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Case 91-4

2021年9月13日 完成(113分遅刻)


 一先ず大人しく『高校』の授業を受ける事にする。

 だが、授業風景は八朝(やとも)の予想を超えるものになっていた……




【4月14日(火)・4時限目(12:00)  篠鶴高校・グラウンド】




「……ッ!?」


 サッカーボールが空を切り、頬を削っていく。

 明かに自分を狙いすましたかのような一撃であった。


(おいおい……何だよこれは)


 ベンチには動けなくなった同級生の大半が寝かされている。

 彼等は比較的軽傷なのだ、重傷者は保健室か病院である。


 味方の様子を見ようと八朝(やとも)が後ろを振り向く。


「ひっ……!」


 キーパーが恐ろしい形相で震えている。

 因みに彼は非能力者なので、アレを受けたら一発で病院送り。


 仕方なく『敵』の方に向き直ることにする


「一つ聞くが、これはサッカーだよな?」

「ああ、そうさサッカーだよ

 サッカーボールで敵の鼻柱を粉砕するゲームだろ?」


 前に出ている数人と共にゲラゲラと笑っている。

 踏みつけているボールが異能力者の脚力で変形してしまっている。


 無論、これは戦争等ではなくスポーツである。

 決して彼等の言うような『殺戮娯楽』の類ではない。


「にしてもお前、風属性でもないのに避けるじゃねぇか」

「……それは誉め言葉として受け止めてやるよ」

「ははっ、面白ぇ……そのスカした顔を凹ませてやるよ!」


 ボールが再び超音速を身に纏い飛翔する。

 だが、鳴下神楽を修めている彼にとっては止まったも同然。


 ……その狙いが、キーパーでない限りは。


「……ッ!」


 八朝(やとも)は脈弓でボールへと追いすがり

 キーパーの目の前で龍震による震脚でボールを地面に墜落させる。


 ボールは衝撃に耐えきれず、本日二度目の破裂となった。


「おいおいおい、お前やる気あんのかよ?

 先生が言ってんだろ、ボールは友達だってな!」


 再び嘲笑を送って来るクラスメイト。

 だが、耳についたのは彼等ではなくキーパーからの呟き。


「……ちゃんとやってくれよ

 お前があと一回壊したら俺らの負けなんだぞ?」


 悪意が彼等だけなら、ここまで悩む必要はなかった。

 因みに監督の責を負っている筈の先生はいの一番で病院送りとなった。


 このように、篠鶴高校は異能力者による圧政が蔓延っていた。

 彼等の楽しい事が善であり秀、その反対は悪にして劣。


 無論、このサッカーもどきの勝敗も成績に関わっている。


「……」


 八朝(やとも)が仕切り直しの為に現状を整理する。

 点差は双方ゼロ、両陣営の異能力者が『潰し』に没頭したが故である。


 そしてこちらはキーパー除いて八朝(やとも)一人のみ。

 対して相手は未だに手の内を明かさない異能力者5人と……


(……沓田(くつだ)、お前がこんな事をするとは思っていなかったが)


 苦々しそうに旧友の姿を視界に収める。

 乱暴であるが義理人情のある沓田(くつだ)も他と大して変わらない。


「ほーら、今回はお前にやるよ

 ま、どうせ俺達は6人だし、勝てるはずもない」


 相手からの挑発は、後ろに控える苦言と相俟って八朝(やとも)を縛る。


 だが、勝算がゼロという訳でもない。

 今までやったことのない『■■(taw)』の読みを連続5回。


『……■■(taw)!』


 相手は聞き覚えの無い固有名(スペル)(taw)に動揺する。

 だが、それらに殺傷能力が無い事を悟ると、途端にせせら笑いへと変わる。


「目くらましの……つもりかよ!」


 一人目、土より生まれた万物を侵す三叉の槍。

 無論これは壬水の(ギフト)、発動させるわけにはいかない。


曲脈(zar)干合星奇(sims)


 カバラにて丁を意味する『小』と『火』をそれぞれ構築する。

 それを以て座山挨星歩と為し、相手の能力(ギフト)を直接呪う。


 即ち不完全な壬丁干合による合去(しょうめつ)


「……!?

 気を付けろ! 奴の『霧』は……!」


 相手が気付いた時には既に他四人へのカウンターが完了していた。


 虚を突かれ、それ程見えにくくもない霧の中で呆然と立ち尽くす。

 そんな相手なら、サッカーについては素人の八朝(やとも)でも余裕。


 だが、余りの呆気なさに驚いたのは八朝(やとも)も同じ。


(……あれ? 『記憶遡行』が発動していない……?)


 相手の異能力を分析しただけで起きる『記憶遡行』の頭痛が無い。

 刹那的には喜ばしい事だが、紛れもない『喪失』の跡であった。


 それに気を取られた、八朝(やとも)が2つの事実を見落としてしまう。


 一つは、自分の異能力が『科学法則』相手なら無力に等しい事。

 もう一つは、そんな相手の攻撃から身を守ってくれた相棒(エリス)がいない事。


 それらが、八朝(やとも)を致命傷の爆炎へと焼べた。


『Wytglc』


 沓田(くつだ)が得意とする広域爆破の異能力が炸裂する。

 最後に見た彼の顔には、何故か失望と怒りの表情が浮かんでいた。


次でCase91が終了いたします

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