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Case 91-1:【該当データが存在しません】

2021年9月10日 完成


 気がつくと、またもや転生の間にいた。

 何も無い真っ暗な世界の中で『創造神』を待つことにする……




【TIMESTAMP_ERROR 篠鶴地下遺跡群深層・転生の間】




(……遅いな)


 待てども暮らせども『創造神』が姿を現さない。

 普通なら求めなくともやってきて、嫌がらせを施した後に時を巻き戻す。


 それが今の八朝(やとも)に待ち受ける『最後』の運命の姿。


(今度はどんな理由で死んだんだ……

 危険思想の集団も、不眠(レフト)による脳障害も回避した)


(なのに、何故……)


 事故、その他の原因に考えを巡らすも、どれも決定打に欠ける。

 ここに来ても『記憶喪失』が足を引いている、そんな予感までする。


 暇で、呆れて、溜息を吐く。


「まだ思い出せないものがあるのかよ」

『その通りだとも』


 独り言に聞き覚えのある声が返してくる。

 幻覚や明晰夢を疑って頬を抓るも、普段通りの痛苦が返ってきた。


『安心しなよ、これは現実

 お待ちかねの『創造神』様が今回は声だけでやって来たのさ』


 姿は見えずとも、ふんぞり返っている様子が見て取れる。

 この傲慢さは紛う事なく『創造神』そのものであった。


「それで、今回はどういった理由で死んだんだ?」


 だが『創造神』は一転して沈黙し始める。

 何度か呼びかけてみても、何も返ってこない。


「おかしいな、聞こえているんだろ?」

『……君は』

「何だ?」




『本当に使命(オーダー)を果たす気があるのかい?』




 それは、明確な怒気と憎悪を含んだ一言であった。

 堪忍袋の緒が切れた、そうとしか言いようのない言葉に気圧される。


 だが、謂れの無い文句をはいそうですかと聞き入れる訳にはいかない。


「どういう事だ?」

『どういう事も何も、今までの君の行動を振り返りたまえよ』

「……何も、手を抜いてはいないぞ?」


『では、死因を言ってみなよ』


 『創造神』からの問いに、八朝(やとも)は黙ってしまう。


 それは先程の『死因』と同じく決定打に欠けている。

 ……崖からの身投げ、最後の記憶のそれでは当時の自分を殺しきれない。


『ほら、見た事か

 君の使命(オーダー)とやらは所詮浮気の為の方便なんだね』

「……ふざけるなよ」

『ふざけているのは君の方だよ

 もう3度目なんだけど、欠片すら思い出せてないじゃん』




『ということで、僕ももう容赦しないことにした』




 『創造神』は八朝(やとも)の前にある映像を映し出す。


 それは篠鶴学園のようで、骨組みしかできていない何か。

 つまり、篠鶴学園建設当時の映像なのだろう。


「容赦しないってのとこれに一体何の……」


 唐突に姿を現した『創造神』が建設現場を文字通り一蹴。

 構造物が崩壊していく中で、無数の悲鳴と血飛沫が迸る。


「な……!?」

『君の使命(オーダー)の邪魔になる『揺籃(ゆりかご)』を潰した

 これで『記憶遡行』に専念できるようになったよ、喜んでほしいな』


『まあ、君が事故死する確率が10倍になっちゃったけどね』


 屈託のない『創造神』の笑顔と

 映像先の地獄がミスマッチを起こす。


 ああ、この神は平気でこういう事をやりやがる。


(……だが、使命(オーダー)が無ければエリスは)


 一瞬、『創造神』との約定を蹴飛ばす為に

 挨星歩の構えに移ろうとしたところで、その考えに至る。


 今の自分は『創造神』に手が伸びるが

 引き換えにエリスが二度と助からなくなる。


 それだけは、何としてでも回避する必要がある。


『ああ、それと君のご要望通り時は戻さないよ』

「……そうか」

『反応が薄いなぁ、もっと喜べばいいのに

 そんなんだから男友達が全然出来ないんだぞ?』

「だからどうしたってんだ?」




『それが『遅い』んだって言ってんだよ!!』




 『創造神』の激高に呼応して転生の間の闇が盛大にブレる。

 赤黒いブラーを撒き散らしながら、八朝(やとも)にもダメージを与える。


「……随分と急かすよな、何か不都合な事でも」

『もういいよ、キミにはもう手を貸さない

 思い出すか死ぬか、キミにはそれしか与えないことにする』

「最初からそのつもりだっただろ」


 『創造神』は眉を顰めながら、口角を限界まで吊り上げる。

 それは未だに的を射られない愚者に対する『憐憫』にも見え……


『だったら、その身で僕の有難みを味わうといいよ』


 そして、転生の間の闇が夢から覚める前の黒に置き換わった。




【4月14日(火)・朝(7:00)  太陽喫茶・自室】




「……!」


 飛び起きるように身を起こして、倦怠感に襲われる。

 いつも通りの寝起きの風景、だけど妙に静かすぎる。


 朝から五月蠅いエリスの声が聞こえない。


「エリス……エリス……?」


 エリスがいるはずの端末(RAT)に呼びかけるも反応が無い。

 仕方なく端末の電源を付けて時間を確かめる事にする。


(……そろそろ支度しないとな)


 八朝(やとも)は布団を押入れに仕舞って卓袱台を出す。

 そうして框でスリッパに履き替え、部屋から出て洗面台へ。


 その途中で咲良(さくら)と出くわす。


「おはよう」

「うーんー、おはー」


 咲良(さくら)の親し気な態度に驚く。

 妖魔のあの事件から続いているなら、彼女とは中立の立場の筈。


「どったの、朝からこわい顔してさー」

「……いや、何でもない

 それと咲良(さくら)はエリスがどこにいるか知ってるか」

「えり……す……?」


 エリスと一番親しい筈の咲良(さくら)が彼女の名を疑う。

 いや、この場合は提示された名前に心当たりが無いようにも見える。


「知らないのか?

 アイツ、咲良(さくら)にも知らせないで……」

「まってまって、すこし整理していいかな?」

「ああ、構わないぞ」


 嫌な予感がした。

 そういえば、ここに飛ばされる前に『創造神』は……


「エリスって物じゃなくて人の事だよね?」

「……そうだが?」




「わたし、そんなひと知らない」





続きます

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