Case 90-0-3:Root D END3
2021年8月28日 完成(10分遅刻)
Case89-6-3の続きとなります
平和が取り戻された篠鶴市。
授業と課外活動を終えて太陽喫茶に帰って来る……
【4月13日(月)・夕方(17:55) 太陽喫茶・住居用入口】
「ただいま」
「おう、おかえりさん」
いつも通りマスターとの挨拶を終えて自室のある二階に向かう。
ふと、階段の隙間からある部屋の表札が見える。
天ヶ井飯綱。
柚月の兄を自称する氷獄の妖魔。
何よりも柚月の身を案じ、そして散った俺の兄貴分。
だが、最後に関しては実感が薄かった……
(……もっと、話がしたかった
だから、本当は生きて欲しかった)
しかし、それは叶わぬ夢。
たとえ『創造神』に巻き戻しをされようと、この『彼』が帰ることは無い。
自分の『七含人』としての性質は、生きている人間の記憶の継承。
即ち、もし次があっても飯綱はこの事を思い出せない。
それはまるで自分の我儘が形になったかのような都合の良い力。
(……俺は、ちゃんとそう扱えるのか
彼の知らない彼のことを口にして、その時の今の彼を……)
因果は繰り返すのだろうか。
『転生者』の記憶が頑なに否定されるように、彼にも……
『ふうちゃん、どうしたの?』
「ああ、いや大したことは無い
単に飯綱さんには生きて欲しかったな、と」
エリスが意外そうな沈黙で返す。
また馬鹿にされるのかと心裡で身構えるも、返ってきたのは微笑み。
『うん、私もそう思う
だからふうちゃんも死に急がないでね』
「……そうだな」
こんなところで残された者の苦痛を思い知ってしまう。
失ってからでないと何も学べない自分の頭が本当に馬鹿らしい。
だが……
「これからは、本当に頑張るしかないな」
『ふうちゃん……今日は意外に素直なんだ……雨降りそう』
「おい」
『冗談だって、ごめんごめん』
そして、在りもしない未練を消し去って階段を上がる。
自分の部屋のドアノブに触れた時、ふと何かが聞こえた。
「……まさかな」
『えっ、何が?』
「いや、俺の部屋に先客がいるわけがないだろ」
『うん、本当にいきなりだね』
双方信じられぬままに部屋へと入る。
布団は既に敷かれ、掛け布団の上に誰かが丸まって寝息を立てている。
「……見なかった事にしていいか」
『ふうちゃん、それやめようってさっき言ったよね』
「それとこれとは話が違う」
『じゃあ私はお手伝いがあるから先に行ってるね』
「おい」
八朝の制止を無視してエリスが飛び去る。
ドアノブを妖精魔術で回して、ぼそりと一言。
『変な事したらマスターに言いつけるから』
扉の閉まる音が、ギロチンの如く鋭かった。
そして目の前で横たわる現実に直面する。
「取り敢えず、部屋に返してやろうか」
多分、掃除疲れで眠りこけたのだろう。
自分の部屋が位置的にも最後なのでそうに違いない。
いや、そう信じたい。
「……ふう、ちゃん」
掛け布団で包んで持ち上げようとしたところで目を覚ました。
時が凍り付いた様な気がして、途端にあたたかい感触に包まれる。
柚月の早業で自分も布団に寝かされる。
それに気づくまでにざっと5秒ぐらい必要だった。
「な……!?」
「こうしたほうが、もっとねれると思う」
「いや、俺は……」
「でもあたたかくてきもちいい」
拙いが本質をついてくる。
だが、自分が今何しているのか気付いていない。
唐突だが、柚月はあの事件以来変わった。
少しだけ勇気を出すようになり、どもりながらも話をし始めた。
それが高校でのクラスで好評を博し
クラスのマスコットとして皆から可愛がられている。
そして昔からの親友を自称する向葉と菜端が乱入。
毎日が楽しいと柚月が団らんで語り始めた。
同時に咲良の険もすっかり丸くなり
いつの間にか『前の6月』以前の彼女に変わっていった。
故に今の柚月には社会が存在する。
マスターの鉄拳制裁以上に、彼女の未来を案じて逃れようと暴れる。
「ふうちゃん、むだだと思う
わたしのほうがずっとつよいから」
「俺だって鍛錬を欠かさずに……ッ!」
だが無駄であった。
力も技も、全てにおいて柚月の方が上。
故に八朝の肉体の方が悲鳴を上げ始めた。
「……ッ!」
「ほら、いわんこっちゃない
だいじょうぶ、これだけならだいじょうぶって」
「……まさか話したのか?」
さも当然のように首肯する。
ああ、間違いない……明日からの学園生活は……
恐らくエリスにも夥しい不在着信が届いている。
「ひまちゃんも、あきちゃんもふつうだって
だからこんどはわたしたちとだって、たのしみ……」
「楽しみだったら、取っておいた方が良いだろ?」
「なにいってるの」
八朝の論理が全く通じていない。
確かに自立するようにはなった、ならば自分から離れるようになるのが自然。
まさか、逆の事が起きるだなんて……
「ふうちゃん、がんばった
だからごほうび、ちからぬいて楽になろう、ね」
階段を登る音が聞こえてくる。
さらにこちらに近づいてくる足音まで。
「……」
自分に襲い掛かる『未来』に、考える事をやめた。
あれだけ恐ろしい目に遭ってきたのだから柚月の言い分も一理ある。
そうして八朝はゆっくりと瞼を閉じた。
◆◇◆◇◆◇
Return 0;
Interest RAT
GOODEND?? 選択 - Choice
END
これで俗称『柚月ルート』が終了いたしました
結構見切り発車でやってしまったので
正直こんな終わりになる筈じゃ……という後悔もあります
それを反省する意味で残しておきます
まあ、いつか大規模ストーリー修正が入るかもしれませんが……
因みにこの後どうなったのかは言うまでもない
それも踏まえて、次の『RootE』をお待ちください
一先ず、ここまで読んで頂きありがとうございました!




