Case 90-0-1:Root D END1
2021年8月28日 完成(10分遅刻)
Case 89-5-1の続きとなります
あの日以来八朝は篠鶴市から姿を消した。
いや、正しくは『八朝風太』ではないものに変生し、猛威を振るっていた……
【4月1日(水)・昼(14:28) 篠鶴市・地名情報取得ERROR】
ごうごうと吹き荒れる。
平和な街中では有り得ない風の唸り声。
朽ちた鉄骨が螺子以外に固定されずふらふらと彷徨い
風ではなく鉄を腐らせる『濃霧』が音を立てながら空を満たす。
ここは篠鶴市……だったもの。
現在の呼称は『目くらの霧』
彼が一人で作り上げた『死なず』の地獄であった。
『あ……ぁ……』
『うう……ぅ……あ』
『……』
住民が正気を失い、何人かは心臓を貫かれながら彷徨する。
『死なず』と呼称したのは、このように住民が死なないからである。
不老不死とは人類の夢の一つではあるが、それは人類の手で叶えるもの。
このように『人』としての性質を失ってまで欲しいという物好きはそうそういない。
即ち、ここの住民は永遠に末節を穢し続けているのである。
「……まさかここまでだったなんて」
この霧の中で少女が呆然と呟く。
いつか見た篠鶴市の風景と何一つ合っていない。
第一、海から離れている筈の『南抑川』で潮の匂いが満ちている。
これではまるで絶海の孤島のようであった。
「だから言ったでしょう
あの『呪われた島』の関係者は生かしてはいけないって」
「でもちょっとは期待したんだよ
私より『魔術』のセンスはあるし、もしかしたらって……」
「その結果が紫府大星より酷い地獄の顕現よ
これに懲りたら、貴方もそのいい加減な性格を直したらどうかしら?」
少女……いや、八卦切通から赴いた妖魔退治の専門家。
『退魔師』の二人の内、文字魔法の使い手・鍵宮理世。
流石に彼女もこの惨状には懲りたのか、らしくなく素直に頷く。
「そうだね、早く『来迎』を殺さなくちゃね」
来迎とはこの霧を引き起こした妖魔の名。
霧に閉ざされた峰の上にて、自らの影が虹の光背を持つように見える天象。
古くはそれを『釈迦の御来迎』と呼んで信仰していたという。
故に『御』を付けぬのは、影を落とす者が仏道に背くが故である。
そう紫府大星が皮肉ったのは的を射ていた。
人から死を取り上げられる六道とは『地獄』の他に存在しない。
「ところで、もう篠鶴じゃなくなったけど
なら今いる場所とか分かってるの、理世?」
「勿論、だってここって『アレ』の記憶とそっくりじゃん!」
鍵宮が真下の土道を指差し、そのまま地平線へ。
そこには背の低い瓦葺きの平屋や、ごく小規模のビルが並んでいた。
一回転する内の一瞬。
桟橋らしきものが映っていた。
「……へぇ、良く分かったじゃない」
「へへ、当然でしょ! まあ勘なんだけど……」
通信用のお札が、まるで通話主の呆れを反映するように草臥れる。
先程の注意が全く活かされないどころか、その短所で本質を付いたのである。
自分が馬鹿を言ったみたいで居たたまれなくなる。
「それじゃあ『アレ』がいるのは」
「うん、犬飼神社だね」
山の中腹に原生の林と異なる木種のエリアが存在している。
それは犬飼神社の境内を分ける鎮守の森、そしてそこに『アレ』がいる。
「それじゃあ次は着いてからね!」
札を真っ二つに切り裂いて魔術を途絶させる。
そうしなければ『アレ』が魔術を悪用して相棒を呪詛する。
何しろ霧の主は『呪詛』で一気に680人も殺戮した事がある。
魔術に関しては厳重に取り扱う必要があった。
「んーでもどっちだろう
おにさんこちらてのなるほうへっ! こっち!」
謎の言葉遊びを弄して方角をテキトーに決める。
実の所、鷹狗ヶ島の全ての道は犬飼神社へと通じているので
こんなテキトーな進み方をしてもいずれは辿り着けるのである。
そう……いずれは、である。
「……もー! 3時間は歩いたよ! なんで!!」
おかしい、どれだけ歩いても景色が代り映えしない。
まるで騙し絵のような背景に鍵宮がとうとう音を上げた。
「当たり前でしょ
もうこの霧は『東京』まで届いているんだから」
「え……そんなにも!?」
ざっと300km以上、確かにいつまで経っても辿り着かない筈だった。
そしてこの情報も3時間前のものであるので今頃は更に拡大している。
徐々にその領域を広げながら、人々を鷹狗ヶ島に閉じ込める。
ここまで来ると巷で話題の顕現級と大差が無かった。
「もーいい! 使っちゃうもん!」
「馬鹿! やめな……」
瞬間に通話が断ち切られる。
それ程までに速い『移動魔術』によって大地を駆ける。
本来なら一山を一息で駆け抜ける神速の力であるが
それで漸く全力疾走した時の背景の流れしか感じられない。
おまけに、魔術の掛かっている足裏から気持ち悪い気配が沸き上がる。
『……ッ!』
魔術を無理矢理断ち切り、大地に転がる。
