表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
496/582

Case 91-3

2021年9月12日 完成(1分遅刻)


 いつも通りに柚月(ゆづき)を起こしに行く。

 眠たげな眼で出迎えた彼女に咲良(さくら)とマスターが意外な反応をする……




【4月14日(火)・朝(7:25)  太陽喫茶1F・共用ダイニング】




「そんな事が……」


 朝食を摂りながらマスターに柚月(ゆづき)の事を訊いてみる。


 曰く、柚月(ゆづき)は数ヶ月前の事件で襲撃に遭い意識を失った。

 現場には大量の熱湯が残っており、それはある七災の一つと符合する。


笑う卵(ヴィヒテルドライ)か……」

「お前さん、詳しいんだな」

「……俺もそれ関連の事件に遭った事があるんだ」


 篠鶴機関に関係があるマスターから疑いの目を向けられたので

 取り繕うように『過去』の話を仄めかすが、今度は別の意味で怪訝となる。


「……話せ」

「いや、特に大きい話では……分かったよ」


 そして八朝(やとも)柏海(かしみ)の事件の話をする。


 もう存在しないだろう『七不思議』と『七含人』の関係。

 また、車寺(くるまでら)との因縁も含めてマスターに説明した。


 するとマスターが再び考え込む、何かがありそうな気がする。


「……狂言を言ったつもりは無いぞ」

「知っている、寧ろ余計に納得できたが腑に落ちねェ」

「それは俺が『七災の七』だって事か?」

「その通りだ、それ以外にあの奇跡を引き起こせない」


 マスターの視線の先に姉妹の睦まじい日常があった。


 更に聞くとこの『七災の七』は唯一人間に味方する『七災』という。

 今年の年始に現れ、『影』と呼ばれ、あらゆる奇跡を引き起こした。


 死人を蘇らせ、悪疫を祓い、窮地を粉砕した。

 そして自らを『この世界の矛盾を砕く奇病』なのだと称した。


(……確かに神隠し症候群にはそんな一面もある

 『本物』は犠牲になるが、別世界の健康な本人に置換できる)


(だが、本当に随分と大きく出やがったな)


 八朝(やとも)はこの話を苦々しい表情で受け止める。

 彼には柚月(ゆづき)達の風景が全く別のモノに見えてしまっていた。


 間違いなく、この世界の柚月(ゆづき)は……


「取り敢えずお前さんは学校に行くのだろう?

 柚月(ゆづき)を看病する為に停学したのだから……」

「そうだな」


 脳裏には次なる手を思い浮かべている。

 今の自分に足りないのは人員、つまりは仲間になれそうな人物。


 学生という身分もあり、人間関係の大半が学校関係である以上

 八朝(やとも)は篠鶴高校に通う他ない。


 だが、そもそも『学園』に通っていた彼は

 『高校』の状況がまるで靄のように掴むことができない。


「どったの? 不安?」

「……まあ、そうだ

 篠鶴高校に通っていた記憶がごっそり無くてな」

「えっ!?」


 その反応だと、八朝(やとも)の記憶喪失すらも存在していなかったらしい。

 改めて自分が『神隠し症候群』なのだと二人に説明した。


「……そうか、無理はするなよ」


 マスターの返しに驚いてしまう。

 普通なら『記憶が戻る』事に言及される筈が、それすらない。


 ぽかんとしている八朝(やとも)の手を咲良(さくら)が握る。


「だったら、今日はいっしょに行こう

 歩きになるけど、いっぱい説明してあげる」

「それは願ったりだ、ついでに柚月(ゆづき)も一緒で良いか?」

「うん!」


 咲良(さくら)が満面の笑みを浮かべて返す。

 マスターは高校に連絡を入れる事にして、自分たちは早めに家を出た。




【4月14日(火)・朝(7:38)  西榑宮地区・榑水橋前】




「……」


 咲良(さくら)が語った『高校』の現状に絶句する。


 何しろ異能力者の生徒がそれ以外を抑圧しているとは信じたくない。

 『学園』の友人達を知るからこそ、ショックが大きかった。


「それで、わたしもこれ以上は……」

「そうだな

 生徒会長の咲良(さくら)が俺達と一緒にいると知られれば……」


 ということで、この時点で二手に別れる必要がある。

 異能力の補正がある八朝(やとも)達はここで磯始(いそはじめ)から遠回りする。


 申し訳なさそうな顔をする咲良(さくら)柚月(ゆづき)が抱きつく。


「わっ……うれしい……」

「いえにかえったら、またいっしょ」

「うん」


 咲良(さくら)が名残惜しそうに離れると

 そのまま『高校』のある東西橋方面へと去っていった。


 そして八朝(やとも)達は榑水橋へと歩いている。


柚月(ゆづき)、何処まで覚えている?」

「……ふうちゃんに『ごほうび』をあげたところまでなら」


 それは八朝(やとも)と同じ所まで覚えていた事を意味する。

 どうやら柚月(ゆづき)は『あの時』の彼女で間違いなかった。


 それにしても言葉のチョイスが独特過ぎた。


「……取り敢えず、柚月(ゆづき)咲良(さくら)の妹だとは」

「うん、いわないほうがいいかも

 むしろ、ふうちゃんのいもうとだっていったほうが」

「その方が良い、寂しい思いをさせるが」


 柚月(ゆづき)が首を振って否定する。

 それよりも彼女は八朝(やとも)の次の行動目標を待っていた。


「昼休みに屋上で落ち合おう

 施錠されているなら誰も入れない、適している」


「それまでに俺は三刀坂(みとさか)を確認してくる」


 三刀坂(みとさか)、『巻き戻す前』から記憶を保持している友人。

 彼女なら覚えている公算が大きい、だが覚えていると少々厄介である。


(何も知らずに騒ぎを起こさなければ良いが……)


 直情的な彼女が、この高校の現状を看過している筈が無く

 ともすれば例え友達の神出来(かんでら)だろうがお構いなしである。


 そして、三刀坂(みとさか)が生徒指導を食らっていればその時点で終わり。

 何としてでも情報の集まる学園で仲間を増やさなければ意味がない。


「ふうちゃん、あれが『高校』?」

「……らしいな」


 校舎は経年劣化で少々黒ずんでいるが

 ごく普通の公立高校という体を為していた。


 そして喧騒も無し、まずは第一関門突破である。


「それじゃあ、昼休みに」

「うん、まってる」


 昇降口で柚月(ゆづき)と別れ、自分の教室へと向かう。

 その間に降り注いできた視線は、あまり良いものではなかった。


続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