LOGDATA_01:Before_About_106days
2021年8月29日 完成
2021年9月1日 修正(字山関係)
記憶遡行・定着処理セクタ1
『衝動』の記憶の確認を開始いたします
【不明・夕方(17:55) 鷹狗ヶ島・南浦分校~犬飼神社】
ここは本土より500km沖合に存在する絶海の孤島・鷹狗ヶ島。
歴史にも残る『海神吠え』によって誕生した新たなる流刑地。
国家に仇為した浮浪者を流し、水火の地獄で責め苦を与える。
近代思想によりこの悪習は消え失せたが、独特な信仰は残された。
それぐらいがこの島の歴史で
後は退廃的な田舎の風景が歴史の積み重ねを朽ち果てさせた。
そんな典型的な、かつ閉鎖的な社会の中で……
「……」
「……おい、誰か話しかけろよ」
「やだよ、てかこっちに振るなよ」
「サンカ……じゃないよな?」
学童から青年までごたまぜとなる南浦分校で珍しく転校生がやってきた。
だが、島の外からの移住なんて『■■』以外に聞いたことは無い。
だから、机の上で異様な気配を漂わせるこの青年は一体何者なのか。
いや、その前に彼は本当に人間なのか。
誰一人として話しかけようとしない。
(……これに何の意味が)
張りつめる空気の中で青年は思索に耽っていた。
正確には『仕事をサボってここに来る事の意味』についてであるが。
この青年の名を『八朝風太』。
少し前までは山奥で住んでいたが諸事情で『ある人』の家に居候している。
ただ惰眠を貪るわけにはいかず、薪割りや草抜き等を率先して手伝い
それでは余りに不憫だと『ある人』の提案でこの度八朝も学校通いを始めた。
ただ、何か段取りを致命的に間違えていた。
「……ここにいたのか!」
「……ああ」
「はぁ……知っての通りだけど彼が転校生だ、自己紹介しろ」
「八朝風太です、よろしく」
残念ながらこの程度ではクラスメイトの不信感を拭い去る事はできなかった。
まるで腫物を扱うように、彼の周囲が少しずつ開いていった。
それが永遠に続くのかと思いきや、稲妻のような襲来が全てを変えた。
「ごめーん! 遅れました!」
「おい『■■』! 何度言わせれば遅刻が直るってんだ!」
少女が教室の扉を謝罪と共に勢いよく開いて現れる。
幸いにも教師の逆鱗が『折檻』になる事は無かったが
唾が飛び散る威圧に少女が嫌そうな顔をした。
この少女が件の外からの転校生である『■■』である。
溌溂そうな顔に、可愛らしく大きな目、まるで小動物の如くよく動く。
彼女がいるだけでクラスの空気が自然と和らいでいく。
八朝とは反対に僅か1時間で人気者となった少女であった。
「そんなー!
