LOGDATA_02:Before_About_64days
2021年8月30日 完成(69分遅刻)&修正(時刻など)
2021年9月1日 修正(字山関係)
記憶遡行・定着処理セクタ2
異常記憶『■■』を検知、置換処理を開始します
【不明・夕方(17:55) 鷹狗ヶ島・南浦分校~北の隠し桟橋】
「おはよう」
「っ……おはよう」
八朝と『■■』の挨拶がぎこちなく終了する。
繧エ繝滄?驛に襲われそうになったあの日以来、ずっとこんな調子であった。
しかも、八朝だけでなく男性全般に対してであった。
無理もない、あれだけ恐ろしい目に遭ってノーダメージで済まされる筈が無い。
「いただきます」
いつもは会話で溢れていた日常の食事も、今は黙り込む。
『■■』の母ですら、『■■』を持て余すかのようであった。
「いってきます」
無論、それは八朝も、学校の友人ですらも解決できない。
最初は同情的だったクラスメイト達も
何も話さず塞ぎこむ彼女にどう話しかければいいのか分からない。
あの事件以来、学校を裏から牛耳っていた繧エ繝滄?驛はいなくなり
これまで以上にのびのびと出来るはずだった学校に暗雲が立ち込め始める。
そして、八朝への態度は更に悪化していく。
「ああ、それなら俺も運びに……」
「ひっ!」
クラスメイト達は八朝の視線を感じるだけで逃げ惑い
言葉を聞くだけで恐ろしい形相で固まるのだからまるで話が通じてくれない。
「……」
遠巻きに八朝に嫌な視線を投げかける奴もいた。
詳細は聞き取れなかったが、大意は『あの事件の真犯人』についてである。
即ち『■■』を襲い、不都合になったので繧エ繝滄?驛に罪を擦り付け
挙句重傷を負わせ、『■■』の心に深い傷跡を与えた人物。
石投げただけで両腕吹っ飛ばすか、鬼じゃね?
『サンカ』だよ『サンカ』……気持ち悪いな
今年の『生贄』はコイツで決まりだろ
いや、コイツは男だから巫女にはできないよ
だったらさ、コイツを匿っている………………
(……馬鹿馬鹿しい)
自分の証言に何一つ偽りはない、どころか島長すら認めているのだ。
だが、その証言者が『腕を切り裂く投擲』で島長を脅して認めさせたとすれば。
「……?」
ふと、足裏に違和感を感じた。
上履きの底から鋭い金属の欠片……画鋲が刺さっている。
すっかり血で濡れた上履きを片手に、八朝の目が険しくなる。
「あ……」
字山と目が合ったが、すぐに逸らされた。
まるでいつかの友情が、嘘みたいに向こう側へと……
(俺に関われば、また……)
字山の立場が弱い事は知っている。
また、いじめ被害を受ける可能性を否定できない以上、関われない。
その筈なのに、酷く残念に思う自分がいた。
(……ッ!)
持っている荷物を捨ててしまおう、なんて『悪い考え』が一瞬過る。
それをしてしまえば字山と完全に決別してしまう。
他と違い、無言でも心配してくれている彼を裏切るなぞ、最早人間ではない。
それこそ、あの『サンカ』のように……
「ん?」
その向こう、女子トイレ前で『■■』を含めた数人が入っていくのを見る。
友達というには少し、いや不穏な気配が漂っている。
(追ってみようか……ッ!?)
