LOGDATA_03:Doomsday
2021年8月31日 完成
2021年9月1日 ストーリー変更(字山関係)
記憶遡行・定着処理セクタ3
す【!】不正な処理が介入しています【!】不正な処
【不明・夕方(17:55) 鷹狗ヶ島・南浦神社本殿】
まず、巫女の殺し方について。
島の一切の罪業を背負う巫女について。
島中の鬱憤を晴らさせる為の存在である事も留意する。
その上で、最も健やかで巫女の苦痛に焦点を当てた殺し方。
そう、餓死である。
『……』
本殿の襖の先に、常時何人かの人の気配がある。
それが日によって増減し、時折笑い声まで聞こえてくる。
「うう……ああぁぁ……!」
なのでお望み通り呻き声を上げて部屋中を暴れる振りをする。
そうすることで外の人間が満足するのかさっと離れていく。
言うなれば見物人、飢えで死にゆく人間を嘲笑いにきた存在。
(巫女の苦痛がイザナミ様への供物になり
苦しめば苦しむほどより良い豊穣が約束されるか……)
全くもって馬鹿馬鹿しい論理である。
島長が娯楽の為に最近作ったのに、いかにもそれらしい。
もしも彼が本土にいれば、それなりの宗教組織でも作れるかもしれない。
そう思うと彼がこんな絶海の孤島にいる事自体に憐れみを覚える。
『巫女様、貴方の苦痛の積み重ね誠に感謝いたします
本日は過去に類を見ない海の幸を頂き、『イザナミ様』も……』
こうやって決まった時間に外の様子を伝えてくれる。
これが他の巫女であれば堪ったものではない、だが彼は違った。
(そうか、順調にいっているみたいだな)
そう、心裡でほくそ笑む。
二つあるうちの一つの企みが上手くいっているらしい。
それは、豊穣を与えるというシステムの悪用。
まず、豊穣とは何なのか……言うまでもなく食料の増産。
そして『イザナミ様』が伊邪那美命であるなら、答えは自ずと決まる。
大地に蓄えた『死のエネルギー』を解放してやることである。
生物の死骸は口減らしの証であり、次なる食料の栄養源となる。
(……厠の下は悍ましかったが
どうやらアレが『豊穣』の源であったようだ)
厠の蓋を開けっ放しにし、覚えたての『魔術』で封印を破壊する。
すると毎日の報告に『これまでに類を見ない』という文言が追加された。
本殿内が非常に臭くなったが、これぐらいなら耐えられなくもない。
一つ疑問があるとすれば
島長の頭でそこまで考えが巡るとは思えない所であった。
だが、南浦神社の人間が首を縦に振るという意味。
それは『イザナミ様』の託宣で確認済みである事に他ならない。
同時にそれは、この儀式が単なる享楽でない事を意味する。
(上手くいけば、30日で『死』が尽きる
そうすれば余剰した『死』が島を蝕み始める)
そして、もう一つの企み。
それは自ら島を呪詛する事ではなく、身体の特性。
即ち、八朝風太の耐性は常人を逸脱している。
あの時、『■■』の父が発見したとき、周囲に家族らしき白骨が見えていた。
冬場での発見だったので、少なくとも1ヶ月以上何も食べずに生き残っていた。
それは、現在でも遺憾なく発揮されている。
もう既に20日経とうとしているのに、一切苦痛に苛まれる事が無い。
それは単に感覚が鈍っているだけなのだが、それでも異常である。
残り40日、そこまで生き延びれば島中の人間を死と疫病で浸す事ができる。
「……ッ!」
駄目押しとばかりに指を噛んで血を墨に垂らし、本を書いていく。
あらん限りの典礼、夥しい呪詛の跡、もう彼に人としての性質は無い。
只の、呪いを吐き散らすモノに成り果てつつあった。
「ふふ……」
すっかり髪も髭も伸ばし尽くし、垢まみれとなった自分を見る。
はやく、皆がこんなふうになればいいのに……
◆◆◆◆◆◆
異変が起きたのは59日目。
いつもの『祝詞』が無く、だが襖の向こうに人影が見える。
(今、自分が生きているだと気付かれる訳にはいかない)
八朝は己を覆い隠すかの如く卑劣さで。
対して人影は意を決して襖を開き、二人は真実に対面する。
「や……八朝……さん!?」
字山が見たのは、友人が生きていたという希望と
夥しい呪詛の跡が、この島の汚染の震源地だという直観めいた絶望。
最早、力なく膝を折るしかない。
「字山……そうか、そうだった……」
八朝は、漸く自分が何をしていたのか思い知った。
対して字山は、絶望していても左海を抱いている。
無論、彼女の息は既に絶えており……
「あの、八朝さん……彼女を……」
「……」
「島長さんが突然死して以来
島中で変な疫病が流行ってみんなみんな……」
島長への呪殺が成功していたのはもうどうでもいい。
取り返しのつかない事態に、八朝まで息を呑む。
「返して下さい……僕の大切な人たちを返してください!」
字山の血を吐くような慟哭が響き渡る。
そして八朝に手を伸ばし、ここから連れ出そうとする。
「八朝さん、まさか『巫女』の怨念がここまで!
大丈夫です、ここら辺の土地については詳しいんです、だから……」
「すまんが、これは俺がやった事だ」
字山は信じられないような表情を向ける。
予感が、この血文字の呪詛の蔓延が彼の仕業なのだと……
「どうして……! どうして……!!」
「……俺は『お前ら』を許さない
『■■』を追い回し、2度も俺の家族を奪った」
「僕は関係ないじゃないか!!!」
その一言が、八朝の最後の正気を断ち切った。
ああ、本当に鷹狗ヶ島は悍ましい人間しかいないとでもいうのか。
「関係はある」
「どこに!? 僕は最後まで八朝さんを……!」
「『山崩れ』は知ってるか?