だって今日は八朝さんに起こしてもらう予定だったのに!」
故に、この爆弾発言に教室中が騒然となる。
急に増えた視線に気付いてないのか、八朝は未だに空を見る。
「あっ、八朝くんはうちの居候
いつもこんな感じだけど、力は凄いから仲良くして欲しいな」
その一言で八朝もクラスの輪の中に挨拶と共に迎え入れられた。
◆◆◆◆◆◆
それから、八朝は学校の雑用を任されるようになった。
何一つ表情も変えずに、大人数人でも不可能な重い荷物を運び出す。
クラスメイト達も徐々に彼の扱い方を心得るようになり
八朝の思惑を無視して段々と親しくなっていった。
「八朝さん、手伝いましょうか?」
「……少し、頼む」
そう言ってクラスメイトの字山に荷物の一部を託す。
だが、虚弱体質の彼は重さに耐えきれず姿勢を崩す。
「大丈夫か?」
「大丈……夫……! ほら!」
姿勢を持ち直し、八朝に笑顔を向ける。
彼とは繧エ繝滄?驛からのいじめを契機によく話すようになり
年齢の近い同性ということもあってくだらない話をよくする。
八朝は話すのは苦手だが、聞くのは得意であった。
「でさ、今年の『巫女』……誰になるんだろうね」
「……」
『巫女』とは数か月後の夏祭りの主役である。
島の中から一人選ばれ、二度と俗世に戻れない代わりに豊穣を齎す。
字山はそれを主幹する南浦神社神主の息子であった。
「僕、ああいうの陰湿であまり好きじゃないかな」
「……神主の息子なのに?」
「うん、だって『あの子』が巻き込まれない保障も無いし」
あの子とは字山の幼馴染の左海であった。
クラスでも特に目立つ方ではないが、可憐な容姿が嫉妬を招くこともある。
それが、繧エ繝滄?驛のいじめにも繋がったのは今は昔。
「あーあ、数年前みたいに『山崩れ』が起きれば
こんな風に『誰か』を選ぶこともないのになぁ……」
その言葉に八朝は心をざわつかせる。
こんなところで言っても意味はない、覚えていないのだから。
だが、彼のその部分だけはどうしても受け入れられない。
何故なら……
「八朝くん、何か考え事なの?」
「!?」
八朝が夢から覚めて教師に当てられるように驚く。
目の前にいるのは缶ジュースを持った『■■』、どうやら時間が飛んだらしい。
「ちょっと、字山くんにも言われたのに忘れたの?」
「ああ、そうだったな」
うっすらと覚えていく午後の風景。
字山に何か言われ、授業後に待ち合わせの体育館前まで行った。
漸く落ち着いた心と共に地べたに座り、正直な気持ちを吐く。
「……薪割りしてこなかったけど大丈夫だったのか」
「もー今の八朝くんは『生徒』なんだから
そんなこと気にせずにさ、ほら! この本見てみてよ!」
『■■』が渡してきたのは雑誌、表題に『恋愛・ファッション』の文字が踊っている。
これは島唯一の書店である清水屋で入手できる女性誌というものであった。
その独特なルールとして、子供は雑誌を買ってはいけないというものがある。
「……盗んできたのか?」
「盗んでないよ! 藪の中に捨てられたのだから!
それに思い出してみてよ、後ろのゆなちゃんの教科書の裏とか……」
まあ、ルールは往々にして破られるものだとは理解している。
これ以上追求しても意味無いので、彼女が示しているページを捲る。
そこには煌びやかな白黒写真と『浴衣デートの極意』という記事があった。
「ねえねえ、この浴衣めっちゃ可愛いと思うんだけど……」
「この島では手に入らないと思うんだが?」
「ううん、うちのお母さんが服作る仕事だったから」
「……そういうことか」
そうして八朝が雑誌を自分の鞄に仕舞い込む。
こうした方が、大人が罰と称して暴力を振るっても被害を抑えられる。
八朝は、膂力と引き換えに感覚が鈍くなってしまっていたからだ。
「助かったぁ!