突然バケツの水がひっくり返る音に八朝が驚く。
急いで入ると、女子数人が個室にいる『■■』に水を掛けている場面が映る。
一目でそれが繧エ繝滄?驛と同じ『行為』なのだと悟る。
「おい」
それだけで数人の女子が腰を抜かしてへたり込む。
一人元気のいい奴が濡れた地面に足を滑らせて転ぶ。
何があったか事情を聞こうとして……
「八朝くんもうやめて!!」
突然、『■■』がそう叫んでしくしくと泣き始める。
そして騒ぎを聞きつけた教師に取り押さえられ、しこたま殴られることになった。
◆◆◆◆◆◆
「本当に申し訳ありませんでした」
「……申し訳ないと思うなら、もうちょっとコイツを躾てやるんだな
最近のコイツは素行が悪く、無駄に萎縮させてる、小学生がいるってのに……」
教師が『■■』の父母を呼びつけて、くどくどと長話。
解放されたときには、すっかり日が暮れて五月蠅いほどに星の瞬く夜になっていた。
ここまでの沈黙を破るように『■■』の父が話す。
「『■■』が大切だって気持ちは分かる、僕たちだってそうしてきた
だけど八朝、お前はそれをやり過ぎてこんなことになったんだ」
「やり過ぎ……?」
彼の言葉をイマイチ理解できず、途端に『■■』の父の顔が曇る。
普通ならここで見捨てても不思議ではなかった、それも覚悟していたが……
「大丈夫だ、器用な八朝ならいずれ分かる
それと、今更だがあの時『■■』を助けてくれて本当にありがとう」
『■■』からの握手はとても暖かく、まるで他の人達とは違って見える。
その言葉の一つ一つが自分の為の言葉なのだと、すぐに理解できた。
彼等だけが『生きている人間』なのだと錯覚するほどに……
「分かった、出来るところから覚えていく」
「そうだ、お前は賢いな」
そして家の前、ポストの中に一通の手紙が入っていた。
『緊急』の朱書きに、父母がその場で封を切り中身を確認する。
そして、崩れ落ちて涙を流し始める。
「お、おいどうしたんだ?
一体何が書かれ……て……」
その手紙は、南浦集落の中心……
つまり南浦神社から届いたものである。
この神社は代々『巫女』を山に捧げ
その年の豊穣を祈る役割があった。
普通の習わしで『巫女』は島からの嫌われ者が選ばれる。
例えば穀潰し、例えば老人……凡そ若者が選ばれる事は少ない。
この年は、例外であった。
「『■■』が、今年の巫女だと……!?」
八朝は急いでドアを開け、『■■』の元へと走る。
部屋の中の『■■』が、一転して笑顔で出迎えてくれた。
「おかえり、八朝くん!
それでね……久々なんだけど良い事があって……」
「ふざけるな!」
八朝は衝動のまま『■■』を抱きしめる。
唐突故の震えから、今度は溢れる感情が震源へとすり替わる。
「やったよ、八朝くん
今年の『巫女』は八朝くんじゃなくなるって」
「いっぱい頑張ったもん
皆から『反対』の事をして嫌われるようにしてさ」
「でも意外に簡単だったよ
皆私の事を可愛がるのと同じぐらいに憎んでたし」
「それに、アレだって今日に限った話じゃなくて……」
それからは『■■』の声は泣きじゃくりへと崩れ去った。
八朝も釣られるように、生まれて初めての涙を体感する。
こんな所で心が通じ合うだなんて、悪夢もいい所である。
(……祭りまで残り31日
『巫女』は1ヶ月間社殿に閉じ込められる)
この瞬間が『■■』との最後の時。
だが、彼女たちをこの島に留めておくことはもうできない。
いずれにせよ手放さなければならない。
「逃げよう」
「え?」
「お父さん達を集めてくれ
俺の唯一の記憶で、『■■』達をこの島から逃がす!」
◆◆◆◆◆◆
『■■』達に貴重品だけを持たせ、あの崩れた家の地下へと走る。
そこには何処に通じているのか分からない洞穴が続いていた。
「これは……?」
「俺の父さんがよく使ってた釣りの道
山の向こう側に隠し桟橋があって、よく連れて行ってくれた」
八朝は唯一の記憶を噛み締めるように口にする。
取るに足らない日常の1ページが、彼等の助けになっているのが嬉しい。
「ほ、ほんとにあるの?」
「心配するな、これだけはちゃんと覚えている」
震える『■■』の手を握り、危険が無いか辺りを見回す。
石、道、壁……偶にドアみたいなものが見えるが、今は関係ない。
一分一秒を爭っている。
「もうすぐだ、この先に……ほら!」
洞窟の終わり、薄暗い夜闇の中に静かな潮騒が響いている。
桟橋と、係留されたボートの姿があった。
「……これなら本土まで燃料が持つ!」
「ほ、ほんと!?」
八朝と『■■』がほっと胸を撫で下ろす。
父、母、『■■』が乗り、後は自分だけとなったその時……
ふと、突然『■■』の表情が分からなくなった。
「ど、どうしたんだ……早く!」
父が善意で急かしてくる。
だが、肝心の『■■』の表情が晴れない。
『お前はそれをやり過ぎてしまったんだ』
漸く、この言葉の意味が分かってしまった。
「……すみません、俺は乗りません」
「えっ!? なんで!?」
「このボート、俺が乗ったら燃料が足りなくなる……そうでしょう?」
それを聞いた『■■』の父が苦渋の顔で俯く。
真実なのだと、八朝を助けられないと知った『■■』が叫ぶ。
「どうして、ねえどうしてなの!?
