Case 89-4
2021年8月26日 完成(2時間以上遅刻)&ストーリー変更
天象の力により柚月も座山挨星歩も無効化される。
何もかもが歯が立たない状況下で、聞き覚えのある声が次々とやってきて……
【縲取怦縺ョ鬢ィ縲 丞燕繝サ霎ー荵倶クュ】
『……小癪なッ!』
紫府大星を覆うように疎らな闇色の帳が降りていく。
それは魔力ではなく、紫府大星と同種の『超重力』による怪現象。
「三刀坂!」
「あっ、やっぱ戻ってきたじゃん!
鳴下さんも大げさすぎるよー」
「……本当に戻ってきたのですね」
三刀坂が闇属性電子魔術で釘付けになり
代わりに鳴下がこちらに駆け寄って来る。
方や気楽そうに、方や事情を知った上で驚愕している。
ともあれ、彼女たちが的確に紫府大星を攻撃できている理由が分からない。
「ああ、そうだが……三刀坂達もどうして……」
「そんなの……八朝君がいるに……」
「そういうことを聞いてないと思いますわ
大方、勝ち目も無いのにこっちに来ている理由でしょう?」
八朝が首肯すると鳴下が溜息を吐く。
どうやら自分たちがいないうちに何か問題事が起きていたらしい。
「……まさか、偽天使の石が」
「そうではありませんわ
強いて言うなら貴方の兄貴分を名乗る不審者からのお節介ですわ」
曰く、八朝達が八卦切通の向こう側に消えて一夜。
辰之中に古の災害たる『妖魔』が蔓延する事態が起きたという。
無主物の偽天使の石から孵ったそれらは
異能力者に少なからずの痛手を与えながら、一つの教訓を残してくれた。
「……妖魔天象には、魔術以外が効く
ですので三刀坂さんみたいなのが適任なのです」
「なるほどな、結局は龍脈を使う俺達はそれが焼かれた時点で……」
「龍脈が焼かれたって何ですの……?」
鳴下の質問に、先程『龍眼』で確認した風景を伝える。
彼女はようやく得心がいったように顔を歪める。
「聞きしに及ぶ『妖魔』ですわね……」
「ああ、だが打開策は無くは無い」
八朝が鳴下にある作戦を伝える。
それは致命的に時間のかかる方法であるが、確実性はあるものであった。
故に鳴下は頭の痛い思いをする。
「ええ、確実ですが三刀坂さんも既に疲れ切ってます
精々3分、その間にこの沈降帯の四隅に柱を立てるだなんて」
「……いや、可能な人物を知っている」
すると八朝が三刀坂に一か八か頼み込む。
「三刀坂! 神出来を呼べるか!?」
「縁ちゃんならもう来てるよ!」
そう言った瞬間、目の前の地面に鳥居のマークが出現し
その中から神出来が這い出てくる、無論不審そうな顔をしながら。
「今は急いでいる……済まないが俺達を」
「……別にいいですよ、外ならぬすずちゃん先輩の頼みですし」
そして八朝達を鳥居の中に沈め、落ちるように空間を飛ぶ。
一つ目、即ち沈降帯の南端部分は有り得ぬ色をしていた。
「え……何これ知らないんだけ……」
ふと足元に見てはいけないものが夥しく映る。
神出来は何とか踏みとどまったが
こんな所にそうそう長く居続けるわけにはいかない。
「結局柱を立てるってどういう事?
依代だったらご覧の通り焼け落ちると思うんだけど」
「そうだな……」
妖魔の意図していない罠が八朝の作戦の土台を破壊しつくす。
途方に暮れる八朝の裾を柚月が引っ張る。
「……何かあるのか」
「え、あの……その……
ふうちゃんって、依代をかえられる、よね?」
「そうだな、霧が関わっているものなら……」
その瞬間に何をすべきか閃く。
神出来を尻目に柚月の杖を受け取る。
「ちょ……!? 何やって……」
『我より袂を分かち
果ての汝よ、形なく意味を為せ』
八朝が杖に付加した性質は聖痕。
それは次なる状態異常が必中となる物であるが、それだけでは意味が無い。
『方違・騰蛇相纏!』
龍脈無き大地で神楽を舞っても意味は無い
それは柚月も既に痛いほど体感していた。
だが、聖痕の性質が
或いは『水』とも呼称されるそれが
炎の壁の一角を完全に鎮火させてしまった。
「えっ?! それ確か使えなかったんじゃ……」
『我より袂を分かち、果ての天球に至れ!』
その詠唱と霧で一本の真っ黒な柱を立てる。
それを確認するや否や、神出来に次なる場所を指示する。
(ちょっと待って、確かコイツの枠の数は……)
その疑問を飲み込んで東も同様に、そして3つ目。
北の端の炎の壁を沈めた後、八朝は現実に直面する。
「柚月……本当にいいのか?」
何も言葉を発さずに力強く頷く。
これから空気を奪われる恐怖に晒される人にあるまじき決意の顔。
逆に神出来が耐えられなくなる。
「ねえ、貴方の後遺症はもう聞いてるわ、それでも……!」
「しんぱいしてくれて、ありがと」
もう既に残り時間は30秒にも満たない。
闇色の帳が不安定にその煌めきを瞬き始める。
俺は……
①柚月の杖から霧を取り除く
②何もできずに逡巡してしまう
続きます
次で分岐いたします




