Case 90-0-2:Root D END2
2021年8月28日 完成(10分遅刻)
Case 89-6-2の続きとなります
これは私の罪。
あの時『彼』を助けなかった愚かな私への……
【TIMESTAMP_ERROR アルセニコン・里の某所】
あれから私達は篠鶴市を去った。
正確には紫府大星が潜む深山へと……
そこで毎日のように妖魔を狩っては情報を吐き出させる。
山や洞、海に入っては紫府大星を殺す魔術の素材を集める。
あらゆる人に会って、あらゆる悪を殺していった。
どれだけ時間が経ったのか、もう何も思い出せない。
何故なら私は……
「そうだ、朗報を伝え忘れた
……漸く紫府大星の居場所を突き止めた」
「そ、そうなんだ!」
「ああ、だから明日にでもここを発つ
今のうちに別れの挨拶は済ませておけよ」
別れの挨拶、一体誰になんだろうか。
既にふうちゃんは『里』の人間を殺し尽くしたのに……
初めは些細な口論から、やがて逆上したふうちゃんが……
そこからは毬が坂を駆け降りるが如く、敵意と殺戮の嵐。
もう、このアルセニコンに人間は一人も生きていない。
「どうした、顔色が悪いようだが」
「……ッ!」
八朝の心配そうな手を振り払ってしまう。
触られたくない……でも、本当にここまでする必要はあったの?
そんな私の葛藤にふうちゃんが微笑みかける。
「済まない、不躾な事をした」
「ううん、いいの!
それより私は大丈夫だから!」
「そうか、済まない」
自分との会話だけ『一見』普通のように見える。
でも、そこにも決定的な歪みが存在していた。
今は気付かれてはいけない。
自分の葛藤、自分の焦燥、それらがふうちゃんの足枷になっちゃう。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
明日、全てが終わる。
多分私も、最後まで否と言わなかった罰が降り落ちる。
でも言い訳はさせて。
今のふうちゃんはとても幸せそう。
あの時のふうちゃんは、余りにも辛い事に遭って
自分を見失いかけてた……それに比べて今はとても人間らしい。
本当に言っちゃいけない事だけど
あの時ふうちゃんが間違えてしまってありがとう。
私の為に犠牲になった人達。
三刀坂、咲良、雅ちゃん……
(もう少し、もう少しだけ夢を見させて
そしたら全てを返すから、この身体に賭けても……!)
そう、今の自分はあの時に無くした『肉体』を取り戻している。
故に『ありがとう』、でも『自分は許されない』のだ。
(……ッ!)
あれだけ欲しかった身体が、なのにちっとも嬉しくない。
それどころか失った人達を思う度に心が引き裂かれそうになる。
ほんとうは、助けてほしい。
でもこれは私への罰、逃げてはいけない。
だから……
「明日もよろしくな、柚月」
【TIMESTAMP_ERROR アルセニコン・浦・鬼里邸前】
「ほらほら一体どうしました!?
妖魔に歯向かおうだなんて百年早いですよ!!」
八朝が無限に湧く雷を挨星歩で躱す。
それだけで精一杯で、妖魔と化した『若』と苦戦している。
思った以上に強くなっているのはどういう理屈なのか?
(あっ……)
いつも通りに『手』を動かそうとして思い知る。
自分はもう『妖精』じゃない、だから妖精魔術が使えない。
その手にあるのは柚月が愛用した杖。
でも、これの使い方が全く分からない。
(どうしよう……どうしよう!
このままじゃ、ふうちゃんが……!)
必死に柚月の分析データを思い出そうとする。
だが、確かな肉の感触が『あの時』の記憶の邪魔をする。
どうあがいても風水刀法の使い方を思い出せない。
「……ッ!」
段々と八朝が追い詰められていく。
いや、アレは単にそうした方が『情報』を集めやすいだけ。
妖魔の攻撃を回避し、その妖魔の致命傷となる概念を放つ。
これが八朝の必勝パターンである。
だが、あの時と比べてもその精度が段違いに良くなっている。
人を、妖魔を、殺す度に自分の戦術に磨きをかけていく。
悠長に『瞑想』をやっていた時と比べても格段に強いのだ。
「貴方避けるだけしか能が無いのですか!?