制動も魔術に頼る為、こうする他に停止できる術が無い。
やがて、石畳の上で転倒がようやく収まる。
「いった……ああ、ここなんだ」
そこには悍ましい建物が存在した。
既に社殿は土砂崩れで半壊し、屋根に巨木が貫いている。
既に廃された寺社と言われてもおかしくない惨状であった。
そして、石畳以外の地面から青白い手がゆらゆらと揺れている。
屈曲し大地を掴みながら社殿へ向かうも
聖木の社殿に触れるや否や絶叫と共に焼け落ちる。
「お邪魔しまー……ッ?!」
社殿の扉を開けた途端、見知らぬ施設へと背景が変わる。
穏やかな青空に、開放感のある廊下の窓と、並ぶクラスの戸口。
窓の下にはいつもの体育の授業なのか生徒達がグラウンドを走り
ふと気がつくと廊下やクラスの中から夥しい人の話し声が聞こえてくる。
在りし日の篠鶴学園がそこにあった。
「……気持ち悪い
こんなんで罪滅ぼしだと思ってるの!?」
そう、これは『アレ』が目指した日常の姿。
課題から逃れ、誰もが等しく青春を謳歌する学園生活。
だが、そこに致命的に足りないものがある。
例えばグラウンド、一人だけ走るのが遅くて置いてきぼりを食らう。
すると謎の人物が突然現れて何かを囁く。
そして最後尾の人は集団を追い越す足を手に入れ……
それが最後尾が発生する度に繰り返される。
つまりは、単に『犠牲』が許されないだけのものであった。
「外の『犠牲』に見て見ぬふり
ホントに浅はかなんだよね、三刀坂さん?」
鍵宮が唐突にそこら辺の生徒に話しかける。
三刀坂と呼ばれた少女は長髪を翻し、話に応じる。
「ん、見ない顔だね?
どうしたの、迷っちゃったの?」
「うん、八朝風太って人の所知ってる?」
「んー……」
「誰かな、その人」
一瞬空気が止まった気がした。
これだけの理想郷を作っておきながら、その主の存在が消されている。
「そっか、じゃあね」
既に肉体が醜く溶け落ちていた三刀坂と別れ
それ以外の『死体』達に同様の質問を投げかける。
誰一人として、彼の存在を知っていなかった。
(何なのコイツ……自分で作っておきながら引きこもっているワケ!?)
外部の仕業なのだと疑ったが、災害と化した彼に太刀打ちは不可能。
意図して自分の存在を徹底的に排除しているようであった。
一番いそうな第二異能部にも姿は無かった。
「ここにいなかったら何処にいるの……よ?」
やけっぱちに正門に突っ込むと、そのまま橋へと通り抜けた。
どうやら帰宅経路は存在していたらしい、ならば更に疑わしい場所がある。
(……自分の部屋かな)
引きこもりらしく、太陽喫茶の奥深く。
そこにいるのだと決めつけて鍵宮が疾駆する。
太陽喫茶の戸を開けると
外観には似つかわしくない畳の大広間が現れた。
その中心に、首を吊った人影が一つあった。
舌を出して苦悶の表情のまま息絶えた八朝風太であった。
「ねえ、お前は一体何がしたかったの?
説明も無しに色んな人を犠牲にして一人だけ死ぬとか絶対に許さない!」
縄を切り裂き、倒れ伏した八朝の胸倉を掴む。
瞳に光は無くとも、視線の感覚をひしひしと感じる。
「舌を出すな! 死んだふりをするな!!
いいから説明しろってんだこのクソ野郎が!!!」
筋力増強の魔法で力任せに八朝を投げつける。
部屋の片隅の本棚を道連れにしてずるずると崩れ去る。
投げ出された手の甲を踏み抜いて痛覚を与える。
「二度は言わない、さっさと答えろ」
鍵宮がひた隠しにする本性を晒して問い詰める。
ここまでして漸く『彼』からの弁明を聞くことができた。
おれが……いなければ……と
「うん、でもお前はもういる
この罪も帳消しにはならない、二度目は絶対に許されない」
それは八朝の過去を弓で射るように言い放ち
彼から狂気の『仮面』を涙で剥がしていく。
「いやだ、しにたくない
せっかく、しあわせになれたのに……」
それでも鍵宮は粛々と抹殺の魔法の手筈を整える。
この風景は人の世にあってはいけない、たとえどんな理屈があろうとも。
故に、その短刀を八朝に突き付ける。
「これが、これがあれば……」
一転して縋るように刃に触れようとした八朝。
逃れるように短刀を振り上げ、冷酷な瞳で彼を睨んだ。
「何一つお前の思い通りにはさせない、それがお前の罪……」
八朝が再び助けを求める目つきになる。
それが変わらぬ内に短刀で頭を切り裂いて絶命させる。
そして天象は泣き叫ぶように崩壊した。
木々を街並みを清らかな清流を犠牲者の血肉で穢しながら。
◆◇◆◇◆◇
DATA_ERROR
Interest RAT
BADEND ?? 隠遁 - Moratriam
END
これにてRootDを終了させていただきます
はい、こちらでは『過ち再び』というテーマとなっています
主人公は『ある理由』で島の全住民を殺し尽くした
それが『天象』となって再現された、しかも全国規模で……
無論、退魔師が来た時には全て手遅れでした