このお礼は絶対にしてあげるから!」
「……まあ、気長に待つとするよ」
『■■』が手を振って勢いよく校舎から出ていく。
自分もこの事が漏洩するのは拙いと思い、帰る準備をする。
戸口の掃除用具入れに鞄をぶつける程焦りながら
教室を施錠しようとして、ふと虫の報せのようなものを感じる。
「……疲れているのか」
そう納得して八朝も帰路に就いた。
だが、その後ろで蠢く影に気付かぬまま……
◆◆◆◆◆◆
今日は祈年祭の準備で大通りが忙しい。
更に今年は『花火』もやるつもりらしく
普段交流の無い『咲見地区』の人間まで祭りに赴いていた。
そして八朝はその準備で忙しい。
唯一貰った昼休憩で、家の近くの花屋で『■■』の好きそうな花を一輪。
家に戻って日頃の感謝を伝えようとして……
ふと参道の鳥居を目にしてしまう。
(……久々に、行ってみるか)
そうして八朝が参道の階段を登り
……その先の本殿ではなく、脇の獣道を進み広間へと辿り着く。
そこには土砂崩れで半分飲み込まれた家があった。
(……ここが俺の家だったもの
思い出せない筈なのに、何故か胸が締め付けられる)
『ある人』もとい『■■』の父曰く、八朝はこの家で発見された。
白骨と化した家族と共に、か細い息をしながら蛆に集られていたという。
彼の好意により、自分は『■■家』の一員として迎え入れられた。
それは喜ばしい事なのだが、どうしてかその実感が余りにも薄い。
それを『■■』の父に相談すると、彼は苦笑しながら……
『そうだね、いきなりでなくてもいいから
急がなくてもいいから、それが家族って奴だよ』
握り締めた拳の中に、数年分の温かみがあるような気がした。
いつか思い出せるその時まで、彼等も八朝を待ってくれるのだろうか。
それはそれで、少しだけ嬉しいような気がした。
「俺は『■■』のお陰で生きています
今は思い出せないけど、いつか貴方たちも……」
だが、心が余り晴れない。
彼は『ある事実』に目を背けていた。
この家が崩れた理由、そしてまことしやかに流れる『山崩れ』。
ややズレるが、八朝が見つかったのも『山崩れ』が起きた数年前。
この災害のお陰で『巫女』を送らなくて済んだ、それはつまり……
(……ッ!? しまった!)
唐突に八朝は昼休憩の時間を思い出し
急いで本会場へと走っていく……その間に誰かいたような気がした。
(……疲れているかもしれん)
今日はペース配分を重視することにする。
何しろ夕刻は『■■』との約束がある、ここで疲れては意味がない。
そして提灯に火が灯り始める晩。
段々と屋台が客で賑わっていき、祭りらしさが加速していく。
やがて、祭囃子が聞こえ始め、本格化する。
だが、八朝は『■■』と出会えずにいた。
(変だな……今頃はこっちに着いている筈……)
その日は八朝は祭りの準備で終日『■■』と別行動で
この大通りの入口て『■■』と待ち合わせる予定であった。
この日の彼女は妙にそわそわとしていたのが記憶に残る。
嫌な感じではなかったが、微妙にむず痒い、しかも父母まで煽って来る。
この日は逃げるように祭りの準備を手伝った。
「あ、八朝くん!
祭りの準備、お疲れ様です」
「お疲れ様」
八朝に話しかけて来たのは字山という同級生。
少し前に彼に纏わりついていた『いじめっこ』を蹴散らしてこのようになった。
別に友人という訳ではないが、挨拶はするようになった間柄。
「いつもいる『■■』ちゃんは?」
「それが、待っても全然やってこなくて」
「変だな……『■■』ちゃんのお父さんはさっき祭りで見かけたんだけど」
「……詳しく聞かせてくれ!」
割と強引に、詰め寄るように彼に事情を話させた。
どうやら両親と共に祭りを回っていた所
トイレで別れてから『■■』の姿が無くなったのだという。
聞いたところ、八朝くんの所に行ったんじゃない
という感じで気楽そうに答えてくれたのだという。
「……ありがとう」
「待っ……」
制止を聞かずに八朝が走り始める。
その脳内に去来するのは『あの日』以降の不可解な事件。
きちんと施錠した筈なのに開いていたとして教師に折檻され