こんな所でお別れだなんて私……」
「……お別れではない
『僕』にはちょっとやるべきことがあったことを忘れてた」
「やるべき……事?」
そうして八朝がボートから離れる。
同時にエンジンが点火して、出発準備が完全に整った。
……彼等の未来に、『僕』がいてはならない。
「後で俺も追いつく、約束する!」
「……!」
約束だよ、という声がエンジン音に掻き消される。
ボートの姿が遠くに掻き消えていくのをじっと見守る。
「はは……はははは……」
二度目の涙は、まるで胸を刺すように冷たかった。
約束は守られない、果たされたなら『■■』達はきっと不幸になる。
自分が『サンカ』かどうかは兎も角
それにほぼ近い存在なのだとは疑いようが無い。
『■■』の涙を見るたびに、犯人を血祭りになるまで暴れ
『■■』の心に更に癒えない傷を与えていく。
無情にも心を咀嚼する様は、罪人と言っても差し支えは無い。
「……」
涙を流し、己の浅ましさを呪う。
今更ながら遠くで山狩りの声が聞こえ始める。
まるで、自分がひた隠しにしていたそれと大差のない、獣のような……
(早く隠れないと……)
八朝は洞穴に隠れ、元来た道を戻る。
家へとほど近い場所で、赤々と……まるで火のような灯りが見える。
「は……?」
何の断りもなく自分の家が焼かれた。
そうとしか言いようのない絶望的な状況に思わず呻く。
涙は、すっかりと枯れ果ててしまった。
(……そういえば、ドアがあったっけ)
八朝は洞穴の途中に隠し部屋がある事に気付く。
そしてそこまで引き返し、扉を開くとそこには電灯と書斎のスペースだった。
「これは……」
八朝がこの部屋の本やファイルに全て目を通す。
そこに書かれていたのはこの島の『イザナミ教』に関する事件であった。
『イザナミ教』とはこの鷹狗ヶ島の土着信仰の一つで
伊邪那美命が住む『根国』がこの島だとして、代々この神を信仰する。
人の血肉こそが五穀の源。
その狂ったドグマが、本土で数多くの凶悪事件を引き起こしている。
無論、この生贄の夏祭りに関する記述もある。
要約するなら、口減らしを体のいい典礼で着飾った只の鬱憤晴らし。
島で邪魔な人間を合法的に殺す今代の島長の享楽でしかないと。
「……」
どうやら自分の両親は警察関係の仕事をしていたらしい。
『イザナミ教』の事件に意欲的に取り組み、この島への移住も決断した。
その後は言うまでもない。
活動がバレて『サンカ』として山に閉じ込められ
しきりに心配した家裏の『脆弱岩盤』が彼等の命運を決めた。
「はは……」
『サンカ』ですら無かった。
そうやって島の享楽の為に使い潰されただけの、可哀想な人達。
そして、この瞬間に八朝の心も決まった。
(そうだ、俺にはやるべき事がある
『■■』に不幸を押し付け、俺から2度も家族を奪ったアイツ等を……)
殺す、今度こそ両腕だけでは済ましてやらぬ。
野犬に食いちぎられる様に、土砂に押し潰されるように、醜く……
この島の全てを破壊し尽くす。
その為には、この『イザナミ教』の典礼を悪用しよう
幸いにも、呪術的な資料も数多くあったのでそれらも利用する。
即ち、自らが巫女となってこの島を呪い潰す。
「許さない……絶対に許さない
死すらも寄越してなるものか、永遠に苦しめてやる……!」
ふらふらと、記憶だけを刻みつけて前へ。
洞穴の外はすっかり朝日が差し込む開放的な空間となっていた。
彼の記憶は、灰となって燃え尽きた。
「お、いたぞ!」
八朝はむせ返る緑の中で、地面に押し付けられる。
義憤もとい鬱憤に燃える青年達から石で殴られながら大人しくさせられる。
「やってくれたなこの薄汚い『サンカ』が!」
「お望み通り今年はお前が『巫女』だ、感謝しろよこのクズが!」
全ては計画通り。
後は、この島をどうやって調理してやるか。
そんな乾ききった笑いは、次なる石の殴打で無理矢理黙らされた。
続きます
そして次回は……