犬飼神社の奥の家で数年前に起きたあの事故」
「それが、何だって言うんですか?」
「その家の生き残りが俺だ」
それを聞いた瞬間に、彼から最後の力が抜け落ちた。
左海の遺体を零し、両手から涙まで零し始める。
「あぁ……あ……」
「お前が誇らしげに言ってた『山崩れ』の真実だ」
「そんな……そんな……」
今考えてみれば、彼がこの程度で引き下がるとは思えない。
……恐らく、この時点で何か知っていたのかもしれない。
それでも、次の言葉だけは予想できなかった。
「ごめん……今までずっと傷つけて……ッ!
僕だって、あんな『巫女』の風習なんて消えてしまえって!」
そうして左海を再び抱え
八朝から背を向けて去ろうとする。
「待て……!
今の俺は彼女を生き返らせることが……ッ!」
「それで僕たちを永遠に苦しめる気だったのでしょ?」
余りにも鋭い指摘に八朝は何も言えなくなる。
万能感は、転じて自らの人としての慈しみを徹底的に腐食させていく。
即ち、目の前の相手も呪詛の対象なのだと。
「そうだ、死なせてはならない
死んでは苦痛もそれまでだ、だからお前らも……!」
「……ッ!」
字山達に呪詛を掛けようと
本殿を降りたその時、神罰が下った。
八朝が呪詛の力を信じるのなら
神罰もまた是と言わなけらばならない。
永遠に苦しめる『呪い』は
島を抉る巨大かつ横合いの雷の一閃にて破られた。
◆◆◆◆◆◆
「ここは……?」
先程まで陰湿で静かな夜だったのが、
禍々しい赤黒の瘴気の立ち込める不気味な夜に変貌した。
「……ッ!?」
振り返ろうとして、ほぼ何も思い出せない。
ただ一つ、この風景の何もかもが『憎い』、それだけしか……
『驚嘆に値する』
ふと、しわがれた声の気配がして振り向く。
まるで……いや、枯れ木そのものに紅白の巫女服を纏う異形の存在。
ずりずりと、土を抉りながらこちらにやって来る。
『わしの居ぬうちに門を壊し
禍福を与えて騙し、わしの同胞を呪詛し尽くした』
「……」
『その腕、異邦の者であれば重用した
じゃが貴様はわしの同胞、罰を与えねばならぬ』
枯れ木の枝が八朝の頭に触れる。
その瞬間に瘴気が晴れ、元の平和な鷹狗ヶ島へと戻った。
「そんな……」
『まだこれだけではない
足元のそれを拾うがいい』
いつの間にか、足元に禍々しい短剣が落ちていた。
それを手に取るが、錆付いている以外で特に代り映えがない。
『それで全住民を殺すがいい
無論、南浦だけでなく咲見灯台まで余さず、だ』
「それだけで……いいのか?」
枯れ木は、にやりとその貌を歪ませる。
出来るものならやってみろと、そう言いたげな表情が好かない。
「……ッ!」
まるで逃げるように、一人目の獲物を探す。
すると、偶然背を向けて歩いているターゲットを見つける。
そのまま勢いよく刺し殺そうとして
それに気づいたターゲットが振り向いた顔に、衝撃を受ける。
「わっ……八朝くん?」
「な……!?」
思わず短剣を覆い隠す。
島から逃がしたはずの『■■』が何故かそこにいた。
いや、『■■』とは……?
「どうしたの、顔色悪いけど」
「いや、少し疲れててな」
「そう、だったら今日の夜楽しみにしててね!
お母さんが作ってくれた着物、見せてあげるから!」
そのまま『■■』と別れる。
そして、いつの間にか先程の枯れ木が後ろにいた。
『どうして殺さぬ?』
「だって、彼女は……」
『『■■』も住人であろう、まさか殺せぬとでもいうのか?』
『じゃが、わしもそこまで鬼ではない
彼女はお前の助手だ、名を『柚月』という』
「柚月……?」
だが、気がついた時には『■■』を柚月だと受け入れていた。
鮮やかに記憶が変わり、八朝もそれに気づかない。
「一体どういうつもりだ」
『夜を待つがいい、全てが分かる』
そうして、枯れ木は消え失せた。
そして言われるがまま、日が暮れると風景が一変した。
「これは……さっきの瘴気……!?」
一転して島が死に絶え、住民たちが呻き声を上げ続ける。
意味が分からずに島中を彷徨い、犬飼神社の所で悲鳴を聞く。
「柚月か!?」
急いで駆けつけると、あの時のように覆いかぶさられた柚月。
腐乱した人体が柚月を殺そうと首を絞める。
それに、躊躇なく短剣を振り下ろす。
腐乱した人体は短い呻き声と共に、大地に力なく転がる。
そして現れた柚月の顔には、恐ろしいまでの不信感。
「……ッ!?」
八朝が体験したことのない酷い頭痛に苦しむ。
その最中、脳がバグを引き起こしたのか有り得ぬ柚月の声を聞く。
『お父さん、どうして』
『なんで殺したの、許せない』
『八朝くん、信じてたのに……』
八朝はその不快感に耐えきれず、柚月から離れる。
初めての恐怖に苦しむ八朝を尻目に柚月が埃を払う。
そして、そんな彼に手を差し伸べられる。
「帰ろ、本殿に」
何がなんだか分からずに柚月に連れられ本殿へ。
そうして『最初の一日』が漸く終了したのであった。
続きます




