすると、偵察?」
三刀坂の返しに八朝が頷く。
定石にして堅実な案である筈なのに三刀坂の表情が暗い。
「もしかして、一人で行く気じゃ……」
「……後遺症が致命的な柚月を連れていけない、それ以上は」
三刀坂がむっとした顔で文句を言おうとするのを抑える。
彼女が最も恐れている事は分かっているつもりだ。
「ああ、俺だって『本物』から借りたんだから無碍にはしたくない」
「……ッ!」
「せめてエリスのように障壁魔術が使えるのなら……」
「あっ……だったら私の属性スキルがあるじゃん!」
それは三刀坂が使用可能な地属性スキル・城壁の事である。
確かに『城壁』はダメージを回復に転換する形で身を守る障壁スキルではある。
「それは無理だ」
「なんで!?」
「まず、『城壁』は依代を地面に刺さない以上発動しない
つまりは発動すれば動けない、しかも俺も柚月もDEX主体だ」
「俺か三刀坂の一方が必ずやられる、相性が悪すぎる」
八朝が再び頭を抱えて考え込む。
ふと、ホットミルクを全く飲んでいなかったことに気付いて一気に呷る。
ぬるく、頭に染みる糖分と共に前向きに考える。
(『設置』型である以上は座山挨星歩で取り得る動きが限定される
……『城壁』を複製できたりしないのか、例えば依代を増やしたり)
「増やし……たり……」
「八朝君?」
『Isfjt』
八朝が何か閃いたのか三刀坂の銃剣を模倣する。
一か八かであるが、三刀坂に模倣した銃剣を渡す。
「これで『城壁』が発動できないか?」
その一言で三刀坂も同じ考えに至った。
淀みない動きで『城壁』を発動し、更に自らの銃剣でも『城壁』を呼び出す。
テラス席の傍らに、二つの『城壁』による守りが出現した。
「ねえ、これだったら!」
「ああ、嫌と言おうが付いてきてもらう」
鳴下雅の安否確認という名目も立ち、急を要する案件となった。
居住スペースの隅に3人分の荷物を置いて。
……何故か行く気の柚月に疑問を投げる。
「話は聞いていただろ、柚月は……」
「ふうちゃん、そうじゃなくて『七災』って『化物』がでてくるところ」
「ああ、だから……」
「うん、ふうちゃんたちがていさつしている間、他の『てき』は?」
柚月の指摘は筋が通っていた。
確かに広範囲攻撃か圧倒的な戦闘センスを持っているメンバーがいない。
いや、三刀坂の『Libzd』なら広範囲攻撃なのだが
そちらは闇属性であり、要となる『城壁』の使用に致命的なラグが生じる。
そんな状態で化物に囲まれれば偵察どころではない。
「……無理はするなよ」
「うん、まかせて」
柚月が力強く頷いてくる。
そこに本日の手伝いが丁度終わった咲良が通りかかる。
「ん、おでかけ?」
「ああ、一応19時半までには戻って来る」
「うん、いてらー」
咲良の気の抜けた挨拶に見送られる。
こうして『七災鎮圧』の企てが始まったのだった……
続きます




