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Case 89-3

2021年8月24日 完成


 七殺(ザミディムラ)の策略を掻い潜り、紫府大星が来る。

 圧倒的な力の差の前で、戦いの火蓋が切って落とされようとする……




【■月1■日(■)・■(■■:■■) 『月の館』前・辰之中】




 残り400秒、それだけで大地は橙色巨星(コカブ)の光球に飲み込まれる。

 既に十数秒、北天の空に太陽の如き点光源が出現した。


『既に、貴様らの力は見切っている

 万物の理を一旦捻じ曲げる方違術、確かに脅威であろう』


『だが、それだけだ

 理外の客星に、陰陽十神が対応しているとでも?』


 その言葉は柚月(ゆづき)は疎か八朝(やとも)すら理解している。

 特に、今の燃え尽きた状況が全てを物語っている。


(目を閉じても、龍脈が一切見えない)


 どこかの推命術では、圧倒的に強い干神によって法則が捻じ曲げられる。

 旺と弱の中間を目指す理の筈が、それの前では偏る事を喜とする。


 即ち一行得気、或いは炎上と称される。


 夜の帳はこじ開けられ、地の冠水は沸して渇き、龍脈は既に途絶えた。

 正に天上の星熱が全てを支配する、理外の風景がそこにあった。


『座山挨星歩、破れたり』


 八朝(やとも)は目の前に紫府大星が迫ってきたことに気付けなかった。

 だが、妖魔の身体に無数の赤い線が走った。


『……ッ!』


 彼を消し飛ばそうとした右手が既に遠くで待ち惚け。

 だが鮮やかに切り裂かれ骨が露出している事を好機とし、攻撃を継続する。


「ふうちゃん!」

『!? ■■(kap)!』


 八朝(やとも)は一枠を犠牲にするのを厭わずに絵本(kap)を呼び出す。

 開かれたページの上に無数に走る『歯』の如きポップに妖魔の腕断面が刺さる。


 だが一撃の威力が弱まることは無く

 妖魔の一撃は八朝(やとも)の左肘から先を吹き飛ばした。


「……ぁぁぁあああああああ!!!」


 八朝(やとも)は既に目を開ける事すら不可能な苦痛に襲われる。

 腕を寸断される激痛に、依代(アーム)の『原状回復』の為の罰則(ペイン)


 そこに魔風の『病魔』が襲い掛かり、倒れそうになる。


『ふうちゃん!』

「……だ、安心……しろ……」


 目が開けられない八朝(やとも)柚月(ゆづき)の決意の目を見落とす。


 彼等がどれほど人間に親しくとも

 戯れで殺戮する妖魔の本性は決して人と相容れるところは無い。


 ゆっくりと八朝(やとも)を寝かせた後

 柚月(ゆづき)は猛然と紫府大星へと近接戦を仕掛けた。


(まずい……『(kap)』で弱らせ、ても……まだ……!)


 魔力の迸る音、杖からは有り得ぬ剣戟の響き。

 だがそれ以上に妖魔が大地を抉り、空を穿つ轟音に何一つ勝るところは無い。


 柚月(ゆづき)のみで勝つ確率は、残念ながら……


(ふざ、ける……な!)


 八朝(やとも)は、未だに動かせる口で誰かを呼ぶ。


「■■■……」

■■■■■(ふうちゃん)!?』

■■(頼む)■■■(だれか)……■■■(たすけ)()……」


 胸ポケットからするすると抜けていく感触がする。

 恐らくエリスが八朝(やとも)から逃れ、最後の言葉を聞いてくれたのだろうか。


 だが、段々と状況は悪化していく。

 紫府大星に抗う柚月(ゆづき)の戦闘音が、段々とか細く薄れていく。


(そんな……)


 策は持ってきた筈なのに、悉く不発。

 紫府大星を見た目通り(・・・・・)評価してしまったのが全ての間違い。


 消えゆく苦痛(いしき)の中で、再び来ない反撃の好機に臍を噛む。

 唯一の心残りは、柚月(ゆづき)をまた一人にしてしまったことぐらいか……




 正にその通りで

 今まで八朝(やとも)を苛んだ苦痛が全て残らず消滅した。




「うっわ、グッロ……

 本当に左腕吹っ飛んでるじゃん、よくやるわホント」


 目を開けるとそこには意外な人物の姿があった。

 車寺春香(くるまでらはるか)、『笑う卵(ヴィヒテルドライ)』にて対立した詐欺師の女。


 そして手元で赤い光が見えていた。


「何が……目的だ……?」

「その言い方する?

 だったらこのまま止めて左腕が現代アートになっても私的には良いんだけど」

「……いや、寧ろ感謝したいんだが、理由が」

「それこそ聞く必要が無いでしょ、そもそもこれってそういう使い方だし」


 車寺(くるまでら)偽天使の石(アルキャッザーブ)で治療してくれている。

 やがて左腕が元通りになると石がぱきりと砕けて砂になった。


「あ、割れた」

「助かった、この借りは……」

「いらんいらん気持ち悪い

 あっでも『笑う卵(ヴィヒテルドライ)』用意してくれるならもうちょっと……」


 車寺(くるまでら)の文句を無視して柚月(ゆづき)の元へと駆け寄る。

 既に剣戟は3秒に一回、瓦解寸前の柚月(ゆづき)をどう助けるか。


(……まずは修復、それからだ!)


 柚月(ゆづき)の姿を捉える。

 だがそこには紫府大星がトドメの一撃を入れようとするシーン。


 世界が止まったかのような絶望の中で、誰かの声が聞こえた。




「よう、相変わらず馬鹿やってるらしーな」




 柚月(ゆづき)を掠め、明かに紫府大星を焼き滅ぼそうとする熱の奔流。

 その源に、立方体型の星座を輝かせる男の姿があった。


沓田(くつだ)……なのか……?」

「それ以外の何だって言うんだ

 アレか、クラスメートの名前を忘れる程の薄情者だってのか?」


 八朝(やとも)の否定の返しにも然程の興味を見せない。

 この時間軸では赤の他人の筈の沓田(くつだ)に背中を叩かれる。


「お前にはやるべきことがあるんだろ、余所見をしてんじゃねぇ」

「……恩に着る」


 窒息で身体を丸めている柚月(ゆづき)に駆け寄り

 すぐさまに(アーム)を自らの(taw)で補修する。


 完了と共に弾かれるような欠伸と咳、どうやら無事であったらしい。


「ふう……ちゃん……」

「すまん、遅れてしまった」


 その視線の先で紫府大星と沓田(くつだ)の小競り合いが続く。

 こちらの視線に気付いた沓田(くつだ)が凶悪な笑みを向けて叫ぶ。


「感謝するなら、頭下げまくったお前んとこの部長にするんだな!」

『余所見をしている場合か、塵芥』


 残念ながら紫府大星の言の方が正しい。

 既に背後を取られ、沓田(くつだ)の命は風前の灯といっても過言でなく。


 八朝(やとも)が手を伸ばす寸前、更に聞き覚えのある詠唱(こえ)が響く。




『この者に三千の咎あり

 呵責なく地獄の業火へと焼べよ!』




続きます

ここに来て勢揃いのようですね

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