そして急に『■■』と仲良くなった『彼』の存在がチラつく。
「……無事でいてくれ!」
八朝は一心不乱かつ根拠なく自分の家へと走った。
◆◆◆◆◆◆
「や、やめて! 離して!」
「暴れんなよ! オラッ!」
『■■』はこれでもう十数発目の暴力を受ける。
初めは連れ込まれる抵抗で、今は襲われるのに抗う罰で。
青年は下卑た笑みを浮かべて『■■』を眺める。
まるで自分の為に設えたかのような、清楚で華やかな柄。
そこからチラつく肌色、そして欲望が更に呼吸を乱していく。
「おい、俺に逆らってみろ
お前を『イザナミ様』の生贄にしてやれるんだからな!」
この青年の名を繧エ繝滄?驛という。
繧エ繝滄?驛は代々この島の長を務める名家であり
彼はその次期後継者として確定していた。
……というよりも、この繧エ繝滄?驛は今代から成金趣味が悪化し
それが彼にも伝染し、分校でも『暴れん坊』なる渾名で恐れられている。
無論、彼の権力があれば先程の言葉も真実となる。
「どうして、どうしてこんなの事を!」
「うっせぇ! 女は黙って俺の言う事を聞きやがれ!」
浴衣を引き剥がそうと伸びた手を強引に掴み揉み合いとなる。
そこに八朝の叫び声が浴びせかけられた。
「おい繧エ繝滄?驛! こんな所で何してやがる!」
「八朝くん……!」
『■■』の目には大粒の涙が零れていた。
だが、すぐさま首を締められ苦悶の表情となる。
「何してやがる!?」
「おい、八朝……彼女を助けたくば俺を見逃せ」
「ふざけんな!
今度という今度は大人を呼んで……」
繧エ繝滄?驛は首を締める手を緩めて高笑いする。
それでも『■■』が暴れないよう押さえつけて、一分の隙も無い。
「何がおかしい?」
「大人? 大人だって!?
呼んでみろよ、この『サンカ』の家にな!!」
その瞬間に『■■』が止めてと叫んで暴れ出す。
その彼女の顔に一発入れて、今度こそ根性をへし折った。
「『サンカ』……?」
「そうだよ、お前が初日で疑われたアレだ
大昔に罪を犯して山にしか住めなくなった汚らわしい末裔だよ!」
「それと俺に何の関係が?」
「『サンカ』は獣道で家を繋ぐ
ほら、この家お前の家だろ?」
そして繧エ繝滄?驛が再び高笑いをする。
要は大人が『八朝の本当の家』を知れば扱いが豹変する。
それが嫌なら『■■』への暴行を見逃せというものであった。
勝利宣言も済ませ、引き続き行為に及ぼうとする繧エ繝滄?驛。
(……)
ふと、八朝は違和感の正体に思い至る。
そう、『サンカ』の扱いについてである。
誰しもが汚らわしいと言った口で、仲良しだの絆だの口にする。
この島は全員が親切だから、それ以外の事については土を掛けても覆い隠す。
……まるで、あの家のように。
「ははは、本土の人間も馬鹿ばっかだな!
何も知らずに爆弾を抱えていたんだってな!!」
浴衣の裾に手を掛ける、もう彼を許すことは出来なくなった。
彼を傷つければ島長にも話が行き、『■■』達にも迷惑が掛かる。
でも、ここで止めなければ『■■』がもっと悲しむ。
「では御開帳~」
そんな彼の腕に、超高速の物体が擦過した。
物体は後方の木を貫通し、さらに奥の木の表面で爆ぜ砕けた。
八朝の腕を壊す投擲が、繧エ繝滄?驛の両腕を吹き飛ばした。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
繧エ繝滄?驛がもんどりを打って転げまわる。
大量の血を浴びた『■■』が放心状態になる。
「大丈夫か?」
そんな八朝の声も、どうやら聞こえていない。
彼についても迅速に大人を呼び、診療所の処置で一命を取り留めた。
そして、この日を境に全てが狂い始めた……
今までの記憶遡行おさらい・その1であります
これから5話に渡って鷹狗ヶ島編となります
結構長くなるのでお覚悟を、ちゃんとした休みを用意してください
さて、最初から地獄ですが、ええ本当に最初でしかないんです
これから更に話が重くなっていきます、嘘みたいですがそうなんです
では引き続きよろしくお願いいたします




