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Case 91-2

2021年9月11日 完成


 『創造神』の庇護が離れた世界で目が覚める。

 そこは、咲良(さくら)がエリスを知らない世界であった……




【4月14日(火)・朝(7:07)  太陽喫茶2F・廊下】




「……それは、冗談だよな?」


 おそるおそる確認するも結果は同じ。

 咲良(さくら)は少し考えてやはり首を横に振る。


「エリスって人は知らないけど、ふうちゃんのお友達?」

「……いや、大切な依頼者だ」


 八朝(やとも)が伝わらぬ真実で苦々しく呟く。

 いつも通りに神隠し症候群の『発作』を心配されるのだろう。


 だが、一向に返答は無かった。

 その間に咲良(さくら)が何か考え事をしていたからだ。


「どうした?」

「ん、そのエリスってお友達の場所は?」

「……」

「わかった、おねえちゃんにまかせて」


 咲良(さくら)が筋肉に乏しい二の腕で力こぶを作る。

 どうやら、エリスについて手伝ってくれるらしい。


「いいのか?」

「生徒会長だし、だいたい不可能なことはない」

「……そうか、恩に着る」

「恩に着なくてもいいよ、家族だからね」


 何故か話が纏まったので、取り敢えず洗面台へと向かう。

 顔を洗い歯を磨き、ふと咲良(さくら)にまた呼ばれる。


「どうかしたか?」

「ん、ふうちゃん……朝はやいなって」

「いつもこのぐらいの時間だ」

「ううん、とても珍しい」

「人が変わったみたいにか?」


「ううん、無期限停学中なのにって」


 歯ブラシを落としそうになるほどに驚く。


 降って湧いた停学(イレギュラー)の話に

 自分の用事を手早く終わらせる。


「それは、一体どういう事だ?

 『本物』がそんな事やるような奴じゃないってのに……」

「どうどう、おちついて

 よく分からないけど、ふうちゃんの処分は本当だよ」


 咲良(さくら)が自分の部屋に戻り、その書類を持ち出した。

 見せられた紙には無期限停学の要旨と『篠鶴高校』の印があった。


「……公文書持ち出しは黙っておく

 それよりも、本当に俺は『高校』に通ってたのか?」

「そう……だけど……違うの?」

「……まさかと思うが、篠鶴学園?」


「……?」


 この一言で、この世界の特異性に漸く届いた。

 違う、何もかもが違い過ぎる……これでは異世界の異世界だ。


 試しに学園の位置を端末(RAT)のマップで伝えてみる。


「あっ、もしかして『暴風の骨』?」

「『暴風の骨』?」

「うん、ずっと竜巻が覆っている秋宮洲(さいぐうじま)


「篠鶴『七災』の一つだね」


 またも見知らぬ単語に理解を阻まれてしまう。

 だが、篠鶴という言葉に『七』とくると自然と思い浮かぶのは……


「それは『渡れずの横断歩道(フォレストラット)』や『鳴下駅東口』のような?」

「そうそう、それそれ

 あとはそうだね……」


 咲良(さくら)が語った『七災』と『七不思議』は

 『篠鶴地下遺跡群』が『暴風の骨』に置き換わっただけで全て一致した。


 更に付け足して

 この『七災』が篠鶴市の『共生都市宣言』を脅かしていると語った。


 曰く、化物(ナイト)はこの『七災』から湧いて出てくるという。


「……ちょっと待て、辰之中はどうした?」

「えっとね

 『渡れずの横断歩道(フォレストラット)』が鳴下家といっしょに閉じ込めてからずっと」


 どうやら辰之中に封じ込められていた『化物(ナイト)』が闊歩しているという。

 建物内は『鳥居印』に守られているが、外は危険極まりない。


 さらにしれっと鳴下家も被害を受けている、それはつまり……


「なるほど、『暴風の骨』かぁ……」

「まさか、行くだなんて言わんよな?」

「ん、むりむりすっごくあぶないから」


 茶化しているつもりなのに目がそんなに笑っていない。

 ただ、頑なな雰囲気があるのでこれ以上詮索しても意味はなさそうだ。


「それじゃあ、ついでに俺は柚月(ゆづき)を起こしに行く」

「えっ……!?」


 咲良(さくら)が何かを言いかけたが、既にノックした後であった。

 そして、数秒もしなううちに柚月(ゆづき)がドアを開けて現れた。


「ふうちゃん、おはよ」

「おはよう、それよりももう7時だ」

「……え? 7時?」

「ああ、柚月(ゆづき)にしては珍し……」


 その瞬間に咲良(さくら)柚月(ゆづき)へと飛び込んだ。

 突然の行動に柚月(ゆづき)が驚いていたが、やがてその異変の核心に至る。


「……ぅぁ」


 咲良(さくら)が肩を震わせて泣いている。

 最愛の妹の無事を手放すまいと、目一杯柚月(ゆづき)を抱きしめる。


 泣きなれていないせいで嗚咽のような声を何度も零す。


 それも驚きの行動であるが

 流石にこんな状態の彼女に詮索する気は起きないだろう。


「うん、だいじょうぶ……だいじょうぶだから……」


 柚月(ゆづき)が何度も咲良(さくら)の頭を撫でる。

 手持無沙汰の八朝(やとも)は、状況を整理しようとして……


「なんだ咲良(さくら)、さっきから騒がしいじゃ……」


 騒ぎを耳にしたマスターがこちらにやってきて、ぽかんと口を開ける。


 最初は奇跡を目の当たりにしたように

 そして、これが現実なのだと噛み締めながら背を向ける。


「……ちょっと待て、お前さん」

「俺が何か?」




「お前さん……まさか『七災の七(神隠し症候群)』か?」





続きます




七災・一覧


①渡れずの横断歩道

②鳥居印の怪異除け(鳥居印)

③鳴下駅東口の衛士

④嘲笑う卵の子攫い(笑う卵)

⑤天底に漂う交差点(空中交差点)

⑥尽きぬ暴風の骨組(篠鶴地下遺跡群 → 暴風の骨)

⑦神隠し症候群原型(似姿のジンクス → 神隠し症候群)

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