そうですよね、桔梗を見殺しにしたクソ野郎なのですから!」
『若』が編み上げた『力の降下』を叩きつける。
即ち、あらゆる呪詛を龍脈に流し込んで空間を穢し尽くす。
更に妖魔としてのパワーも加わり
風に当たるだけで死病に侵されて、絶命の時まで泡を吹き続ける。
その先端が八朝へと迫る。
「ふうちゃん!」
「……」
八朝が、特に何か思う事なく龍震を放つ。
こちらは龍脈を震わせる技であるが、この場合では訳が違う。
即ち、龍脈に流した筈の呪詛が『若』へと帰り
臓腑を灼く呪詛のカクテルが『若』にどす黒い血を噴き出させた。
「ごぇ……ぇ!」
断末魔と共に『若』が絶命する。
呆気ない結末なのだが、それも当然であった。
八朝の戦闘力の大半は自然回復と精神耐性で構成され
たとえ呪詛返しを食らおうとも、少し休憩すれば復活できるタフさにある。
『若』はそれに気づけず、『呪詛』の腕だけを磨いた結果
自分の放った『呪詛』に耐えきれず、瞬殺されるのは自明の理。
それは、自分だからこそ一瞬で導き出せた殺し方。
「さて、この奥だ」
「ふうちゃん……」
「ん、ああ不安なのか
大丈夫だ、紫府大星を殺す為に準備は尽くした」
八朝が誇らしそうにその『呪物』を掲げる。
犠牲者の肉片を煮詰めて作った蟲の杖。
異能力でだろうが触れた瞬間に身体を腐り落とす。
余りにもあまりな、そんな罪の結晶に私は力なく笑うしかない。
「本当にどうしたんだ柚月、昨日から……」
「ううん、本当に大丈夫だから
あの紫府大星をさっさとやっつけて皆を取り返そう!」
「ああ、ありがとな!」
これも真っ赤な嘘。
私は天ヶ井柚月じゃない、■■■■なんだ。
それに『呪物』を使ったら私は……
柚月の身体に居座る私はもう用済みなのだから……
「……」
アルセニコンの唯一の生き残り、紫府大星。
ふうちゃんを怒らせたのが全ての間違いだった。
だってふうちゃんは、私の為に……
だから本当は怒らせちゃいけなかった。
そんなくだらない事の為に死ぬのは可哀想と思う、でも……
でも………………
【TIMESTAMP_ERROR アルセニコン・浦・鬼里邸】
『ごぼぉ……!』
敗者が血を吐いて倒れ伏す。
青い顔で、命を零しながら、己の身に降りかかった理不尽を呪う。
私の杖から血が滴り落ちる。
漸く思い出したその力で全てを終わらせたのだ。
……ふうちゃん、を
『ほほう、貴様も中々であるな』
「どう……して……」
ふうちゃんの視線を感じたくない。
でも最後まで間違えたのが全部間違いだった。
そう、最初から間違えたのだ。
ふうちゃんが思い出したものの中で一番曖昧な部分。
記憶の中の少女……それはふうちゃんの中では柚月だった。
でも事実は異なる、半分ぐらいは。
『その混ざり具合、妖魔と遜色が無い』
「な……!?」
目を背けた筈の私の顎を持ち上げる紫府大星。
その眼には確かに慈悲を感じさせるものがあった。
ああ、彼女も本当は……
でも持ち出した『石』を私に使おうとして思わず叫ぶ。
「そんな、話が違う!
ふうちゃんを助けてくれないの!?」
『貴様の方が適任……故に塵芥は用済みだ』
必死にもがいて『石』から逃れようとする。
自分はふうちゃんを捨てたが、人としての存在までは失いたくない。
だってこの身体は柚月の……
『ふむ、やはり尚早であったか』
唐突に解放されて、私は咳き込む。
石が使われた様子はなく、五体満足に涙が浮かぶ。
滲んだ視界の中で、紫府大星がふうちゃんへと歩み寄る。
右手には客星の輝き、殺すつもりなのだろう。
「やめて! 私が妖魔になってもいい!
だから、だからふうちゃんだけは助けて! お願い!!」
『それなのだ、その慈悲が邪魔なのだ
妖魔たる者、人としての性を捨てねばならぬ』
『故に汝を人たらんとする楔、この塵芥を殺す』
私は必死で叫ぶ。
それだけは、それだけは許さない。
折角幸せを手にしたのに、歪んでいても穏やかだったのに。
『あの島』で得られなかった全てを体験しようとしているのに。
だから力の限り叫ぶ。
手を使えばいいのに、それすらも忘れて。
「あ……」
湿った音と共にふうちゃんが絶命する。
臨死の最中、ふうちゃんが呟いた一言に私の心が壊れる。
シノミヤ……と
『では新たなる妖魔の誕生を祝おう
犠牲は多大であったが、今は汝の誕生を喜ぼう』
あっさりと石が埋め込まれる。
私の涙が、まるで世界を飲み込む様な豪雨となって顕現する。
『ほう、『雨』を襲名するか
益々興味が湧いたぞ、我と共に永き世を生きよう』
『そして語り聞かせよう
我々の物語を、遍く全ての妖魔に……!』
◆◇◆◇◆◇
DATA_ERROR
Interest RAT
NORMALEND3 人違い - Mistakting Faces
END
こちらは、エリス視点のその後となります
または、違った形の『過ち』であります
BADENDが『善意』による地獄であったなら
こちらは純粋な『消費』による人でなしの物語
混乱する主人公に真実が降りることは無く
それでも発狂する記憶の海から一かけらの光を手にする
主人公は、この結末まで記憶遡行で把握しています
さて、それをどう扱うのか、それがどんな未来に通じているのか……




