Case 89-6-2
2021年8月27日 完成
Case 89-5-2にて②を選んだ方はこちらからお読みください
八朝が契約の言葉を叫ぶ。
その結末は、如何なる未来を引き寄せたのか……
【記憶遡行処理継続:Case 89-6-2】
叫びと共に災害は終了した。
闇色の帳も、焼き尽くす星も幻のように消えた。
全てが消え失せた。
『……成程よな、如何にも貴様は人間らしい』
信じ難い事に、紫府大星は生き残っていた。
確かに彼女の胸には血を滴らせる大穴、致命傷に違いない。
だが、穴の中心に星光の如き破片が浮いていた。
それが妖魔としての『核』なのだと理解するのに時間は要らない。
それはつまり……
「……」
『汝の力が雑魚と比べても劣るとは知っていた
故に他者の力を借り、分を弁えぬ理想を追い求める』
『甚だ、愚か
妖魔にも値せぬ』
それだけ言って去ろうとする。
冗談ではなかった、ここでコイツを見逃しては……
「おい!」
だが、彼我を分けるように猛炎の壁が立ち上る。
それは爆風の如く万物を吹き飛ばし、焦熱の如く八朝の罪を苛む。
……現実を知れ、と。
『何か用か、塵芥』
「お前をここから逃がさねぇ!」
『やれるものならやってみせるがいい
尤も、『妖精』の加護無き今の塵芥には無理な話であるが』
妖魔の挑発に乗って、炎の壁へ猪突猛進する。
だが、一瞬にして後悔することになった。
「……ッ!」
熱い寒い苦しい痛い辛い寂しい消える理不尽な
炎は八朝が体験したあらゆる苦痛を足してもまだ足りない。
心が折れそうになる。
一歩引けば楽になる、そうだ一歩引けば……
『それが、お前の全てであるな』
八朝が弾かれるように炎の壁から離れる。
すると同時に炎の壁と紫府大星まで消え失せた。
「……ッ! 畜生……ッ!」
見逃された、それどころではない。
どうでもいいもの、として切り捨てられた。
自分は仲間の全てを失いながら、余りにも理不尽な。
だが、今の自分に紫府大星を止める術は確かに存在しない。
『ふうちゃん! ってもう終わったの?』
「……そうだな」
『じゃあ、皆の所に……』
エリスの言葉を無視して逃げるように辰之中を去ろうとする。
だが、状況を理解できないエリスは何としてでも引き留めようとする。
『待ってふうちゃん、そっちは反対だよ!
みんな待っているから早くこっちに……!』
「いや、こっちで合っている」
その一言にエリスが言葉を無くす。
同時に八朝もエリスの損傷具合に内心で呻く。
エリスは助けを呼ぶために沈降帯の炎に挑んだ筈だ。
それは最初の南壁で大量に横たわっていた死体たちと同じ目に遭った。
無事であるわけがなかった。
『ふうちゃん……でも……』
「安心しろ、ここにはいないだけだ
妖魔の攻撃で散り散りになって彷徨っている」
『え……!?』
「それも紫府大星に会えば、奴を殺せば全てが解決する」
最早八朝にエリスの言葉が届いていない。
それは、まさに『あの時』に見た彼の如く……
(……ッ!)
その回路の中に何が去来したのか。
もし、人と同じ手が残されていたなら、恐らくは握り締めた筈だ。
決意と、罪悪感を以て。
『うん、ふうちゃん
あの紫府大星に会って皆を解放してもらおうね!』
エリスの言葉と共に、既に静かになった辰之中を抜ける。
そこには、多分知り合いだった二人の姿があった。
「八朝さん、よくご無事で!」
「……」
「里塚先輩については安心してください
すんでのところで『解呪』が間に合って御覧の通り無事です」
「……」
「八朝さん……?」
八朝はそんな彼等からするりと抜けるように。
あの時の紫府大星の如く、一顧だにしないまま去っていく。
「ま、待ってください!
本当に何があったんですか!?」
「……」
「おかしいと思ってました
■■■■■の契約がまだ残っているのに天象だけが消え失せて……」
「……ああ」
漸く一言目を発したかと思えばこの有様である。
二人して八朝の異様な変化に思わず呻く。
金魚の糞のようについていく端末については特に変わりない。
「本当は何があったんですか、教えてください!」
「……」
痺れを切らした部長が代わりに八朝の胸倉を掴む。
自身も激しい火傷に苛まれながら、よくもまあそんな力がと感心する。
「答えなさい……
第二異能部では……報連相が、大事……だって!」
『ふうちゃん……』
エリスの催促もあって漸く答える事にする。
本当なら今すぐにでも八卦切通の向こう側に向かいたいが
取り敢えず、この『二人』について純粋な疑問を投げる事にする。
「ところで、アンタ達は誰だ」
◆◇◆◇◆◇
DATA_ERROR
Interest RAT
Chapter 89-d2 灰燼 - Combusted
END
これにてCase89、契約の回を終了させていただきます
……まあ、語ることは特にないですね
このルートDは言うなれば『過去の再演』でもあるので
これは毛色の違った過去
さて、主人公は如何なる道へと歩み出したのか
明日のCase 90-0-2をお待ちください




